リハビリスタッフ以外の医療従事者にとって、言語聴覚士は「食事や言葉のリハビリをしている」というイメージがあると思います。しかし、具体的にどんな仕事をしているのかよくわからない方は多いのではないでしょうか。言語聴覚士は食事や言葉のリハビリだけでなく、認知機能の改善や難聴に対するサポートなども手掛けています。またチーム医療として、患者さんのコミュニケーションを円滑にしたり、食事での誤嚥を防いだりする役割も担っているのです。
この記事では、言語聴覚士の仕事内容やチーム医療における役割について詳しくご紹介します。言語聴覚士について理解しておけば連携がスムーズとなり、より質の高い医療サポートを患者さんに提供できるでしょう。
最初に、作業療法士とはどのような職業なのかをご紹介します。また同じリハビリ職である理学療法士・言語聴覚士との違いについても説明します。
言語聴覚士は病気やケガによって「話す・聞く・食べる」といった機能の障害を抱えた患者さんの改善を目指す職種です(1)。これらの機能は、人とコミュニケーションをとるため、そして生きるために重要な能力といえるでしょう。
言語聴覚士は言葉がうまく話せなかったり、食事ができなかったりする患者さんを評価し、適切なリハビリを提供します。機能改善を目指す訓練だけでなく、必要に応じて家族への指導を行うこともあります。また言語聴覚士のリハビリ対象は小児から高齢者まで、年齢層が幅広いのも特徴です。
リハビリ職には言語聴覚士だけでなく、理学療法士と作業療法士も含まれています。言語聴覚士とこの2つの職種とは、どう異なるのでしょうか。理学療法士とは「歩く・座る・立つ」などの基本的な動作の獲得を目指す職種です。筋力トレーニングや関節可動域訓練などの「運動療法」と、ホットパック、超音波といった「物理療法」を用いてリハビリを行います。
作業療法士は基本的な動作だけでなく、その人に求められる応用的な動きの獲得を図り、社会復帰・社会参加を目指す職種です。
まとめると、それぞれのリハビリ職の役割は以下のとおりです。
このように、同じリハビリ職ではありますが、それぞれの専門性が分けられていることがわかります。ただし、実際の臨床では言語聴覚士が歩行の練習をしたり、理学療法士が応用的な動作を行ったりするケースもあります。
言語聴覚士の専門性を押さえたところで、ここからは具体的な仕事内容について解説します。
誤嚥せずに食事をしたり、食べ物が口からこぼれるのを防いだりするための訓練を行います。摂食・嚥下障害を抱えている患者さんがおもな対象者であり、その原因は加齢や脳卒中などが中心です。「嚥下造影検査」や「内視鏡検査」などの検査で嚥下機能を評価し、以下のようなリハビリを実施します。
このようなリハビリによって摂食・嚥下機能の改善を目指します。
声をうまく出したり、スムーズに会話を行ったりするための訓練を行います。脳へのダメージで言葉が出にくくなる「失語症」、舌や唇の問題でろれつが回らなくなる「構音障害」などといった発声障害の患者さんが対象です。
これらの障害は、脳卒中や外傷による脳損傷、パーキンソン病などが原因で引き起こされます。発声の訓練、舌・唇の運動を行い、言語コミュニケーションの改善を目指します。
聴覚障害は先天性と後天的によるものに分かれるため、状況に応じた訓練を実施します。
後天的な聴覚障害は、加齢や事故などが原因です。聴覚検査によって障害の程度にあわせた対応を行います。聴力が低下している場合は、必要に応じて補聴器、人工内耳の使用を提案します。補聴器や人工内耳では対応できない場合は、文字や手話など利用したコミュニケーションの獲得を図ります。
患者さんが抱えている高次脳機能障害の改善を目指します。高次脳機能とは記憶や注意、判断など、人間に備わっている高い認知機能のことです。高次脳機能障害の原因は脳卒中や外傷による脳損傷であり、以下のような症状が現れます(2)。
言語聴覚士はこれらの症状にあわせたリハビリの提供を行います。たとえば、記憶障害であれば、日記をつけて毎日の訓練内容をメモする、生活のルーティンを決めるなどを行い、記憶の定着を図ります。注意障害であれば、静かな環境で計算問題を解く、二重タスクを行うなどをして、集中力・処理能力の改善を目指します。
患者さんの病気・ケガの発症時期によっても、言語聴覚士が行うリハビリ内容は変わります。ここでは患者さんの時期に応じたリハビリの流れを解説します。
急性期では患者さんの状態が不安定でもあるため、調子を確認しながら早期のリハビリを開始します。また嚥下障害や高次脳機能障害を突然発症したことで、患者さん自身や家族も混乱している時期といえるでしょう。そのため機能訓練だけでなく、本人・家族の気持ちに寄り添ったサポートも並行しつつリハビリを進めます。
回復期は患者さんの状態が安定し、リハビリの効果が高まりやすい時期です。活動量が高まりやすい回復期に集中したリハビリを行い、家庭・社会復帰を目指します。障害された機能の改善を図りつつ、実用的なコミュニケーション方法を提案したり、家族に対して食事の指導を行ったりします。
維持期のリハビリでは、実生活に必要なコミュニケーション能力を獲得しつつ、社会参加を促します。コミュニケーション面でトラブルが起きないように、本人・家族にあらためて指導を行うこともあるでしょう。維持期では病院を退院し、自宅に戻っていることがほとんどなので、デイサービスや訪問看護を利用してリハビリを実施します。
言語聴覚士は小児から高齢者までの患者さんにリハビリを行うため、以下のような幅広い職場で活躍しています。
医療・福祉機関でのリハビリはもちろん、小中学校、特別支援学校の教員として、障害を抱える子どもに指導を行っている方もいます。今後も高齢社会が進むにつれて、言語聴覚士の活躍の場はさらに広がるでしょう。
チーム医療として、言語聴覚士は「摂食・嚥下サポートチーム(SST)」での重要な役割を担っています。SSTとは患者さんの嚥下機能を評価して、安全に食事を行えるようにサポートするためのチームです。おもに医師や言語聴覚士、看護師、管理栄養士などで構成されています。ここでは、SSTにおける言語聴覚士の役割を中心に解説します。
「嚥下造影検査」や「内視鏡検査」を実施して患者さんの嚥下機能を評価し、適切な食形態の提案を行います。管理栄養士と連携をとることで、食形態だけでなく食事量、回数などの細かい調整も設定します。また今後の目標とリハビリの進め方をチーム内で共有し、他職種との連携強化を図るのも言語聴覚士の大切な役割です。
看護師や家族に口腔ケアと食事介助の指導を行う際にも、言語聴覚士の協力が必要です。口腔ケアは歯科医の指示を受けたうえで、適切なブラシを用いて行います。食事介助では、誤嚥のリスクを防ぐための姿勢と方法を共有し、退院後も家族だけで行えるように指導します。
SSTでの役割以外にも、コミュニケーション方法の提案を行うこともあります。たとえば、病気が原因で言葉をうまく喋れず、意思疎通に困っている患者さんがいたとしましょう。その患者さんに50音表やノートを提供すれば、会話以外の方法で意思疎通を行える可能性があります。このような代替手段でコミュニケーションを円滑にすることで、チーム医療でのサポートを行いやすい環境を整えます。
作業療法士は、その人が自宅での生活を送ったり、社会復帰して仕事を行ったりするために必要な「作業」を獲得するためのサポートをする職業です。そして理学療法士・言語聴覚士とともに、それぞれ別の視点から患者さんに最適なリハビリを提供します。またリハビリ職だけでなく、医師や看護師などの他職種とうまく連携し、患者さんの情報を共有することも大切です。今回の記事をとおして、チーム医療における作業療法士の役割や、他職種と円滑に連携をとるためのポイントをおさえていただければ幸いです。
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(1)言語聴覚士とは
https://www.japanslht.or.jp/what/
(2)高次脳機能障害を理解する
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/