近年、医療の発展により患者さんの長期生存が可能な時代となりました。それと同時に、患者さんは「病と共に生きていく時代」となっています。病気を抱えながらも、患者さんは治療と並行し、自立した日常・社会生活を目指すことが必要です。
このような時代に即し、昨今では、退院後の社会生活を見据えた介入としてリハビリテーションの充実が推進されています。患者さんのサバイバーシップを支援するためには、個々人に合わせた身体・精神・心理・社会的な多方面でのアプローチが必要です。そこには、多職種連携による質の高いチーム医療が重要な役割を果たします。
本稿では、リハビリテーションチーム医療におけるチームアプローチについてご説明します。
世界保健機関(WHO)の障害者世界行動計画によると、リハビリテーションとは、「身体的、精神的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とすることによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことをめざし、かつ、時間を限定したプロセスである。」と言われています(1)。
患者さんには、治療に伴いさまざまな障害が生じることが予測されます。また、長期入院や行動範囲の縮小は、ADLの低下、廃用症候群を引き起こすリスクが高く、患者さんのQOLの低下になり兼ねません。リハビリテーションは身体的・機能的回復のためだけではなく、患者さんの健康レベルを最善にするためにも多面的なアプローチが必要です。
リハビリテーションには①急性期②回復期③生活期の3つの段階があり、状況や時期に応じて介入していきます(2)。
急性期は、病気の発症時や手術直後で病状が不安定な時期を指します。患者さんの病状の安定や治癒の促進をメインの目的としてリハビリテーションを展開していく段階です。
回復期は、病気やケガの治癒過程で失われた機能の回復をしていく時期です。患者さんと家族を中心にした生活・社会復帰のサポートを進めていきます。
生活期は、自宅や施設などで「その人らしい生活」を実現するための時期です。リハビリテーションにより獲得した能力の維持・向上を図り、能力の低下や再発を防ぎます。
リハビリテーションチームの目的は、患者さんの早期回復です。そこには早期退院、早期社会復帰、そして患者さんのQOLの維持・向上という意味も含まれます。対象となるのは、心身の障がいにより、日常生活や社会生活に支障をきたす患者さん、もしくはその可能性のある方です。患者さんの抱える問題を、心身の機能や状態、生活環境、社会的環境などから多角的に評価し、個々の目標に向けて理学療法、作業療法、言語聴覚療法などさまざまな手段を用いてアプローチします。
チームの中心は、患者さんとその家族であることが前提です。患者さんの健康レベルを最善にするためには、多職種それぞれの専門性を活かし、協働することが必要になります。以下、主要メンバーとその役割について紹介します。
理学療法士は、運動療法や物理療法(温熱、電気、水、光線等を使用する治療法)などを用いながら、身体機能の維持・向上を図る専門職です。関節可動域の拡大や筋力の強化など、運動機能に直接はたらきかける治療法、動作練習・歩行練習など運動能力の向上を目指す治療法により、患者さんの動作の改善が期待できます。医師はレントゲンや内視鏡などの客観的なデータを元に身体を評価しますが、理学療法士は歩く・起き上がるなどの動作、筋骨格や胸郭の動き、運動に伴う脈拍の変動をみることで、心肺機能や運動器の問題を評価します(3)。
私たちが生活するための基本的な動作は、呼吸する、立つ、歩く、座る、起き上がる、寝返る、などです。怪我や疾患などで身体に問題が生じている患者さん、障害の発生が予測される患者さんを対象に、日常生活動作の能力の回復・維持、悪化の予防を目指します。
廃用症候群や二次的な合併症の予防のためには、患者さんに早期離床を促すことが必要です。離床が難しい場合には、ベッド上で上下肢の運動や、治療装置を用いた筋刺激、呼吸リハビリテーションなどを積極的に行います。また、患者さんが高齢になるほど体が虚弱になりやすくなるため、フレイル(加齢に伴う心身の活力の低下)を予防するために運動・生活の指導を実施します(2)。
作業療法士は、日常生活に関係する動作のすべてを「作業」と呼びます。作業を通して、以下3つの能力を維持・改善することで、その人らしい生活を送れるように支援していきます(4)。
作業療法士は急性期から生活期にかけて、「このような動作ができるようになりたい」、「このような生活を送りたい」など、患者さん自身の希望を重要視します。患者さんは、その人らしく豊かな生活を送ることが大切です。社会の中で自立して生きるために、共に生活の方法を練習していきます。
チームを統括
患者さんの病態を診断し、治療方針やリハビリテーションプランを決定します。また、リハビリテーション介入が進んでいる間も医学的管理と評価を継続します。患者さんの治療に関して指示・処方をするのは医師のみです。それぞれのチームメンバーが専門性を発揮できるようなチーム作りをするには、統括役を担う医師が、他職種に理解を示すことも必要です。
患者さんの生活を整える社会資源を相談
患者さんが治療や療養に専念できるように、生活のために活用できる制度などを提案・支援します。また医療ソーシャルワーカーは、復職や社会生活に関する貴重な相談相手です。リハビリテーションチームにおいては、話し合いの促進の役目を担ったり、急性期から回復期においては、院外の関係機関との連携をはかる要の存在となります。そして生活期では、患者さんとその家族が安心して生活できるよう、活用できる社会福祉制度、サービスの紹介、手続きのサポートを行います。
患者さんは療養者である前に生活者です。生きるうえでの希望を尊重しながら、その人らしい生活を実現できるように、治療とリハビリテーションを両立していく必要があります。Well-beingの視点を持ち、患者さん一人ひとりの生活習慣、社会的役割、価値観なども考慮することは、患者さんの求める「真のゴール」につながります(7)。多職種の機能を高めるには、チームが共通の目標に向かうことが大切です。それぞれの専門職の視点で「患者さんの自立した生活」を考え、共に目指していきます。
リハビリテーションチームは関わる専門職種が多く、患者さんの治療ステージごとに主要となる職種が変化するのが特徴です。しかし、多職種の専門性が異なるがゆえに、チームとしての方向性が定まりにくいことがあります。
チームが連携をとるには、密なコミュニケーションが大切です。患者さんの情報をタイムリーに共有し、チームの方向性や目標を互いに確認していきます。できれば電子カルテ上での情報共有やカンファレンス内のディスカッションに留まらず、多職種同士が日常的に患者さんについて話す機会が取れると良いでしょう。会話の機会が多くなれば、患者さんのことだけではなく、他職種同士の理解も深まります。
チーム内のコミュニケーションを促進し、チームワークをより高めるには、多職種間のフラットな関係が鍵を握ります。相手に伝えるべきポイントがわかっていても、伝えやすい関係性がないと、情報はやりとりされにくいです。自分の専門性だけでなく他職種についても知ることができると、互いに尊重し合えます。医師からの「ピラミッド型の関係性」ではなく、それぞれが専門性を持った「フラットな円形の関係性」をイメージし、チームを育むことが大切です。
患者さんのサバイバーシップや、高齢者の健康寿命延長が重要視されている今、リハビリテーションのニーズはさらに高まることが予測されます。疾患やライフステージごとに、医療やリハビリテーションに求められることはさまざまです。多職種連携による柔軟なアプローチを実現するためには、専門職同士が知恵を出し合い、チームが共通のゴールに向かうことが重要です。今後、患者さんのQOL向上を目指すことのできるチーム体制が期待されるでしょう。
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(1)身体障害者ケアガイドライン~地域生活を支援するために~平成14年4月 厚生労働省
リハビリテーション https://www.mhlw.go.jp/topics/2002/04/tp0419-3c.html
https://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/aboutpt/2014_ptguide.pdf
(3)福原麻希.チーム医療を成功させる10か条.中山書店.2021.
(4)一般社団法人 日本作業療法士協会 https://www.jaot.or.jp/ot_job/
(5)一般社団法人 日本言語聴覚士協会 https://www.japanslht.or.jp/what/
(6)厚生労働省/チーム医療の推進について
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0319-9a.pdf
(7)がんサバイバーを支える看護師が行うがんリハビリテーション.矢ヶ崎香.医学書院.2016.