忙しい日々を過ごす医療従事者にとって、朝のひと時はあわただしくもある時間。
医療従事者は、日勤と夜勤の交代制になることが多く、睡眠時刻や食事の時間が不規則になりがちです。また実は肉体的にもエネルギーを要し、重労働とも言えます。そうした働き方に耐えきれず、精神や体調を崩し職を離れる方もいらっしゃいます。
そのライフスタイル自体を大きく変えることは難しいですが、できるかぎり、より健康的な生活を過ごすには、朝のスタートがまず大切です。朝スッキリ目覚めて心地よく一日が始まると、仕事の効率も上がり、その日一日が良くなりそうな気がしますよね。
本稿では、そんな朝のルーティンのコツをお伝えします。
昨今、生産性の向上などの理由から、朝活が人気となっています。しかし、医療・介護従事者は不規則に交代制や夜勤があるため、毎日早起きをして朝活をするのはなかなかハードルが高いかもしれません。
朝の短い大切な時間をルーティン化することで、交感神経優位に素早くスイッチしましょう。その結果、
ことが期待できます。
日勤の朝に短時間でできる朝のルーティンを紹介します。
体内のリズムを整えるには、朝起きて日光を浴びることが効果的です(1)。 日光を浴びると、眠気を誘導するメラトニンというホルモンが抑制され、心を安定させる働きのあるセロトニンが合成されます。セロトニンには抗うつ作用がありますので、朝に憂鬱を感じる方は特に朝日を浴びる習慣を取り入れてみてください。
実はこの合成されたセロトニンは、夜にメラトニンが分泌されるもとにもなり、眠気を誘導してくれます。さらに、日光を浴びると、正常な骨と歯の発育促進を促すビタミンDが生成されます。この生成に必要な日照時間は15~30分といわれています(2)。
ぜひ、毎日カーテンを開けて日光を有効活用してみましょう。
朝や出勤前に起きたとき体のだるさや痛みに悩まされていませんか?。寝起きにストレッチを行うと、寝ている間の身体のこわばりがほぐれ、頭痛や肩こりの解消に役立ちます。また、寝ている間の固まった筋肉がほぐれ、リンパや血液の流れが促進されるため、むくみの解消にもなります。
加えて、朝のストレッチを、日勤の朝の決まった時間に行ってスッキリ目覚めると、夜も自然と同じ時間に眠気を感じるようになります。生活リズムが一定になると、自律神経のバランスが整うのです。眠気やだるさに悩んでいる方にもお薦めです。
また、深呼吸をしながらラジオ体操や体をひねる動きを取り入れてみるのもお薦めです。あえてストレッチの時間を取らなくても、通勤時にいつもより早歩きをしたり、エスカレータではなく階段を使うのも、自律神経を整えるのに有効です(3)。
これらを前段の日光を浴びながら行うと、より効果的になります。
適量のカフェインは交感神経を刺激し、覚醒を促進します。朝食後にホットコーヒーを飲むと朝から体が動きやすくなるでしょう(4)。
加えて、コーヒーには抗酸化作用、動脈硬化を防ぐ作用、抗うつ効果もあると言われています(3)。
カフェインを多く含む飲み物には、緑茶や紅茶もあります。好みに合わせて摂取するとよいでしょう。
カフェインが苦手なノンカフェイン派の方は、白湯(適温40~70度)もお薦めです。寝ている間は体温を下げ、睡眠を深くするために、コップ一杯以上の汗をかいています。そのため寝起きは血液がドロドロ状態になっています。コップ一杯の白湯を飲むことで、体温が上昇し、サラサラな血液が体に行き渡るようになります(1)。
ちなみに白湯は腸活にも効果的です(3)。
腸の消化力を高め、老廃物を排出してくれるとも言われています。デトックス効果や、便秘の解消なども期待できます。
朝食にはサーカディアンリズムとも呼ばれる「体内リズム」と「生活リズム」を調整する働きがあります。体温を上げ、1日活動するためのエネルギーを生み出すために必要不可欠です(5)。
特に脳のエネルギー源のブドウ糖を朝食でしっかり補給し、脳と体をしっかり目覚めさせましょう。
具体的にはごはんやパンなどの主食がベストです。さらに、ハムやベーコン、魚など、タンパク質を同時に取ることで、血糖値上昇を穏やかにすることができます。 そのためにも、炭水化物に偏った朝食ではなく、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン類をバランスよく摂取することが重要です。朝食をしっかりとることで、交感神経優位となり仕事の集中力を高めることができるのです。
他にもメラトニンのもととなるトリプトファンの含まれる牛乳、納豆、バナナも朝食に適しています(3)。
ドーナツやワッフルなどの甘いものだけで朝食を済ますのはNGです(6)。
甘いジュースだけも適しません。これらのものはほとんどが糖質のため、血糖値が急に上昇するうえに、そのあと急激に降下するため、自律神経が乱れる原因にもなりやすいためです。
生物は地球の自転による24時間周期の昼夜変化に同調して、ほぼ1日の周期で体内環境を積極的に変化させる機能を持っています(7)。
人間においても体温やホルモン分泌などからだの基本的な機能は約24時間のリズムを示すことがわかっています。このリズムはサーカディアンリズムと呼ばれます。
理想的には、毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起床することです。サーカディアンリズムを守った生活をすることは、人間がパフォーマンスを維持・向上するために必要な条件であると言われています。しかし医療・介護従事者では、夜勤などで毎日のサーカディアンリズムに沿った生活をすることは難しくなります。
サーカディアンリズムは睡眠パターンや質を左右していますが、この朝のルーティンを実践し、食事や体温、代謝などを調節することでリズムを取り戻すことができます。
最近、美肌や健康につながると「腸活」が人気です(8)。
腸活の考え方には、2つあります。
善玉菌を含む食品、プロバイオティクスとは、乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌・麹菌・酢酸菌などの善玉菌を含む食品のことです。これらを摂取しても菌は腸に住みつくことはないといわれており、毎日摂取しつづけることが大切です。善玉菌を含む食品は、ヨーグルト、納豆、キムチ、漬物、チーズ、味噌などがあります。
プレバイオティクスとは、オリゴ糖や食物繊維などの善玉菌の栄養となり、増殖を助ける食品のことです。オリゴ糖を含む食品には大豆・たまねぎ・ごぼう・ねぎ・アスパラガス・バナナなどがあります。
食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があります。水溶性食物繊維は、善玉菌のエサになることで、善玉菌の増殖を促進して、腸内での活発な働きをサポートします。水溶性食物繊維を含む食品は、モロヘイヤ、オクラなどのネバネバ野菜、ひじきなどの海藻類、玄米などがあります。
不溶性食物繊維は、大腸内の水分を吸収して便量を増やす、腸を刺激することで蠕動運動を促進して便の排出を助ける、などの働きがあります。不溶性食物繊維を含む食品は、ごぼう、切干大根、ブロッコリー、豆類、きのこ類などがあります。
この腸活を、朝食に取り入れることで、さらに効果的になります。
朝のルーティンはその日一日のスイッチを入れる大事な習慣です。そして食事や運動、睡眠、ストレス発散に目を向けて生活改善することも重要です。
勤務シフト等の関係で、難しい部分もあるかもしれませんが、できる範囲からサーカディアンリズムや腸活を意識し、健康的な生活を整えて、より一層精力的に仕事に取り組めるといいですね。
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(1) 名医が教える自律神経がすっきり整うまいにちいいこと366
小林弘幸 永岡書店,2021
(2) 体内で必要とするビタミンD生成に要する日照時間の推定 -札幌の冬季にはつくばの3倍以上の日光浴が必要-
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2013/20130830/20130830.html
(3) 女性専門の疲労外来ドクターが教える 疲れない大百科
工藤孝文 株式会社ワニブックス,2019
(4) 交易財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/koureisha-shokuji/coffe-kenkokoka.html
(5) 農林水産省「子供の食育」
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/oneday/morning1.html
(7) 厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-039.html
(8) 「知っておきたい正しい腸活」
鳥取大学医学部付属病院 広報誌
https://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/kanijiru/backnumber/vol7/special/30364.html