社会の変化に伴い医療機関の経営状況は年々厳しさを増しています.さらに追い打ちをかけるように新型コロナウイルスの影響を受け,赤字転落になる病院は増加傾向にあります[1].
病院の収益が上がらなくなると,職員への給与や最新医療機器の導入・更新,医療スタッフの増員・教育が難しくなり,質の高い医療を提供することが難しくなります.安定した病院経営が求められていますが,そのなかでも看護部は病院の中で最も大きな組織になります.そのため,看護職は常に経営的視点を持ちながら日々の看護に従事することが大切です.
本稿では病院経営の実際と看護管理者に求められる病院経営の視点についてご紹介します.
2018年6月,日本病院会が実施した調査によると,全国1111病院のうち598病院のうち経常赤字の病院は約54%.じつに半数以上の病院が赤字であることが分かりました[2].そして新型コロナウイルスの影響により,依然として多くの病院で赤字が続き,職員の賞与にまで影響が出ました[3].
また,国内の病床数は諸外国と比べて多いといわれています[4].患者数が年々増加する一方で,医療従事者の数は相対的に減少傾向にあり,十分な人員確保ができていません.需要と供給のバランスが取れていないことから,人手不足や超過勤務による影響が必然的に離職へつながっていることが懸念されています.
今後は超高齢社会が患者の増加を招き,少子化による人口減少の影響が,医療従事者の減少につながることが大きな課題となっています.なかでも看護師は病院経営の軸となるため経営課題の一つとして重要視されています.
医療を取り巻く環境が大きく変化しているため,看護職の病院経営の意識改革が求められています.そこには,看護サービスの提供が病院経営に大きく関わってきます[5].
2020年度の診療報酬改定により,在院日数はさらに短縮化が求められるようになりました.その背景には,病床の稼働率を重視してきた結果,思うような収益にはつながらなかったことが要因の一つとして挙がります.満床だけの稼働率では収益につながらないだけでなく,すぐに入院治療を必要とする患者に対して迅速な対応ができなくなります.そのため患者の在院日数を短縮することで回転率を上げていくことを視野に入れながら,最適で効率的なベッドコントロールが大切になります[6].
医療を取り巻く変化に伴い,看護の専門性が強く求められるようになりました.病院経営の視点からも,質の高い看護を提供することは患者の満足度につながるため,専門,認定看護師の役割はさらに期待が高まっています.それには看護師一人ひとりのスキルアップが必要になるため,資格取得のための環境を整備することが大切です.
レジリエンスとは,どんな逆境や困難なことに遭遇したとしても心が折れることなく,柔軟に対応し生き延びようとする力を指します.とくに看護師は慢性的な人手不足や多忙な業務,ストレスフルな環境が要因となりバーンアウトを起こしやすいといわれています.こうした様々な困難に対して乗り越え適応していく力が求められています.そのために必要なのは,小さな成功体験を積み重ねて自己効力感を高めていくことが大切だといわれています.自己効力感とは何らかの状況に直面した際,「自分ならできる」といった期待や自信のことをいいます.こうした経験を積み重ねていくことで揺るぎない自信につながり,レジリエンスを高めることができます.
病院経営の改善には,病院のなかで最大の組織である看護部のあり方が病院経営に大きく関わってきます.看護師の確保ができなくなると,病院収益の源泉である診療報酬の要件をクリアすることができず,給与面はもちろん,最悪の場合,病棟閉鎖をせざるを得ない状況になりかねません.そのためにも看護師の確保・定着は病院経営の大きな課題になります.その土台となるのは病院経営の安定と安心して働き続けられる環境であることが大切です.看護管理者は長期間働き続けられる環境を改善するほか,看護師一人ひとりの多様性を認め仕事と生活の調和を大切にするワークライフバランスに配慮した職場づくりが求められています.
看護師をマグネットのように引きつけて離さない病院を「マグネットホスピタル」といいます.現在,働き方改革で労働環境の改善が求められていますが,看護師の集まる病院では,労働環境,給与面の良さだけでなく,やりがいを持つことが大切です.看護師が定着し続けることは必然的に看護師の質が向上し,患者の満足度につながります.こうした循環が患者までも引きつけて離さない病院として,患者の定着率にもつながります.
マグネットホスピタルの詳細についてはこちらを参照してください.
質の高い看護を提供することは患者の満足度向上や定着となり,病院経営の改善につながります.看護管理者は看護師が実践できる経営貢献について伝え実践することが求められています.また,診療報酬のしくみや病院経営の全体像を把握していくことが大切です.
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