医療・介護の仕事でよく悩まされる腰痛問題。皆さんの職場にも慢性的な腰痛を抱えている方は多いのではないでしょうか。現場では患者さん・利用者さんへの介助や長時間の着座業務など、腰痛を引き起こす原因が多くあります。
この記事では、腰痛を引き起こす原因とその対策についてご紹介します。腰痛にならないコツを知れば、身体に負担をかけずに仕事ができるようになるでしょう。
医療・介護職は、その業務内容から腰痛になりやすい職業といえるでしょう。ある医療機関での調査によると、腰痛があると答えた職員は全体の67%で、職種ごとの割合は以下の通りでした(1)。
また厚生労働省の調査によると、介護を含めた「保険衛生業界」の仕事中に発生した負傷のほとんどが腰痛によるものでした(2)。この結果から、医療・介護職の方の多くは腰痛による悩みを抱えていると考えられます。
腰痛が起こる原因の多くは介助によるものだといわれています(3)。ここでは腰痛の原因について、介助場面を中心にご紹介します。
オムツ介助、移乗介助、入浴介助などの場面では患者さんとの距離が離れやすいため、前かがみや中腰状態になることが多いです。このとき腰への負担がかかりやすく、腰痛を引き起こす原因となります。
おもにトイレ動作や移乗動作などを介助するときに、患者さんを持ち上げる必要があります。その際に腕の力だけで持ち上げようとすると、腰に大きな負担がかかるため、腰痛のきっかけとなります。
移乗時に患者さんを持ち上げるときだけでなく、途中の場面でも注意が必要です。ベッドから車イスへの移乗の際に、腰をひねりながら行う方もいるのではないでしょうか。体重が重い患者さんを支えながら腰をひねると筋肉に負担がかかりやすくなり、腰痛につながります。
腰痛の原因の多くは介助によるものとされていますが、それ以外の場面でも起こる可能性があります。たとえば、カルテや記録の記入で長時間イスに座っていると、腰痛を引き起こすこともあります。医療・介護職は身体を動かす仕事だけでなく、多くの着座業務もこなす必要があるので、長時間イスに座っている方も注意が必要です。
腰痛が進行して悪化すると、以下の疾患につながる恐れがあります。
ここではそれぞれの疾患について詳しく解説します。
1つ目のぎっくり腰とは急に激しい腰痛を引き起こすことで、正式には「急性腰痛」といいます。重い物を持ち上げたり、腰をひねったりしたときに起こりやすいといわれています(4)。
ぎっくり腰になると腰痛だけでなく、腰を曲げることが困難になるのも特徴の1つです。基本的に数日〜1週間程度で症状はおさまりますが、その後も痛みが長期間続き、やがて慢性的な腰痛を引き起こす恐れもあります(5)。
2つ目の腰椎椎間板ヘルニアとは、背中の骨と骨の間にある「椎間板」が後方にはみ出して、神経を圧迫する疾患です。椎間板は背骨の衝撃をやわらげるクッションのような役割があり、普段の姿勢や加齢の影響によって徐々に衰えていきます。
ヘルニアになると腰痛だけでなく、下半身の神経痛が出現したり、足を動かしにくくなったりするなどの症状が現れます。症状がさらに悪化すると歩行障害や排尿・排便障害をともなうこともあるでしょう(6)。
3つ目の腰部脊柱管狭窄症とは、背骨の「脊柱管」と呼ばれる神経の通り道が狭くなる病気です。腰をよく使う作業を繰り返し行うと、脊柱管に接している靱帯が次第に厚くなり、徐々に神経を圧迫していきます(7)。脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されると、以下のような症状が現れます。
とくに間欠性破行(はこう)が現れると、歩くたびに腰の痛みに悩まされるので、仕事にも大きな悪影響を及ぼすでしょう。
腰痛を予防するためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。ここでは状況に応じたポイントについて解説します。
オムツ交換や体位変換などの介助を行う際は、ベッドの高さを調整して前かがみの状態にならないようにしましょう。スタッフと患者さんからの距離が近づけば、前かがみにならずに介助ができます。高さを調節できない場合は膝を曲げる、足を広げるなどで腰を落とし、重心を低くした状態で介助すると良いでしょう。
移乗や立ち上がりの介助で患者さんを持ち上げる際は、近づいた状態で行いましょう。患者さんとの距離が近いほど腕や腰にかかる負担が軽減し、少ない力で持ち上げられます。普段から距離が離れている状態で介助している方は、できるだけ近づいて行うことを意識しましょう。
移乗動作の介助をするときは、腰をひねりながら行うのではなく、自分の身体ごと向きを変えると腰の負担が少なくなります。身体全体を軸にしながら移乗することで、腰にかかる負担を軽減できるだけでなく、安定性も高まるでしょう。このときに患者さんとの距離を近づけながら行うと、さらに腰痛防止につながります。
患者さんの体重が重かったり、慣れない介助をしたりするときは、他のスタッフと協力して介助をすることをおすすめします。1人でムリに行おうとすると、腰痛を引き起こすだけでなく、介助に失敗する恐れもあります。「1人だけでは介助はむずかしい」と感じたときは、周囲のスタッフに手伝ってもらえないか声をかけてみましょう。
なるべく長時間同じ姿勢にならないようにしましょう。これは介助場面だけでなく、書類業務で座っている時間が長い方に意識してもらいたいポイントです。書類業務を行う際は定期的に立って背伸びをしたり、腰を回したりして筋肉をほぐし、腰痛予防に努めましょう。
実際に腰痛になったときは、どのようなケアをするべきなのでしょうか。ここでは腰痛を解消するためのケアについてご紹介します。
慢性的な腰痛の場合、腰の筋肉が凝り固まって血流が滞りやすい状態といえるでしょう。ストレッチで腰まわりの筋肉を伸ばすことで、血流が促されて凝りが解消し、腰痛の軽減につながります。職場でも気軽に行えるストレッチの方法は以下の通りです。
【腰を回してストレッチする方法】
【腰を丸めるストレッチ方法】
【腰と膝裏の筋肉をストレッチする方法】
これらのストレッチは、腰に痛みが出ない範囲で行いましょう。
腰痛によって仕事に支障が出ているときは、コルセットを装着するのも1つの手段です。コルセットを装着すると腹圧が高まり、腰まわりの固定性を高めて筋肉の負担軽減につながります。また、固定性が高まるので腰の動きが制限されて、介助をはじめとした動作で腰痛が起きにくくなります。
ただし、コルセットを長時間つけると背筋や腹筋の筋力低下につながるため、かえって腰痛を発生しやすくなることもあります。コルセットは常に装着するのではなく、必要な場面だけ活用するようにしましょう。また、正しい位置で装着しないと、コルセットの本来の効果が弱まってしまいます。コルセットは種類によって装着位置が異なるので、よく説明書を確認してから使用しましょう。
医療・介護職は仕事の都合上、腰痛を引き起こしやすい職業といえるでしょう。腰痛が悪化すると、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの疾患につながる恐れがあるため、早期の予防が必要です。
介助場面で腰痛を引き起こさないためには、身体の使い方を工夫して、腰に負担をかけないようにしましょう。また腰痛が出現しているときはストレッチやコルセットなどによる対策がおすすめです。今回の記事を参考にして、腰痛の悩みを解消していきましょう。
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(1)当法人の医療・介護施設における腰痛実態調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jptpr/28/0/28_27/_pdf/-char/ja
(2)令和3年業務上疾病発生状況(業種別・疾病別)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000971241.pdf
(3)医療従事者における腰痛に関する意識調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjhs/3/4/3_KJ00001519962/_pdf/-char/ja
(4)腰痛症 - 慶應義塾大学病院KOMPAS
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000033.html
(5)急性腰痛と慢性腰痛 痛みが長引く理由 慢性腰痛の治療
https://www.shiga-med.ac.jp/hospital/doc/magazines/files/vol_58.pdf
(6)腰椎椎間板ヘルニア | 愛知医科大学病院
https://www.aichi-med-u.ac.jp/hospital/pages/sekitsui03.html
(7)腰部脊柱管狭窄症について - 相模原病院
https://sagamihara.hosp.go.jp/sinryouka/sekitsui-center-youbu.html