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少子高齢社会で医療機関が取り組むべき人材マネジメントとは?Epigno HR ExpoレポートVol.3

執筆者:Epigno Journal 編集部

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少子高齢化社会が進む中、病院経営においても人材マネジメントは大きな経営課題になっています。これからの時代において、人材をどのようにマネジメントしていくべきか悩みは尽きません。

 

エピグノでは、働くことにやりがいを感じてもらって組織を活性化することで、経営を健全化するために医療機関が取り組むべき「人材マネジメント」の重要性を考える目的で「Epigno HR EXPO」を開催しました。

 

イベントレポート第3弾の今回は、後半のパネルディスカッションの概要をお伝えします。エピグノの取締役医師CMO志賀 卓弥が進行役、前半で講演いただいた田中滋先生、裴英洙先生、岩本修一先生、鈴木紳祐先生がパネリストとして登壇しました。

医師の働き方改革による人材マネジメントの変化

志賀からの「個人の成長をサポートし、組織全体が成長するためにはどのような人事戦略を考え実行していかなければいけないのか、さらに深掘りしたい」との提案からパネルディスカッションが開始。最初に、病院の人材面における課題について議論が交わされました。

裴先生は現在の大きな課題として医師の働き方改革をあげ、長時間労働が行われている病院で労働時間を減らしていく方法として、タスクシェアやタスクシフトについて言及。「タスクシェアを担う人材をどう育てるかが緊急の課題であることは間違いない。量的な確保とともに質の確保、つまり1人あたりの生産性や能力を上げることも課題」との発言がありました。

タスクシェアに関して鈴木先生は、医者の中には、たとえば紹介状の返事を自分で書きたいなど敢えて忙しさを好む人がいること、そして、それがタスクシェアを進める障壁になることを指摘します。「50代、60代の先生方に自分がしてきたのと同じ仕事を20代、30代の若い世代ができるわけではないことを理解してもらうことが大事であり、その点で働き方改革の流れは有効である」と述べました。

小規模の診療所における人材管理については、岩本先生が「特に、在宅診療の場合は24時間で対応しなければならないため、従来のひとりで開業して診療する形では中長期的に成り立たない。私たちは3人以上で診療するグループ診療所で開業したが、そうした形で継続性を担保することが必要」と発言

田中先生は「医師の役割を直接の診療と間接的な診療、補助業務、書類業務と4つに分けた時、政府は医師の直接の診療時間だけで見れば、人数が足りると計算している」と頭数の問題ではないことを指摘しました。

働き方改革の話の流れから、志賀は時間外労働が減ることで、給料が下がることを心配する先生が多いという懸念を提示します。

これについて、厚生労働省の検討会にも参画されている裴先生は、その懸念が検討会でも議論されていることを伝えたうえで「本業だけでは足りず副業の報酬で生計を立てている医師も少なからずいる。本業・副業の両方を合わせた給与水準を見ていかければならない。同時に今は、診療報酬の加算や働き方改革に特化した補助金等々がかなり手厚くなっているため、それらを有効活用することが経営者の仕事だと考えている」と述べました。

実際に経営に携わる鈴木先生は、裴先生の言葉に賛同したうえで「今後働き方改革が進むと、大学病院が中小病院から医師を引き上げてしまうと思う。タスクシフト・タスクシェアを進めて医者の生産性を上げないと、病院の売上も下がり、医師に支払う給料も減るという悪循環になる」と課題意識をあげました。

そのうえで働く時間を減らしつつ、生産性を下げないためにすでに取り組んでいることとして、事務系の人材をどんどん採用して、タスクシフトを進めたり、チャットツールを使ってより効率的に業務を進められるようにしていること、また、基本的に命に関わるような緊急手術以外は夜間に行わないようにしていることを話されました。

これに対して、田中先生からは「かつての国立大学病院のように、病院の売上が増えても減っても、給与には関係がない病院が今でも多いと聞く。単に働く時間が減ったら、給料を減らすというのは愚かな経営であり、結果として病院の経営状況を悪化させるだけ」と指摘したうえで、病院の収入と働く人の賃金をリンクさせるなど、経営者の視点を変えていく必要があると提起しました。

ここまでの議論に関して参加者から「病院経営において、日本が目指すべき他国の事例はあるか?」との質問も。田中先生は「医療制度が全く違うから、参考にならない。外国の事例を求めるよりは、国内の良い病院の事例を探した方がいい」と回答。裴先生も医療制度の違いから比較は難しいとしたうえで、「働き方改革の検討会ではアメリカ、イギリス、フランス、ドイツと日本で働き方改革の比較をしているので、その資料は参考になると思う」と答えました。

病院内のタスクシフトの具体例と注意点

続いて、議題は「人から人へ」「人からシステムへ」のタスクシフトに移りました。

まず近年広がりを見せている診療看護師(NP)の活用について、鈴木先生から「診療看護師はまだ多くなく、小さな病院では採用したくても採用できない。現時点で、産婦人科や外科などで、人工呼吸器の管理や時間がかかる縫合ができる看護師の存在が非常に助かっているため、診療看護師が増えるとありがたい」との発言がありました。

また、タスクシフトにあたっては、どこまでは医師がやらなければならない仕事で、どこからはその他の職種も担えるのか、線引きが難しいことも課題の一つです。その点について田中先生は、歯科医師や薬剤師も新型コロナウイルスの筋肉注射をできるようになった事例を挙げ、「業務を絞ったタスクシフトの検討は進んでいる。タスクシフトは医師から看護師へだけではなくて、看護師から介護士へもある。医療全体の中でどの業務をどの職種に移すかについては、大きな制度設計が必要」と指摘しました。

一方「人からシステム」へのタスクシフトについて、岩本先生は「病院内で可視化されていないところも多いので、まずはオペレーションを可視化することが重要。やめられる業務はやめて、残った業務をタスクシフトするという順番でなければならない」と強調しました。

すでにシステムへのタスクシフトを展開されている鈴木先生は、「『なぜそのシステムを導入するのか?』という目的を考えなければならない。人の仕事量を減らし、売上や利益を上げることが目的だから、スモールスタートの方がいい。我々の病院でも初めに大きいシステムを導入して痛手を食うと次の導入が難しくなると思い、ほとんどコストがかからないシステムから導入をはじめた」と述べました。

また、参加者からの質問で「病院の労務情報やHR情報を政府主導で標準化できないのか?」という問題提起がありました。これに対し田中先生は「人の扱いは標準化が困難。プライバシーの面で公開も難しいから、人材管理に関する標準化を国が求めることはできないだろう」と回答したうえで、病院協会や医療法人協会といった協会内であれば、実現可能性があることについても言及しました。

志賀からは「看護協会はある程度標準化した評価基準をつくっているから、職種ごとの評価の方法は標準化できるが、給与に紐づく部分は難しい」との発言がありました。

ツール導入による職場環境の変化

さらに、議論はツールの導入による職場環境の変化にも及びました。

鈴木先生は©Chatworkの導入によって、院内の職員の得意分野に気づけたのが一番よかったことだと話します。「職員がさまざまなアイデアをチャット上に書きこんでいくうちに、自分の得意分野を話す人が現れた。たとえば、動画や写真を撮ることが得意な人材がYouTubeを制作して、人材採用に力を発揮してくれた。職員の得意分野を活かせる場所を作れたことで、組織へのエンゲージメントが向上した」と発言。

さらに「最初は、自分だけがチャットに書きこんでいる状態だった。そこで、裏で個別にお願いして、自分以外にも書きこむ人を増やしたところ、一気に『好きなことを書いていいんだ』という風潮が生まれた。今では、職員側から自然と提案が出てくるので、経営者が指示する必要がなくなっている」とツールの利用を活発化するための工夫についても話されました。

また、DX化のコンサルティングを行っている岩本先生に志賀から「DX化を行う時、慣れるまでの数ヶ月の間にどのようなサポートやアドバイスをしているのか?」と尋ねると、岩本先生は3つのポイントを述べました。

1つ目は意識のすり合わせを行うこと。何か新しいことをする時、多くの人は短期的に良くなると考えるが、実際は一時的にパフォーマンスが下がります。DX案件は時間がかかるし、面倒臭いことを理解してもらうことが必要だと言います。

2つ目は導入後、とりあえず1回使わせるような仕組みづくりをすること。最初に1回使ってもらうハードルが高いためです。岩本先生は自身が組織の中に入って、使い方の動画を共有したり、研修の質問や振り返りをビジネスチャットに入力させるように設計したりしてきたと言います。

3つ目は、オンラインだけでなく、オフラインでも攻めること。組織や業務をよりよくすることが目的なため、すべてをオンラインで完結する必要性はなく、対面でできることは対面でやることが大事だと述べました。

最後に、田中先生から「医療は地域包括ケアシステムの一員。病院は院内マネジメントだけではなく、地域を見ていかなければならない。今後は入院と外来に加えて、全国的に在宅医療が増えていく。遠隔医療での無駄な労働時間や移動時間を減らすことや生産性向上がこれからの新しい医療業界のあり方のために必要。医療はまだまだこれから伸びる産業だから、病院経営者の方は今日の話を活かして欲しい」とエールが送られて、パネルディスカッションは終了となりました。

まとめ

今回は「Epigno HR EXPO」後半のパネルディスカッションの概要をお届けしました。
医師の働き方改革によって進む「人から人へ」「人からシステムへ」のタスクシェアやタスクシフトについて具体例を交えながら意見が交わされました。参加者からの質問もあり、大いに盛り上がったパネルディスカッションとなりました。

おわりに

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    Epigno Journal 編集部
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    株式会社エピグノは「全ては未来の患者と家族のために」をミッションに掲げ,医療機関向けマネジメントシステムを提供している企業です.
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