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理学療法士のお仕事知ってますか?お互いの業務を理解して、しっかり頼ろう!

執筆者:新田 智裕 株式会社NITTA JAPAN代表

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皆さんは、「理学療法士」についてどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?医療従事者に問いを投げかけたとしても、「歩くためのリハビリをする人」「運動や施術をする人」など、漠然としたイメージを持たれている方が多いです。

 

理学療法士は、(Physical Therapist)を略してPTと呼ばれています。理学療法とは「身体機能の回復・維持」を目的に、運動療法や各種施術手技、物理療法などの手段を用いて、身体と心の両面から働きかける治療法の一つで、その専門性は多岐にわたります。

 

超高齢化社会を迎えている日本では、「チーム医療」や「地域包括ケアシステム」を円滑に運行するために、「多職種連携」の重要性が謳われています。より良い他職種連携を進めるには、各職種の強みや個人特性を理解し、お互いの強みを生かすことが必要不可欠です。 

 

本稿では、理学療法士の専門性や強みを知って頂き、多職種連携の相乗効果を産むヒントになる記事になればと思います。

理学療法士の仕事についてざっくり解説

理学療法士は「理学療法」を通じて、外傷や疾病で衰えてしまった身体機能の回復を促し、日常生活動作(ADL)の再獲得や、生活の質(QOL)の改善を目指します。

 

よく「リハビリテーション」と「理学療法」の違いについて聞かれることがあります。

 

リハビリテーションという言葉のもつ意味の守備範囲は広く、「心身に障害のある者が社会人として生活できるようにすることである」(厚生白書 1965 年)とされています。「理学療法」はリハビリテーションという理念の中に含まれ、特に運動障害の機能回復を担う治療法のひとつです。(1)

 

理学療法士が活躍する場も幅広く、病院や施設では、各種疾患の発症早期や退院前後の自立支援や社会復帰、地域では健康増進事業からスポーツ現場まで、様々な方の支援に携わっています。

 

理学療法士は「疾患」に対して理学療法を実施するのではなく、「人」に対して理学療法を実施します。

 

その方の既往歴や現病歴に加え、生活歴、仕事歴、趣味や家族関係も含め、パーソナライズされたリハビリテーションを提供する事が生業です。

理学療法士ができること

日本理学療法士協会が発表している、理学療法士の仕事のキーワードは以下の6つです。(2)

 

理学療法士は、

  • 身体機能や痛みの評価・分析を行います
  • 基本動作能力改善のための指導を行います
  • 最適な理学療法プログラムを作成します
  • 最初や症状悪化防止を目的に正しい動きの学習と指導を行います
  • 痛みや運動機能の改善のために、運動療法や物理療法を行います
  • 自立した生活と、生活の質の向上を目指したサポートを行います

理学療法士が用いる治療手段

理学療法士が用いる治療手段は多岐にわたります。大きく分類すると運動療法や物理療法、徒手理学療法などがあります。

 

それぞれの治療法を細かく分類すると、キリがないくらい多くの概念や手技があります。理学療法士は、クライアントにより良い理学療法を提供するため、日々さまざまな研修や自己学習を続け、常に新しい医療知識・治療技術を会得するように努めています。

 

<運動療法や徒手理学療法の一例>

<運動療法の種類>

<徒手理学療法の種類>

・全身調整訓練

・関節モビライゼーション

・関節可動域訓練(ROM訓練)

・筋膜リリース

・筋力増強訓練

・横断マッサージ

・持久力増強訓練

・機能マッサージ

・協調性改善訓練

・ストレッチング

・日常生活動作訓練 など

(移動、食事、起居動作、各種生活動作)

・神経モビライゼーション など

(3)

その他にも様々な治療手技を用いて、痛みや身体機能の改善に努めています。理学療法士も人によって知識・技術が千差万別ですので、是非一度お勤め先のPTの理学療法を体験してみては如何でしょうか?

理学療法士は人生の様々なお悩みを解決します

理学療法士は、昭和1965年に理学療法士法が公布され、翌年から国家試験が実施されました。日本国内では半世紀の歴史をもつ理学療法士は、2020年現在で18万人が有資格者となっています。理学療法士協会員は延べ12万5千人、全国2万弱の施設で働いています。(4)

理学療法士の勤務先

大多数の理学療法士は、医療施設である病院やクリニック、医療福祉中間施設や介護保険関連施設で働いています。医療介護分野以外では、スポーツ関連の団体などで選手やチームのサポートを担う方や、研究者として大学や研究所、営業職や開発者として企業に勤務する方たちもいます。それ以外にも、障害者福祉センターや障害者(児)通所・入所施設、特別支援学級・学校に在籍する方や、特定保健指導や介護予防などの専門家として、行政の保健所や保健センターで活躍する理学療法士もいます。また最近では、理学療法士の専門性を活かして、様々な業種で起業するケースも増えています。筆者も2019年から、食とリハビリに特化した高齢者デイサービスを開設し、健康長寿延伸の包括的なサポートを行っています。

理学療法(リハビリテーション)の対象疾患は?

医療保険で理学療法士によるリハビリを受けるには、医師の診断と処方指示箋が必要です。疾患やけが、障害や加齢に伴う虚弱(フレイル)などが原因で日常生活に支障が出ている人、またはその恐れがある人などが、疾患別リハビリテーションの対象となります。対象となる疾患の一例を、以下の表にまとめました。

 

整形外科疾患

・手足や脊椎の骨折

・肩関節周囲炎

・腰椎椎間板ヘルニア

・各種靭帯損傷

・変形性関節症

・四肢の切断

・運動器(筋肉や関節)由来の痛みなど

中枢神経疾患

・脳梗塞  ・脳出血

・脳血管の異常

・脊髄損傷

・脳の外傷

・中枢神経の変性疾患

・腫瘍  ・小児発達障害など

呼吸器疾患

・慢性閉塞性肺疾患

・肺炎

・喘息など

心疾患

・心筋梗塞  ・狭心症など

内科的疾患、体力低下

・糖尿病  ・術後体力低下

・フレイル(加齢に伴う虚弱)やサルコペニアなど

【病期別】理学療法士の取扱説明書(トリセツ)

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(5)[日本理学療法士協会 理学療法士のパンフレット]を一部改変

【急性期】

急性期病棟では、病気発症や手術直後などで、病態が不安定な方をサポートします。

 

クライアントの病態安定や治癒促進を目的として、理学療法を展開します。急性期病棟における理学療法士の大きな役割として、「痛みの軽減」「患部の管理(ポジショニング)と生活動作の指導」「早期離床」などが挙げられます。

痛みの軽減と患部の管理

ここでは、転倒をして大腿骨頚部骨折を受傷後、人工骨頭置換術を実施して入院中のクライアントを想定して解説します。

 

術直後は、手術の侵襲ダメージ、転倒時の物理的ダメージ、今後の不安などによる精神的ダメージなどに起因する痛みにより、身体が上手に動かせなくなります。

 

痛みを軽減には物理療法や薬物療法というイメージがあるかもしれませんが、姿勢を整えたり、動作の順序を変えたりするだけで、痛みが激変する場合があります。寝返り動作を例にすると、「目から動かす」「顔から動かす」「足から動かす」の違いだけで、痛みの生じ方が変わる場合があります。

 

クライアントの病態、回復の程度、運動機能、精神状態を踏まえ、適切な運動療法や動作指導で痛みの軽減と患部の管理を行えることも、理学療法士の強みの一つです。もちろん、物理療法や徒手療法を通じて痛みを軽減したり、廃用症候群を予防・改善したりすることも、理学療法士の大きな役割の一つです。

早期離床

整形外科疾患、脳血管疾患、内部疾患問わず、クライアントの状態が許す限り、早期離床を促すのも理学療法士の役割です。

 

早期離床は、廃用症候群を予防するだけでなく、肺炎や血栓、せん妄などの様々なリスクの予防に繋がると言われています。

 

クライアントに内在する様々なリスクを加味し、より安全な早期離床を進めることも、理学療法士の役割です。

 

【回復期】


回復期は、クライアントの病態や炎症初見がピークを過ぎて、機能回復や能力改善を目的とした理学療法を行います。

 

医師を中心とした回復期リハビリテーションの多職種チームで、生活復帰や社会復帰をサポートします。その中で理学療法士は、日常生活に必要な動作の獲得を目指して理学療法を展開します。

 

また、家族への介助指導や環境調整も担当し、より良い在宅・施設生活に戻れるようにサポートします。

 

【生活期】


生活期は、ご自宅や施設などで「その人らしい生活を実現する」ことを目的とした理学療法を展開します。

 

理学療法士は、介護予防、退院後の支援、生活支援、社会参加のサポートまで、幅広い役割を担います。

 

クライアントの生活環境調整を提案したり、潜在能力を引き出すための動作方法や介助方法を指導したりするのも、理学療法士の役割です。

理学療法士とチーム医療

医師と理学療法士の役割の違い

医師と理学療法士の関係を簡単に例えると、ディレクターとクリエイターの関係に近いと筆者は考えています。

 

医師がクライアントの全体像とニーズを聴取し、リハビリテーションチームに処方を出す役割があります。

 

理学療法士は、その処方をもとに機能・能力を深掘りし、クライアントがより良い状態を目指せるように、理学療法を展開していきます。

チーム医療における理学療法士の強み

理学療法士には、基本的な解剖学や生理学の知識だけでなく、関節の機能解剖学や運動学、身体評価や運動分析に長けています。

 

更に、リハビリは20分から60分(入院病棟・疾患により変動)程度の時間をマンツーマンで実施することが多いため、医師や看護師よりも長い時間を濃密に過ごします。

 

身体・精神・生活環境について時間をかけて深掘りし、リハビリチームにフィードバックすることも、理学療法士の大切な役割です。

まとめ

このページでは、皆さんに理学療法士の強みや専門性を知って頂き、よりよいチーム医療や地域包括ケアを推進することを目的に、情報をお伝えしました。

 

より良いチームを作るには、相手の強みを知り、その強みを生かすことが大切です。このページでお伝えさせて頂いた理学療法士の強みは、直接体験して頂くのが一番良いのではないかと思います。私自身、医師をはじめとする多くのスタッフにデモンストレーションを行い、より良いチームの関係性を築いてきました。


最後になりましたが、この記事が皆さんの業務遂行に少しでもお役に立てば嬉しいです。

おわりに

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出典

(1)理学療法とリハビリテーション ──その用語の持つ意味──
甲南女子大学研究紀要第 6 号 看護学・リハビリテーション学編(2012 年 3 月)
(2)日本理学療法士協会 https://www.japanpt.or.jp/assets/pdf/activity/books/JPTA%20PROFILE_2020_200908.pdf
(3)慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000150.html

(4)日本理学療法士協会 統計情報

http://www.japanpt.or.jp/about/data/statistics/

(5)[日本理学療法士協会 理学療法士のパンフレット]を一部改変
https://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/aboutpt/2014_ptguide.pdf

 

目次

    執筆者について

    新田 智裕
    新田 智裕
    2007年〜2019年、青葉さわい病院・リハビリテーション科に勤務。スポーツ選手からシニアまで幅広い分野のリハビリテーション、スポーツ選手のコンディショニングに従事。日本栄養士会理事の田中弥生教授と共同で、食とリハビリに関する研究活動、講演活動も継続している。 2019年12月〜横浜市青葉区(たまプラーザ駅)にて、Studio & Cafe BALENA(バレーナ) をOPEN。「食と運動を通じてあなたを健康に」をコンセプトにシニア向けデイサービス事業、および全世代を対象とした自費リハビリ&栄養相談事業を展開中。また、高齢者向けの健康リハビリ体操動画を、YouTubeを通じて多数配信している。地域住民の身体の悩みを、「ワンストップ」で「根本的」に解決するために 多彩なサービスを提供している。
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