みなさんはLGBTQという言葉を耳にしたことはありますか?LGBTQとはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア/クエスチョニングの頭文字であり、広く性的マイノリティを表す言葉としても使用されています。
LGBTQという言葉はここ数年で広く知られるようになってきましたが、まだまだ理解が十分とはいえない現状です。ここでは組織のダイバーシティを考えるために、まずLGBTQについて理解を深めていきましょう。
まず初めに「マイノリティ」という言葉について、改めて考えてみたいと思います。マイノリティとは「社会的に少数であり、弱い立場に置かれている人たち」を意味して使われます。対してマジョリティとは、より社会で強い立場にあり、多くの力を持つ側のことです。
日本という国で生活する場合を考えてみましょう。例えば、日本で生まれた人はその国で生まれていない人より、障がいを持たない人は障がいがある人より、社会で強い立場に置かれることが多いのではないでしょうか。ジェンダーや性のあり方においても、男性は女性より、異性愛者はそうでない人(同性愛者や両性愛者、無性愛者等)より、シスジェンダー(性自認と身体的性が一致する人)はトランスジェンダー(性自認と身体的性が一致していない人)よりもマジョリティとして強い立場にいることが多いです。
マジョリティの人にとってはあまりに当たり前に過ごしているために、こうした格差の存在には気づかないことが多く、これは「無自覚の特権」と呼ばれています(1)。対して弱い立場に置かれる人は日常生活の中で「ガラスの天井」のように、日々さまざまな困難を経験しています。
こうした格差が社会からなぜ無くならないのでしょうか?その一つの原因として、社会の仕組みや制度を作る、いわゆる権力を持つ人には社会的なマジョリティ性を持つ人が多いことが挙げられます。そのため自身の特権に無自覚になりやすく、気づかないうちに差別や偏見がシステムに組み込まれてしまうのです。
管理職に就かれている方は、組織でのダイバーシティについて考える際に、まずはこうした構造を理解する必要があります。組織がマイノリティにも優しく、多様性を推進していくには、まず管理職の側から進んで自身のマイノリティ性とマジョリティ性を自覚し、無意識のバイアスを認識しながら多様性を学ぶ必要があるのです。
LGBTQの人たちはみなさんにとってどのような存在でしょうか。身近にいる、自分自身がそうである、会ったことがない…きっといろいろな方がいると思います。
それでは、日本ではLGBTQの人は、どれくらいの割合いるのでしょうか?これはいくつかの調査報告がありますが、概ね3〜10%程度(2)といわれています。これは30〜10名に1人はLGBTQである計算になり、日々の業務や日常生活で必ず出会う身近な存在であることがわかると思います。
一方で、LGBTQの人たちが様々な健康上の格差にさらされていることはご存知でしょうか。例えばメンタルヘルス(うつ病や自殺)、HIVをはじめとする性感染症、社会的孤立によるいじめやネグレクト、貧困、高い頻度のリスク行動(喫煙・飲酒・薬物使用)など、様々な問題を抱えることが多いといわれています。こうした背景に、LGBTQの人たちは医療機関の受診において困難を抱えていることが指摘されています。
例えばトランスジェンダーであるために医療・介護機関での対応を断られる、同性パートナーが家族として扱われずに病状説明や付き添いを拒否される、医療・介護スタッフに差別的な言葉をかけられるなどのネガティブな経験が多く報告されており(3)、これは医療スタッフがLGBTQについて適切な知識や態度を持ち合わせていないために、当事者の医療アクセスが悪化していることが考えられます。
問題は患者だけではありません。当然、医療・介護機関で働くスタッフにも、LGBTQの人は必ず存在しています。病院に行きづらい患者と同様、職場で過ごしづらさを感じているスタッフの存在を想像する必要があります。
LGBTQであることを伝えることには様々な困難が伴います。みなさんが知らないのは、「見えないだけ」「声を上げられないだけ」かもしれません。だからこそ、支援者である医療・介護従事者、そして組織の管理者がアドボケイト(代弁・擁護)することが重要なのです。
改めて「性」について考えてみましょう。世の中には男性と女性がいて、当然男性は女性が好きで、女性は男性が好き。その他に、最近はLGBTQという人たちもいるらしい。そのように考える方もいるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。実は人の性というのはもっと複雑なものです。性について考える上で、いくつかの概念を学ぶ必要があります。
ここでは「4つの性」という考え方をご紹介したいと思います。これは、人の性のあり方を
の4つに分けて考えるというものです。
多くの場合は生まれた時の外性器の形状から判断された性が生物学的性として戸籍に登録されます。生まれた時に判断が難しい場合、染色体・ホルモンの状態などから総合的に判断されることもあります。
自分のアイデンティティとして認識する性です。
出生時に指定された性別と性自認が一致する場合シスジェンダー、不一致の場合にトランスジェンダーと呼びます。自認する性が女性でも男性でもない、あるいは変化する人はXジェンダー(ノンバイナリー)と呼びます。
恋愛や性愛の対象となる性です。
異性を好きになる人をヘテロセクシュアル、男性同性愛者をゲイ、女性同性愛者をレズビアンと呼びます。異性・同性どちらも好きになることがある場合、バイセクシュアルと呼びます。
そのほかにも他者に対して恋愛や性的な感情を抱かないアロマンティック/アセクシュアルなど、様々な性的指向があります。
自分をどのような性として表現するかを意味します。着る服の色や選び方、髪型、仕草や振る舞い、一人称の使い方などさまざまな表現がありますが、これらは時代や地域、文化、流行やジェンダー感覚によっても大きく変化します。
いかがでしょうか?ご紹介した中には、知らない呼び名もあったかもしれません。このように性のあり方は非常に多様なもので、これら以外にも、たくさんの性のあり方があります。
また、昨今は「LGBT」ではなく「LGBTQ」という言葉もよく耳にするのではないでしょうか。このQはクィア/クエスチョニングを指します。クィアとは広く性的マイノリティを表す言葉として当事者の間で用いられており、クエスチョニングは自身の性のあり方を探求中、あるいは決めたくない人を指します。
こうした性のあり方について考えるとき、性的指向・性自認についてマイノリティだけの問題ではないことに気づくでしょうか。マジョリティとされているヘテロセクシュアル・シスジェンダーの人にも当然性的指向と性自認は存在しています。このように全ての人に関わることであるという考えから、SOGI(ソジ:Sexual Orientation/Gender Indentity)という表現もダイバーシティ・インクルージョンの考えの中では主流になってきています。
また、こうした性のあり方は「男」「女」の二つだけではなく、その中に様々な性のあり方があるとしてグラデーションという考え方が言われています。また、時間の中で変化することもあり、それも自然なことなのです。
本稿では、LGBTQ(性的マイノリティ)について理解するためには
こうした考え方について、正確に知ることがとても重要であることをお伝えしました。
次回は、人が集まり働く場所としての組織を考える上で必須である、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方について、LGBTQと就労の視点から考えてみたいと思います。
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(1)ダイアン・J・グッドマン(著)、出口真紀子(漢監訳)、田辺希久子(訳), 真のダイバーシティをめざして 特権に無自覚なマジョリティのための社会的公正教育, 上智大学出版
(2)吉田絵理子 他(編集), 医療者のためのLGBTQ講座, 南山堂
(3)LGBT法連合会, 性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト」(第3版)