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【DXと医療機関:未来への架け橋】医療機関の人事評価とDX:モチベーション向上と目標達成

執筆者:岩本修一 株式会社DTG 代表取締役CEO、おうちの診療所 医師、経営学修士

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みなさんの医療機関では、どのように人事評価をおこなっていますか?

 

筆者はコンサルタントとして、1000名以上の病院管理職と会ってきましたが、「人事評価が一番ストレス」「どうやって評価したらいいかいつも迷う」などの声を多く聞いてきました。多岐にわたる医療機関の管理職業務の中でも、特に人事評価に関する業務に対して苦手意識や忌避感をもっている方は少なくないのではないでしょうか。

人事評価は、地域医療への貢献や組織の発展に直結する重要な要素です。医療機関としてめざすべき状態に向かうためには、職員のよい行動を増やし、モチベーションを向上させ、組織全体として目標達成に動く必要があります。そこで、人事評価として「この医療機関において、どのような人やどのような行動が評価されるか」を示すことで、各職員・各部署が好ましい行動や目標達成に寄与する成果をより多く生み出すように促します。

多職種で多様な人材が集まる医療機関において、組織としてどうまとまるか、何を共通の目標とするかを一から全員ですり合わせることは現実的ではありません。そのため、経営方針に合う方向や行動を増やす仕組みとして、人事評価があります。

管理職の方々に「人事評価が得意・好き」と感じてもらう必要はありませんが、組織をより良くするための活動だと理解し、少しでも積極的に取り組んでもらうことは必要です。

そこで、組織の目標達成を実現するためのアプローチ「評価DX」についてご紹介します。

評価DXとは何か?

「人事評価の手続きや活動にデジタルを活用することで、より効率的に、より高い再現性を求める方法論」をここでは「評価DX」と呼ぶことにします。

人事評価は、組織に所属する従業員の業務遂行能力、成果、行動、態度などをみて基準に基づいて点数をつける行為およびそのプロセスです。

代表的なものとしては、目標管理制度(Management by Objectives; MBO)、ランク付け(レーティング)などがあります。例えば、期のはじめに自分の上司と今期目標をすり合わせて、期中にその進捗や行動について話し、期末にそれを評価し、ランク付けをつけて報酬に反映するなどがあります。

従来、人事評価制度の運用には多大な手間がかかっていました。人事評価シートを紙で書き、その紙を保存し、人事面談のたびに取り出すことが必要だったからです。人事評価の内容は、情報としても非常にセンシティブであり、保存・保管の方法にも注意が必要です。

また、その手間のわりに、評価の納得性向上や評価者へのフィードバックなどに利用しにくい面もあり、「なぜこんなに手間をかけてやっているのか」という従業員からの声が出てくることも少なくありません。

評価DXを導入することで、運用上の手間を減らしながら、育成や異動・昇進などのデータ基盤として利活用しやすくすることが可能です。

 

医療機関における人事評価制度の現状

冒頭でご紹介したように、管理職の中には評価をおこなうことに対して、苦手意識を持っている方も少なくありません。その方々に話を詳しく聞いてみると、その理由はだいたい以下のように整理できます。

 

1)どうやって評価したらいいかわからない

2)評価した相手がかわいそう、相手から嫌われたくない

3)自分の評価に自信がもてない

4)評価の結果に対する責任を重く感じている

 

1)は、評価基準や評価方法の理解不足に起因しています。管理職になる際に人事評価についてのレクチャーなどを実施しますが、評価方法を理解しても、実際に自分の部下を評価するときには、戸惑いを感じてしまうものです。

加えて、制度設計としての評価基準が曖昧だったり、評価者に対するサポートやフィードバックが十分になかったりすると、評価者の価値観や能力だけに評価の質が左右されやすくなります。業務内容を重視する人、その人の頑張りを重視する人、顔色をみて評価をつける人など、評価者ごとの変動がみられる場合もあります。評価者としても、真面目であればあるほど評価の重圧を感じて、回避的に横並びの評価をつけたり、評価業務を遠ざけたりしてしまうこともあります。


また、人事評価は評価を受ける側、つまり職員のモチベーションやパフォーマンスに直結する要素です。横並びの評価をしたり、評価自体を避けたりする評価者の行動は、評価に対する信頼性や納得性を下げ、被評価者である職員のモチベーションを低下させ、個々人のパフォーマンスに悪い影響を与えます。

 

人事評価は、制度・評価基準・評価者への教育や支援などの上に行われる複合的な業務になります。これらの要素が一つでも不足していると、期待される効果が発揮されず、組織全体の生産性向上につながらない可能性があります。

 たとえば、人事評価に課題を感じたときに、評価者研修のような局所的な改善策を講じても、期待される成果を得るのが難しいです。まずは人事評価の仕組み全体を把握してみるのがいいでしょう。具体的には、以下のような点を中心に確認してみてください。

 

表 人事評価に関する簡易チェックリスト

  • 組織でどのような人(ポジション、職種、能力水準など)、どのようなこと(業績、行動、スキル等)を評価したいですか?
  • 人事評価制度における評価項目と評価基準は明示していますか?
  • 評価項目と評価基準は「評価したいこと」と合っていますか?
  • 評価シートは評価基準に基づいて実際に評価されていますか?
  • 評価者は評価項目と評価基準を十分に理解していますか?
  • 評価者の訓練やサポートにはどのようなものがありますか?
  • 被評価者へのフィードバックの頻度は適切ですか?

人事評価は「チームを動かすためのマネジメントツール」

人事評価に対してネガティブに捉えてしまうことの根源的な理由の一つに、「患者さんや地域への貢献」と切り離して考えてしまうから」というものがあるのだと思います。確かに、職員に対する評価は治療やケアなどの医療行為と異なり、意義を見出しにくい業務のように思えるでしょう。実際には、人事評価は「患者さんや地域への貢献」に密接につながる意義深い仕事です。

人事評価は「組織としてのぞましい行動や成果を示し、それを増やすための仕組み」です。

たとえば、病棟管理における目標で、「患者安全の徹底」を掲げるとします。管理者は患者安全に寄与する行動や心がけを推奨し、その実施状況を確認していきます。人事評価にてできている人に高い評価を、できていない人に低い評価をつけます。、つまり、病棟目標に合致した行動を賞賛し、そうでない場合は改善してもらうように促し、その結果、職員は病棟目標の達成に向かって取り組むようになります。

目標は医療機関が理想とする組織となるために設定されるものです。患者安全を目標にすることでその医療機関が「より安全な医療を患者さんに届ける組織」になっていきます。また、診療報酬の加算や売上増加を目標にすれば、利益を増やすことで人材や設備へ投資が行えて、結果として「より質の高い医療を地域に提供しつづけられる組織」になっていきます。

 

 

このように、人事評価は「チームを動かすためのマネジメントツール」であり、管理職として組織的に患者さんや地域医療に貢献していくためには必須ともいえます。

評価DXの効果と進め方

評価DXを導入することで、以下のような効果を期待できます。

 

  1. 人事評価の運用の効率化
  2. 人事評価の運用の見える化
  3. 人事評価に関する情報の一元管理
  4. 人事評価データの利活用

 

一般的に、人事評価は「目標設定→自己評価→上司評価→評価面談」の順序で進められます。このとき、それぞれの工程において、目標設定シートや人事評価シートなどの書類が作成されます。また、それらの書類を職員単位で保存する必要があります。紙で運用する場合、自己評価シートを印刷する、上司に渡す、人事部で保管するなどの手間が発生します。Excelファイルで運用する場合も同様で、評価対象者(職員)、評価者(上司)、人事評価管理者(人事部)へとメールで転送されていき、Excelファイルが一次的あるいは半恒久的に保存されることとなります。
しかしながら、評価シートは職員の個人的な情報や、上司や人事部からの職員の業務遂行状況に対する指摘事項や改善点を含めた事柄も書き込まれるため、極めてセンシティブな内容です。したがって、高い機密性を確保して保管する必要があります。このことを考えると、多数の人や部署で保管したり、漏洩しやすい形式でやりとりすることは本来望ましい姿ではありません。

評価DXを導入することで、手間を減らしつつ、機密性を担保することが可能となります。一般的な人事評価の機能を備えた人事システムを用いることで、、職員は上司、人事部などに対して、自身が作成した文書をワンクリックで共有および通知を送ることができるでしょう。また、このシステム内に過去の人事評価の情報も登録しておくように設定しておけば、一覧的に確認できるようにすることも可能です。これにより、各職員が自分の今までの人事評価を振り返ることが容易となり、成長過程を理解しやすくなります。

このように、情報の一元管理と一覧性を確保することで、中長期でのキャリア形成を支援しやすくなり、配置や教育にも活用しやすくなります。最近では、人的資本経営という言葉もあり、上場企業では人的資本情報の開示が求められるようになっていますが、人事に関するデータ収集・データ管理は人的資本経営の必要条件です。

 

上記のようなことが実現できる評価DXのツールは既に数多くあります。一般企業向けに作られたものが多いですが、医療機関に特化して作られたものもあります。

一般企業向けの評価DXツールであって医療機関で十分に利用可能です。カオナビやタレントパレットなど、人事データベース機能と人事評価ワークフロー機能を備えたものが本記事の趣旨に合ったものになります。その他に、労務手続きの効率化やエンゲージメントのモニタリング、資格更新の管理などの機能を備えたものがあります。費用面でも、クラウドサービスがなかった時代に比べると比較的低額で導入できます。

 

医療機関専用の評価DXツールとしては、エピタルHRがあります。企業向けシステムと同様に、人事評価データなどの人事データを一元管理し、スタッフマネジメントを支援する機能が備わったクラウドサービスです。

評価DXツールを導入する際には、自院の人事制度や運用に合わせた初期設定を行う必要があります。一般企業向けのツールでは職種や資格の設定などの医療機関特有の設定から行う必要がありますが、医療機関専用のツールであれば、当初から医療機関における人事情報の特徴を把握してつくられているため、そのような手間が少なく済みます。

また、エピタルHRでは、シフト作成機能や施設基準の届出書類(様式9)作成機能など、医療機関の利用シーンに合わせた機能もあります。

どのツールを導入するにしても、自院の人事制度の設計・運用を踏まえて、導入目的に照らして、選定をすることが重要です。

まとめ

今回は評価DXについて解説しました。医療機関における評価DXは、単なるシステム変更にとどまらず、スタッフのモチベーションや組織全体の推進力に関わる取り組みです。人事制度の設計とシステム設計をうまく整合させることで、経営的な価値もより大きなものとなるでしょう。

おわりに

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    執筆者について

    岩本修一
    岩本修一
    株式会社DTG 代表取締役CEO、おうちの診療所 医師、経営学修士。
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