近年、医療が取り巻く状況は大きく変化しています。病院の医療の質は看護の質でもあり、その第一線として管理する看護管理者は非常に重要なポジションにあります。看護管理者に求められる役割が広がる中、2018年には「病院看護管理者のマネジメントラダー 日本看護協会版」を作成。今後は病院だけでなく地域まで視野を広げた関わりが期待されています。
看護管理者とは?
看護部は病院組織最大の部門です。看護師は24時間365日患者さんの一番近くにいる職種であり、患者さんに寄り添った看護を提供し続けます。
看護師のキャリアには、大きく4つの方向があると言われています。1つは、スタッフから主任や師長、部長など段階的に昇っていくマネジメント系の職位。2つ目は、専門看護師、認定看護師、診療看護師など、あらゆる学問分野や知識体系を熟知しているスペシャリスト。3つ目は、特定分野や領域に関わらず知識や技術を発揮できるジェネラリスト。4つ目は、大学院から教員や研究者に進むアカデミア。
アカデミアを除けば、このように組織内のキャリアアップには、3つの軸が存在すると言われているため、看護管理者はそれぞれを効果的に活用していく必要があります。その中でも、直接患者さんに看護ケアを提供しているのはジェネラリストが大多数を占めます。看護の質を保証するためには、スペシャリストを活用しながらジェネラリストに実践的な能力を向上させていくことがカギとなります。
また、看護管理者は病院の理念に基づいた目標を達成するために人や物、知識、サービスなどの様々な資源を活用しながら部署全体のマネジメントを調整・統制する役割があります。
日本看護協会は看護管理者の役割について、「看護の対象者のニーズと看護職の知識・技術が合致するよう計画し、財政的・物質的・人的資源を組織化し、目標に向けて看護職を導き、目標の達成度を評価することを役割とする者の総称をいう」と示されています[1]。
看護師の管理職
看護師の管理職には「看護部長」「看護師長」「看護主任」と大きく3つに分けられています。ほかにも様々な役割が存在しますが、看護管理者はその役割を業務の振り分けを行うだけでなく、育成のことも視野に入れながら役割を与えます。
看護部長
看護部のトップとして全体のマネジメントを行っています。病院の理念い基づいた目標を達成するために様々な資源をうまく活用しながら、部署の調整や統括としての役割があります。また、経営陣の担い手として看護部長と副院長を兼任しているケースが増えてきました。
看護師長
看護師長の役割には、病棟の質を管理するだけではありません。看護の質を高めるために看護業務を行う環境、患者さんが安心して療養できる安全な環境を整える必要があります。また、教育においても監督的立場になってスタッフ全体で教育に関わる環境づくりをすることが求められています。
看護主任
病棟内の業務がスムーズに稼働できるよう、看護業務全般の管理を行います。看護師長の補佐をすることが多いので、マネジメントの視点を持ちながらスタッフへの指導を行います。また一般のスタッフと同様に看護業務にあたります。そのため、現場状況をリアルタイムで把握しているので、師長とスタッフとの間にある心理的なギャップを埋めるために様々な業務調整や教育指導を担っています。
また、医療や看護の環境が大きく変化し続けている中、看護職から副院長という管理職が増加しています。慢性的な看護師不足がさらに表面化したため、病院全体の更なるマネジメント能力も求められるようになっていると考えられています。とくに看護組織は病院雇用者のうち約60%を占めるため、病院経営に及ぼす影響が大きいと言えます。
看護師は様々な科を経て患者さんのニーズに合わせたケアを行うことで、病院全体を見る目が養われていると考えられています。チーム医療の充実が求められているなか、患者さんにもっとも身近な存在であるため、患者さんの視点に立った、患者中心の医療を提供することができます。看護ならではの看護組織力、多職種との調整能力、情報共有など、きめ細かな実践力が整い、医療サービスの向上に繋がっていることから、病院改革を進める目的として看護師の副院長の登用は今後も増え続けていく可能性があります。
今後は変化する社会に対応するため、病院機能全体を考えて診察するものの視点だけではなく、組織を管理する視点、患者さんの療養生活を支える看護の視点などが必要になります。また、看護師が副院長のポジションを担うことで、看護組織の意識改革や看護師自身のモチベーションアップにも繋がり、ひいては病院全体の活性化になると言えます[2]。
病院看護管理者のマネジメントラダー
日本看護協会は地域包括ケア時代に伴い2018年に「病院看護管理者のマネジメントラダー」を作成。医療、看護を取り巻く状況は大きく変化するとともに看護管理者の役割が拡大したことにより病院管理者が獲得すべき能力を目標として挙げ、今後の育成も視野に入れた指標として示しています[1]。
看護管理者に求められる6つの能力とその定義
病院看護管理者の能力を6つのカテゴリーに示し、幅広い視野を広げた看護管理を行うことが出来るよう必要な能力をカテゴリー化したものになります。
組織管理能力
組織の方針を実現するために資源を活用し、看護組織をつくる力
質管理能力
患者の生命と生活、尊厳を尊重し、看護の質を組織として保証する力
人材管理能力
将来を見据えて看護人材を組織的に育成、支援する力
危機管理能力
予測されるリスクを回避し、安全を確保するとともに、危機的状況に陥った際に影響を最小限に抑える力
政策立案能力
看護の質向上のために制度・政策を活用及び立案する力
創造する能力
幅広い視野から組織の方向性を見出し、これまでにない新たなものを作り出そうと挑戦する力
看護管理者の4つのレベルと相当する職位の目安
病院看護管理者として必要な能力を段階的に示したものです。各4つのレベルがあり職位であらわされていますが、職位で決定されているのではありません。あくまでも病院管理者として必要な能力を示しています。
レベルⅠ:看護主任
自部署の看護管理者とともに看護管理を実践できる
レベルⅡ:看護師長
自部署の看護管理を実践できる
レベルⅢ:副看護部長
トップマネジメントを担う一員として看護管理を実践できる
レベルⅣ:看護部長
病院全体の管理・運営に参画するとともに地域まで視野を広げた看護管理を実践できる
看護管理者のレベル別職能要求
認定看護管理者制度との関連
認定看護管理者とは、患者・家族や地域住民に対しより質の高いサービスを提供できるよう、自身が管理する組織の課題を明らかにし、組織内の様々な部署や人に働きかけて、組織全体のサービス提供体制の向上に取り組みます。
また、地域の組織間の連携を図るなど、地域全体の医療・看護の質の向上に努める役割を担っています。看護組織をいかに効率よく良質な看護サービスの維持、医療安全、教育体制、職場環境など全てにおいて管理できる知識を持つ看護管理者の力は極めて重要と言えます。
まとめ
看護管理者は病院の理念にもとづいた目標を達成するために、様々な資源を活用しながら各部署の調整や強化、育成など幅広い役割を担っています。近年、地域包括ケア時代ともいわれるようになり、病院を超えた関わりが求められています。看護を必要とする人への健康とQOLに貢献できるよう看護管理者として組織を進化させ発展させていく視点が大切だと言えます。
おわりに
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