エピグノジャーナル

2024年に迫る、医師の働き方改革の要点は?B・C水準について

作成者: 平野 翔大|2022/09/20

 

2024年の施行が迫る、医師の働き方改革。
働き方改革関連法自体は2019年4月から適用が開始されていますが、建設・自動車運転・医師のみが「猶予期間」として5年が与えられました。しかし2024年もあと2年後に迫り、具体像が決まりつつあります。実際に2022年診療報酬改定でも、医師の働き方改革に関する項目が評価されています。

しかしCOVID-19などにより、医療逼迫とも言える状況が起きている現在、その取り組みが進んでいないのも現実です。医療機関で重要な業務を担う医師の働き方改革には、病院全体での取り組み、タスクシフティング、他業種の理解なども必要であり、2024年の施行に向けて早急な対策が必要になっています。

本稿では、医師以外の働き方改革にも触れつつ現状を整理し、今後必要な対策、その方法論などについて考えていきます。
第3回は、医師の働き方改革の全体像を解説し、医師の標準的な時間外労働基準とされているA水準ですら、960時間と労働基準法における通常の残業規制(720時間)を超えていること、それに伴い追加の健康確保措置が求められていることを解説しました。
第4回は、特にB・C基準を中心に、指定の概要や条件について解説していきます。


特例的な時間外労働規制(B・C水準)について

 

前回も掲載したこの表が、医師の時間外労働規制の全体像です。A水準・B水準・連携B水準・C-1水準・C-2水準があり、かつ全てにおいてより強い追加的健康配慮措置(表下部)が求められています。
今回はそれぞれの該当医療機関やその基準について詳細を解説していきます。

B水準について

B水準は「地域医療の確保に必要な医療機関」に対する基準であり、指定は都道府県が行います。医療機能に関する要件が認定要件に含まれており、具体的には

  • 「三次救急医療機関」
  • 「二次救急医療機関」かつ「年間救急車受け入れ台数1000台以上、または年間の夜間・休日・時間外入院件数500件以上」かつ「医療計画において5疾病5事業の確保のために必要な役割を担うと位置づけられた医療機関」
  • 「在宅医療において特に積極的な役割を担う医療機関」
  • 「公共性と不確実性が強く働くものとして、都道府県知事が地域医療の確保のために必要と認める医療機関」
  • 特に専門的な知識・技能などが求められる医療機関(高度のがん治療・移植医療・児童精神科など)

とされています。
また連携B水準は、このような病院に対して医師の派遣を行う医療機関であり、大学病院や地域医療支援病院などが想定されています。

B水準で重要なのは、「医療機関全体の指定ではない」点です。「この機能を果たすために、やむなく、予定される時間外・休日労働が年960時間を超える医師」に限定され、上記の医療機能を果たすのに必要な医師のみが対象です。この対象医師については医療機関での36協定締結時に特定するとされており、この際に対象医師が上記に該当する業務であることが合理的に説明できなければなりません。「当院は忙しいから、とりあえず全員B水準で」というようなことは認められず、例えば周産期機能について必要な役割を担っていると認められた病院であれば、産婦人科、小児科や麻酔科ではB水準の適応が認められるかもしれませんが、外科や眼科なども全員B水準を、というのは認められない可能性があるのです。

B水準に指定された場合、年間残業時間は1860時間まで緩和されますが、他の健康確保措置などはA水準同様、ないしより厳しく必須になります。特に「連続勤務時間28時間」「勤務間インターバル9時間」の確保が「努力義務」ではなく「義務」となり、A水準に比べてより強い健康確保措置が求められています。

またB水準について「2035年末までに段階的に解消する」とされており、10年程度の経過措置という側面もあります。3年毎の更新が必要で、認定後も継続的な労働時間短縮の取り組みは求められるため、認定を受ければ問題なし、という考え方は危険です。

C-1水準について

C水準は「集中的な技能訓練が必要な医師が所属する医療機関」が対象となります。まずはその中でも、初期臨床研修・専門研修を対象とするC-1水準について整理していきます。
ポイントは

  • プログラムごとの指定となること(病院全体ではない)
  • プログラムに属するそれぞれの病院で指定が必要なこと
  • プログラム募集時に時間外労働時間の上限を示す必要があること

になります。

C-1水準は初期研修医・専攻医が対象となりますが、現在の(初期)臨床研修プログラムや、専門研修プログラムは全てプログラム制もしくはカリキュラム制となっているので、これらごとに指定がされます。特に臨床研修医では期間で所属科が変わるため、B水準のように診療科ごとの対応が必要だと煩雑となることから、全体のプログラムで定められています。

ただし、申請は病院ごとに行う必要があることに注意が必要です。例えば基幹となる施設ではA水準超えの勤務が生じないが、連携施設ではA水準超えの勤務が生じる場合は、連携施設がC-1認定を受け、プログラムとしてもそれを明記する必要があります。(これを基幹施設が代行することも認められています。)逆に基幹施設では超過するが、連携施設では超過しない場合、施設としては基幹施設のみがC-1認定を受ければ良くなります。逆に「プログラムの基幹施設だけがC-1水準」の状況では、連携施設は例えそのプログラムの一環であっても960時間を超過することはできません。また特に専門研修において、1つの施設で複数のプログラムが存在する場合、それぞれにおいて申請・指定が必要です。

また、これらの指定は募集を開始する前、つまり臨床研修のマッチングや専攻医のプログラムエントリーを開始する前に受けておかねばならない点も重要です。つまり医学生や研修医は、各プログラムにエントリーする段階でその病院がA水準なのか、C-1水準なのかを知ることができ、今後この指定も一つのプログラム選択基準になる可能性が高いと考えられます。

加えて、研修医・専攻医に対する時間外労働規制は全てC-1基準に該当するため、他のB水準を取得している病院であっても、C-1水準を取得しなければ研修医・専攻医を960時間以上働かせることはできません。(付記:専攻医でプログラム内の業務でないことが明らかな業務については、B水準を適応することは可能という解釈は出ていますが、これについて合理的な説明が対外的にできることは求められます)

なお臨床研修プログラムでは審査・指定どちらも都道府県で行いますが、専門研修プログラムでは各学会・日本専門医機構が審査し、都道府県が指定を行うという違いがあります。また初期研修では勤務間インターバルなどの追加的健康確保措置がより厳しく求められており、この違いについて押さえるのも重要です。

C-2水準について

C-2水準は以下の表にあるような技能の修得のため必要な場合に、医師免許取得6年目以降の医師が、「本人の発意で計画を作成」し、「医療機関が審査組織に申請」するという枠組みになっています。当然、その技術の修得に必要な指導体制・施設認定などが求められており、かつ個別に必要性を審議する形であるため、プログラムや医療機関単位で申請を行う他水準とは少し意味合いが異なります。



この技能の審査においては、厚生労働省が委託した審査組織(詳細未定)が、各学会などの協力を得て決定すると共に、C-2水準の各医療機関への指定可否についても審査を行うこととなっています。

この他にもB・C水準には細かな要件が定められています。詳細については厚生労働省審議会の資料などをご覧ください。

追加的健康確保措置について

前述したB・連携B・C-1・C-2水準全てにおいて、A水準より厳しい健康確保措置が求められています。
詳しくは前回の記事に記載しましたが、

  • 連続勤務時間28時間まで
  • 当直明けの勤務間インターバル18時間
  • 通常時の勤務間インターバル9時間
  • 月時間外労働時間が100時間を超える前に産業医・指定医師による面接指導
これらの対応がA水準では「努力義務」であるのに対し、B・C水準では「義務」となり、特にこれらの対応は遵守が求められます。一朝一夕で整備できるものではありませんので、2024年に向けて、早期の対応が求められます。

 

医師労働時間短縮計画について

医師の働き方改革において、今回の法規制は「ターニングポイント」であり、「完成像」ではありません。第1,2回の記事で述べたように、A水準の960時間ですら、労働基準法からすれば法外の労働時間であるため、1860時間となる他基準については、将来的には廃止・縮減の方向性が明確に示されています。
特にB・連携Bについては「2035年度末を目標に解消」と明言されていますし、C水準も1860時間から縮減する方針が示されています。そしてこのために重要なのが「医師労働時間短縮計画」であり、B・C水準の指定を受けるために最も重要な資料です。

医師労働時間短縮計画の具体像

「医師労働時間短縮計画」はもちろん将来のための計画ではありますが、同時にB・C水準の指定においても必要な書類の1つです。そもそもこのB・C水準の指定は、「ここに自ら書いた取り組みを実施し、労働時間短縮に取り組んではいるものの、現状の地域事情や研修環境から960時間を超える労働を行うことがやむを得ない場合」に、「例外規定」として認められるものです。この短縮計画は指定の上での「大前提」ともいえます。
医師労働時間短縮計画の具体的内容は、ガイドライン(1)にて以下のように示されています。

1.必須記載事項

  • 労働時間数(前年度実績・当年度目標・計画期間終了年度の目標)
  • 労務管理・健康管理(労働時間管理方法や36協定・追加的健康確保措置について)
  • 意識改革・啓発(働き方改革に関する研修や説明)
  • 策定プロセス(各職種・労使で検討したか、医師に周知されているか)

2.任意記載事項(労働時間短縮に向けた取組)

  • タスクシフト・医師の業務の見直し
  • その他の勤務環境改善
  • 副業・兼業先の労働時間の管理

特に重要なのが「労働時間数」です。「5年後には今より減らす予定であり、現在はその途上である」ことを前提とした「計画期間終了年度の目標(5年以内で任意に設定)」を明記する必要があります。また「労働時間短縮目標未達成の場合、計画の見直し等により追加的な対策を講じること」とされており、申請するにあたり目標と実績に乖離がないか、実行できているかを示さなくてはなりません。

しかし同時に、この計画には医療機関の裁量が大きな部分もあります。例えば計画の作成単位については、医療機関内の医師全員(B・C水準指定されない医師も含め)としても良いですし、指定を受ける個々の医師に対して計画を作成することも、診療科限定で作成することも認められています。
なおこれらの評価ポイントについての詳細は、「医療機関の医師の労働時間短縮の取組の評価に関するガイドライン(評価項目と評価基準)」(2)に記載されているので、一度確認することをおすすめします。

医療機関勤務環境評価センターと医療勤務環境改善マネジメントシステム

この計画でもう一つ強調されているのが、「PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクル」です。近年の行政資料にはこの言葉は頻出していますが、つまり「計画を作成し、提出、指定を受けることだけでは不十分」ということです。計画は最長で5年毎に設定しますが、毎年見直しを行い、それを都道府県に提出することが、医療機関には求められています。その中でも毎年短縮計画が進んでいるか、実際の労働時間はどうなっているかについて「医療勤務環境改善マネジメントシステム(3)(4)」としてPDCAのサイクルを回すことが重要視されています。


またこのサイクルを回すにあたり、支援機関としての役割を果たすのが第3回でご紹介した「医療勤務環境改善支援センター」であり、手引きや支援ツールが「いきいき働く医療機関サポートweb(いきサポ)」のHP(https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/outline/download)で公開されています。
「医療機関勤務環境評価センター」は都道府県による指定の前に、これらの取組を評価し、助言・指導します。結果は公表されますが、「医療勤務環境改善支援センター」は支援が役割であり、計画作成時から助言を得て進めるのが望ましいでしょう。

スケジュールについて

ここまでB・C水準の概要、そしてそれに必要な評価や計画作成について整理してきました。
最後に、2024年に向けた今後のスケジュールについて整理していきます。


これまで整理してきた労働時間規制は、2024年4月から例外なく施行されます。そして第3回で述べた様に、B・C水準の指定を受けない医療機関については、全てA水準が適応されます。同時に、指定のない状態で960時間以上の時間外労働をさせたり、B・C水準でも1860時間以上の時間外労働をさせた場合、使用者(=医療機関)が罪に問われます。つまり、現状に合わせて2024年4月には適切な指定を受ける必要があり、かつ規定時間に収まるような対応が必要です。

B・C水準(特例水準)の指定は、どちらも都道府県が行います。しかしそこに至る経緯においては、それぞれの基準で少しずつ違いがあります。
まず全水準で医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価を、都道府県の指定の前に受審しなくてはなりません。これは改正医療法において定められた項目であり、既に2022年4月から規定は施行が始まっています。
加えて、C-1水準では、プログラムにおける労働時間数の明示後、そのプログラムについて、初期臨床研修では都道府県、専門研修では学会と日本専門医機構が審査を行います。またC-2水準でも、詳細は未定ですが前述した審査機関が個別に審査を行います。

この評価センターなどでの評価にどの程度の時間がかかるのか、期限がいつかについては示されていませんが、2023年度に受審し、指定を受ける必要があることから、2022年度にデータの収集と取り組みの開始が求められているのは明らかです。
つまり、既に2024年に向けた取組はスタートしていなければなりません。

まとめ

全4回にわたり、医療業界以外での働き方改革、並びに医師の働き方改革の大枠やスケジュールについて整理してきました。施行まで2年を切った今、特に特例水準の指定を受けようとする医療機関は、速やかな対応が必要です。
本記事では制度などの大枠について言及してきましたが、実際にはかなり細かい制度となっており、実際に指定を受けようとする場合、文中で提示したようなガイドラインや評価指標の確認は必要不可欠です。是非リンクなどから資料までご確認ください。

多くの方が「新しい厳しい規制が始まる」と考えておられるとは思いますが、特に1,2回目の記事で述べたように、「最低のA水準でも、労働基準法などからすれば過労死ラインのレベル」であることは揺らぎのない事実です。
筆者は大企業の統括産業医はじめ、複数社の産業医を務めておりますが、既に厳密に45時間超えの残業をした人・その回数を管理し、80時間ではなく60時間、45時間ではなく40時間などで独自のラインを設定し、人員の管理や上司との面談、マネジメントの見直しを行っている企業が多数あります。

医師がこのような例外規定を認められたのは、現状が更に劣悪な長時間労働であることや、社会的必要性からではありますが、あくまで医師も労働者であり、今後に向けて労働時間の適正化を行わなくて良いということにはなりません。
今後も医療職が魅力的で、患者に対して常により良い医療を提供できるためには、今回の働き方改革を機に、「誰もが快適に、かつハイパフォーマンスで働ける職場」を形成していくのが必要ではないでしょうか。

(この4回では制度の解説を行ってきましたが、次回以降は、具体的な取組などについても紹介してまいります。引き続きお読み頂ければ幸いです。)

おわりに

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出典

(1) 厚生労働省, 医師労働時間短縮計画作成ガイドライン 第1版, 2022/4.
(2)厚生労働省, 医療機関の医師の労働時間短縮の取組に関するガイドライン(評価項目と評価基準) 第1版, 2022年4月.
(3)厚生労働省研究班, 医療分野の「雇用の質」向上のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引(改訂版), 2018/3.
(4)厚生労働省, 医師の働き方改革の推進に関する検討会資料「審査組織の運用について」2022/3.