チーム医療における看護師には,どのような役割があるでしょうか?
近年,少子化・高齢化・核家族化が進み,多様な家族形態および生活様式が見受けられるようになりました.そのため,各患者が抱える問題は,病気による身体的な苦痛にとどまらず,心理的不安,社会経済的不安,精神的苦痛まで多岐にわたります.患者によっては,これら諸問題が複合的に作用して社会復帰困難な状態に陥る場合もあります[1].
様々な問題を抱える患者に対して,総合的かつ良質な医療を提供するには,多職種が情報を共有し,連携して協働することが重要です[2].
厚生労働省の「病院の職種・主な職種別にみた100床当たり常勤換算従事者数」のデータから上位の3種を見ると,医師の総数は,14.1人,歯科医師は,0.6人,看護師は,52.3人,准看護師は,7.4人,臨床検査技師は,3.6人で,看護師の占める割合は,極めて高くなっています[3].
このように,チーム医療の中でも,特に看護師は中心的な役割を担っています.本記事では,看護師の立場や特性,それからチーム医療における役割について説明します.
看護師の立場と特性
看護師は,直接患者と接する機会が他の職種と比べて最も多く,また,幅広い業務を行うため,多くの職種と関わっています.
患者と接する機会がどの職種と比べても一番多い
病院内での看護師が,どれほど患者と接する機会があるのか,業務内容から説明します.
診療の際には,患者の血圧を事前に測定しておいたり,衣服を持ち上げて呼吸音の聴診しやすくしたり,処置しやすいように骨折部位の包帯を取り外しておく等,補助的役割を担い,診療しやすくしています.
患者が療養生活をおくる上で,看護師は,バイタルサイン測定,点滴管理,内服介助,清拭やお風呂介助,食事介助,排泄介助等の様々な看護援助を行っています.看護援助は、患者さんとのコミュニケーションをとりながら行われるので,患者の心理状態を把握することができます.
そのため,看護師が患者と接触する機会は多く,看護師は必然的に患者にとって身近な存在になります.
これらの業務は,患者が受診するときや,入院している間は退院するまで継続するため,看護師は,患者と過ごす時間が多職種と比べて最も多いと言えます.
幅広い業務を行うので,多職種の方と関わることが多い
看護師は,あらゆる医療現場において,診察・治療等に関連する業務から患者の療養生活の支援に至るまで幅広い業務を担い得ることから,いわば「チーム医療のキーパーソン」として患者や医師その他の医療スタッフから大きな期待を寄せられています[4].
例えば,レントゲン撮影の際に,患者の腰が曲がっていて仰臥位(仰向け)になれないことを看護師が知っている場合,あらかじめ診療放射線技師に情報提供しておけば,体位を工夫して撮影してもらえるため,時間の短縮にもなり,患者の負担も少なくなります.
また,食事を配膳した際に患者のむせ込みを観察した看護師は,医師が内服薬を処方する際に,錠剤ではなく,ドライシロップにする等の提案をすることで,患者が飲み込みやすいように工夫することができます.
食品に関しても,患者に食物アレルギーがある場合や,宗教上の問題,苦手なものがある場合等,管理栄養士及び栄養士に情報提供することで,治療のための制限を考慮しつつ,食事のメニューを工夫してもらうこともでき,患者が問題なく必要な栄養摂取ができるように協力をしています.
このように,幅広い業務を行う看護師は,患者の療養上必要な情報を多職種と共有して連携を図っています.
チーム医療における看護師の役割
チーム医療の中のキーパーソンである看護師の役割は,患者の観察や,多職種への仲介役を担っています[5].
看護師はチーム医療のなかではキーパーソン
専門性の高い医療を提供するチーム医療の中で,看護師は患者と過ごす時間が最も多く,チームの中心的な役割を担っています.
保健師助産師看護師法よると,看護師の役割は,「診療の補助」と「療養上の世話」です.そのため,看護師は患者のそばで症状を観察し,そこからアセスメントをして,どうすれば生活の質が向上するか考えています.このような技能を持ったスペシャリストだからこそ,多職種間と情報を共有して,連携を図る仲介役でもあります.
患者の観察
患者の療養上の世話をする中で,バイタルサイン測定や,点滴の管理等,患者と接する時間が多い看護師は,患者の身体的・精神的な状況を把握するために,専門的視点から患者の観察を行っています.
更に,脳血管疾患の後遺症で言葉が思い浮かばなくて話せない失語症の患者や,半身麻痺があるために上手く発語できない構音障害の患者、喉頭がんの切除術の影響で声を失った患者、意識障害があり意思の疎通ができない患者など、コミュニケーションが取りにくい患者も多いため,言語に頼らない情報収集能力も持ち合わせており,様々な視点と方法で,様々な患者に対応しています.
多職種間の仲介役
日本看護協会の看護者の倫理綱領に「看護者は,他の看護者及び保健医療福祉関係者とともに協働して看護を提供する」とあるように,看護者は多職種と協働して看護や医療を提供することが倫理的責務として求められています[6].
日々の現場で看護職が思い悩むこととして,多職種の間で意見が一致せず,何をするべきかわからなくなるということが挙げられます.そのような場合,対立する意見や判断の基盤になっている価値を理解しようとすることで,自分とは異なる価値観や様々な考え方を知ることができます.同時に,看護職の視点で考えや判断について他職種の理解が得られるよう伝えていくことも必要となってきます.
そして,多職種間で出された意見から,どこに見解の違いがあるのかなどを共有し,チームとして解決のための方針を検討していくことが求められます.このとき,患者又は利用者等及びその家族の希望についてチーム全員で理解し,患者又は利用者等が中心であるという前提を共通認識としなければなりません.その上で,チームの中で看護職として行うべきことを検討し,専門性を発揮しながら他職種と協働していくことが重要なのです[7].
まとめ
看護師は,多職種と比べて患者と直接接する機会が最も多く,過ごす時間も長いため,身体的,心理的、社会経済的、精神的な視点で患者を観察し,療養上必要な情報を収集するよう努めています.
看護師は,一人一人の医療従事者から得られる情報を集め,得られた情報を多職種と共有・連携し,時にチーム全体で話し合い,患者にとって最も良いと思われる治療をチームとして実践しています.そのため,看護師はチーム医療を行う上でのキーパーソンの役割を果たしています.より良いチーム医療の形成や,円滑な運用において,看護師の果たす役割は重要なのです.
おわりに
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出典
- 全日本病院協会,「医師をはじめとする多くの職員の連携と協力による『チーム医療』」, https://www.ajha.or.jp/guide/pdf/080821.pdf,2020/09/24 アクセス
- J-STAGE 第20回 学術集会 パネルディスカッションⅡ「社会的問題を抱えた患者が来院したら,あなたはどうしますか」,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaen/21/0/21_80/_pdf/-char/ja ,2020/9/24 アクセス
- 厚生労働省 「医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」 , p30.表35 病院の職種・主な職種別にみた100床当たり常勤換算従事者数, 2017年, https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/17/dl/09gaikyo29.pdf,2020/9/24 アクセス
- 厚生労働省 「チーム医療の推進について」 チーム医療の推進に関する検討会 報告書 ,2010/3/19,https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0319-9a.pdf,2020/9/24 アクセス
- 小倉記念病院HP 看護部「医師から見た看護師」,http://www.kokurakinen.or.jp/recruit/kango-bu/ishi/03/ ,2020/9/24 アクセス
- 日本看護協会,看護実践情報 看護者の倫理綱領,https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/rinri/rinri.html#p9,2020/9/26 アクセス
- 日本看護協会,多職種連携と倫理 考える際の視点 様々な価値観の理解,https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/rinri/text/basic/problem/tashokushu.html,2020/9/24 アクセス