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少子高齢社会で医療機関が取り組むべき人材マネジメントとは?Epigno HR ExpoレポートVol.1

執筆者:Epigno Journal 編集部

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少子高齢化が進む中、病院経営においても人材マネジメントは大きな経営課題になっています。これからの時代において、人材をどのようにマネジメントしていくべきか悩みは尽きません。
エピグノでは、働くことにやりがいを感じてもらって組織を活性化することで、経営を健全化するために医療機関が取り組むべき「人材マネジメント」の重要性を考えることを目的とした「Epigno HR EXPO」を開催しました。
医療業界における有識者の方々から、様々な角度で人材マネジメントの重要性や具体的な事例についてお話しいただきました。その概要を3回にわたってお伝えします。
イベントの前半では

  • 公立大学法人埼玉県立大学理事長・田中滋先生
  • 一般財団法人同友会 藤沢湘南台病院副院長・鈴木紳祐先生
  • 株式会社DTG代表取締役CEO、おうちの診療所医師・岩本修一先生
  • ハイズ株式会社代表、慶應義塾大学大学院特任教授・裴英洙(はい・えいしゅ)先生

以上4名の方々に、それぞれのテーマで講演いただきました。第1弾では、前半2つの講演の概要をお伝えします。

超高齢社会がもたらす2025年問題とは?

医療介護従事者が減っているという誤解

最初に公立大学法人埼玉県立大学理事長・田中滋先生から、「地域包括ケアシステムにおける医療介護人材の展望〜」というテーマで講演いただきました。
最初に田中先生は、30年前と現在で医療ニーズがどう変化したかについてお話されました。今の入院患者の多くは75歳以上であり、入院時に退院後の生活復帰を意識した医療を行わなければなりません。また、経済的な困窮や社会的な孤立など福祉ニーズがある入院患者も増えています。さらに、2035年には85歳以上の人口が1000万人になると見込まれています。
ニーズが増えている一方で、医師や看護師をはじめとする医療従事者は少子高齢化に伴って少なくなっているということがよく言われています。エピグノのパンフレットでもその旨記載していますが、これはマクロでデータを見てみると実は間違い、との指摘もありました。
厚生労働白書によれば、医療・福祉の就業者数は470万人から900万人近くになっており、右肩上がりで増えています。また、日本の全就業者数の中の医療介護関係者の割合も、20年前の7.5%に比べて、現在は約14%とほぼ倍の数字です。2004年以降、外科と産科を除くほとんどの診療科で医師が増えており、看護師も30年以上増え続けています。介護分野もよく人材不足が叫ばれていますが、平成24年以降の介護分野の離職率は減少傾向です。令和3年の離職率は14.3%であり、日本の全産業の平均よりも低い値です。
つまり、供給が減っているのではなく、需要の急増に対して供給の伸びが追いついていないという理解が正しい、と田中先生は話されました。

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理念に応える体制作りが重要

続いて、医療介護従事者の退職理由についてお話がありました。人材不足の原因としてよく言われている「収入が少ない」という理由は実際は5番目。1番の退職理由は人間関係であり、2番目は結婚・出産・妊娠、そして3番目の理由は経営者です。退職者の12%は同種の別の事業所に移っているという結果も出ており、必ずしも医療介護分野から人が逃げているわけではありません。人事や経営の問題です。

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人事面では、今働いている人の満足度が非常に大切です。まずは、現在の職員を辞めさせないこと。辞めると評判が悪くなり、次の人材も集まりません。人が足りないと言い続けるのも避けることです。労働者に医療や介護分野で働くことが「よくないことだ」「辛いことだ」といったネガティブな気持ちにさせてしまいます。また、直接介護やケアを行う時間を増やし、書類業務などの間接的な部分を減らすことで、個人の生産性を向上させるようなオペレーションも必要です。
経営面では、理念に応える体制作りが重要です。医療や介護分野で働く方たちは理念や運営方法に不満を持って同業他社に移る人もおり、理念を重視していることがわかります。これが他業種との最大の違いであり、経営者は法人や事業所が理念に応えるような体制になっているか常に分析していきましょう、との提案がありました。

鈴木紳祐先生〜実際の病院経営者が語る人材マネジメントの現状と解決〜

人材マネジメントに経営者が必要なスキル

鈴木先生からはまず、人材マネジメントで大事なことについての話がありました。人材は成長して、発揮する価値を変化させていく存在です。人材マネジメントとは人材に投資することであり、その目的は人材の活用や生産性の向上、離職防止による組織の目標達成や利益向上です。
人材マネジメントにおける経営層の役割は、方向性を決めることです。そのためにも、リーダーである経営層は意思決定、傾聴、コミュニケーション、コーチングといったスキルを身につけなければなりません。

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また、働く人のモチベーションを上げることも大切です。モチベーションの1番の源泉は、経営理念への共感です。さらに、組織風土への共感、給与などの労働条件、働きやすさ、やりたい仕事ができるかどうかにもモチベーションは左右されます。常日頃から密なコミュニケーションをとり、それぞれの考えを共有することによっても、モチベーションは上げられます。

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組織力を向上するダイバーシティ

その後は「両利きの経営」について触れました。両利きの経営とは、チャールズ・オライリー教授が提唱した、イノベーションを起こすいい組織には「知の深化」と「知の探索」が必要である、という経営論です。知の深化とは、自分の行っていることの深掘りを意味します。しかし、それだけでは経営は行き詰まるため、周りの状況や社会情勢を理解する「知の探索」が必要です。特に、閉鎖的な社会である医療界では、この両方が欠かせません。

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そのために不可欠な要素が、ダイバーシティ、つまり多様性です。組織に同じような人だけが集まっていても、新しい考えは出てきません。藤沢湘南台病院では、医療と全く関係ない外部人材が経営会議に入ることで、組織をブラッシュアップしています。特に、特定の分野に打ち込んできた方が加わることで、組織力が向上しました。

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組織にとっては、さまざまな情報を集める人も大事です。早稲田大学の入山教授が「チャラ男も大事」と表現していますが、顔が広い人の情報によって、自分たちがアップデートしている知の深化がより良いものとなり、組織の革新を引き起こします。

オーディオブックとビジネスチャットがもたらす組織の一体感

続いて、さまざまな本を音声にして聞けるシステムである「オーディオブック」についての話がありました。現在、藤沢湘南台病院では幹部に広めている段階ですが、将来的には職員全体に広める予定です。通勤時間などの隙間時間に参考図書や推薦図書を読んでもらうことで、同じ考えを頭に入れ、組織全体の方向性をより一体化させることを目指した試みです。

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また、「ビジネスチャット」導入の話もありました。導入の背景には、組織内のコミュニケーション不足が業務効率の低下や患者さん、つまり顧客へのサービスの悪化、職員の離職の増加につながるという危機感がありました。
職員が700人いる藤沢湘南台病院では、経営層が一人ひとりに話しかけることは困難です。また、職員が報告のために外来終了を待つという無駄な時間が発生していましたが、これらの課題をビジネスチャットが解決しました。
ビジネスチャットはメールとは異なり「平素より大変お世話になっております」のような無駄な文言がなく、大事な情報だけが書きこまれて一気に読むことができます。エピグノHRの導入時も、担当の方にチャットに入っていただくことで連絡がスムーズになりました。
また、「今日大変でしたね」といった、真面目なチャットには書きにくい「まったりトーク」も作ることで、コミュニケーションを活性化させています。院内でコロナの感染者が出た時や停電時も、限られた人材を上手にマネジメントできるようになりました。

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心理的安全性の担保が組織を強化

最後に、心理的安全性を保つことが組織を強化するという話がありました。「このチームの中で何を言っても大丈夫」という心理的安全性が保たれていれば、新たな挑戦もしやすく、経営陣の意思決定の判断の質も向上します。逆に言いたいことが言えない、言ったら怒られる状況では不正を隠してしまい、大きな不祥事につながりかねません。

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心理的安全性を高めるため、藤沢湘南台病院が始めたのが1on1です。「kakiwai」というシステムを使っています。毎回個人と「どういうことを話したか?」をシステム上に残して振り返り、次の話し合いの時にも確認するため、相手は「前に話したことを覚えてくれているんだな」と思い、心理的安全性につながります。
さらに、限られた人材を開発、つまりタレントマネジメントするためにエピグノの「エピタルHR」を導入しました。個人がどういう研修を受けて、何を勉強したか、という履歴情報を残して、いつでも確認できるシステムです。簡単なアンケートをとることで、所属組織への誇りや心理的安心感、心理的安全性、モチベーションを測ることができ、結果のグラフを見ながら、タレントマネジメントをすることができます。
以上のようにさまざまなシステムやツールを活用していきましょう、という提案がありました。

まとめ

今回は「Epigno HR EXPO」前半の講演パートから、公立大学法人埼玉県立大学理事長・田中滋先生の講演「地域包括ケアシステムにおける医療介護人材の展望」と、一般財団法人同友会 藤沢湘南台病院副院長・鈴木紳祐先生の講演「実際の病院経営者が語る人材マネジメントの現状と解決」の概要をお届けしました。
次回は、株式会社DTG代表取締役、おうちの診療所医師CEO・岩本修一先生と、ハイズ株式会社代表、慶應義塾大学大学院特任教授・裴英洙先生の講演についてご紹介します。

おわりに

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    株式会社エピグノは「全ては未来の患者と家族のために」をミッションに掲げ,医療機関向けマネジメントシステムを提供している企業です.
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