「うまく言葉が出てこない」「文字を読めない」などの失語症を抱える患者さんと医療現場で関わることが皆さんもあるかもしれません。そのときに、どのような対応をすれば良いかご存知でしょうか。失語症にはさまざまな種類があり、それぞれの症状にあわせて対応をすることが大切です。そのためには、失語症がどのような障害なのかをよく理解する必要があります。
本記事では、失語症の症状や原因、関わるときのポイントなどについてご紹介します。失語症の患者さんとの関わり方を知ることで、医療ケアを効率的に提供できるようになるでしょう。
失語症とは?
失語症とはどのような障害なのでしょうか。最初に失語症の症状や原因について解説します。
失語症の症状
失語症とは、人とのコミュニケーションに必要な「聞く・話す・読む・書く」などの機能が障害されている状態のことです(1)。これらの高度な機能の障害を「高次脳機能障害」とも呼び、失語症はその1つです。
失語症になったときの具体的な症状としては、以下の通りです。
- 相手の話を理解できない
- うまく言葉が出てこない
- 話すときに他の言葉が出てしまう
- 文字を読めない
- 文字を書けない
これらの症状によって人との意思疎通がしにくくなると、日常生活や社会生活に支障をきたします。
失語症を引き起こす原因
失語症を引き起こす原因は、おもに以下があげられます(2)。
- 脳梗塞や脳出血などの「脳卒中」
- 交通事故・転倒などによる「脳の外傷」
これらの原因によって、脳の言語機能に関係する場所に障害が出ると失語症を発症することがあります。脳卒中では、失語症の他にも半身の腕と足が動かなくなる「片麻痺」をともなうこともあるでしょう。
また、障害された脳の場所によって失語症の症状は異なり、どの程度の失語症を発症しているのかは人それぞれです。
失語症の種類
失語症といっても、その種類はさまざまです。種類によって症状も大きく異なるので、一人ひとりの状態をよく評価する必要があります。ここでは代表的な失語症の種類とその症状について解説します(2)。
運動性失語(ブローカ失語)
運動性失語は、脳内の「頭で考えたことを言葉に変換する機能」が障害されることで生じるとされています。 以下のような症状がみられます。
- 言葉を理解できるが、うまく話せない
- 話しはじめに言葉が出にくい
- 単語レベルの短文ならなんとか話せる
このように、話している内容は理解できるものの、言葉をスムーズに出せないのが運動性失語の特徴です。
感覚性失語(ウェルニッケ失語)
感覚性失語は、スムーズに喋れるものの、相手が話す言葉をうまく理解できないのが特徴です。
以下のような症状がみられます。
- 言葉はスムーズに出せるものの、言い間違いが多い
- 相手の言葉をうまく理解できない
- 言葉が支離滅裂になることがある
- うまく文字を書けない
また、自分が意図しているものとは別の言葉を喋ることもあるため、会話が成立しにくい面もあります。たとえば、「トイレに行きたい」を「ご飯に行きたい」と話すこともあれば、日本語ではない言葉に変換してしまうこともあります。
全失語
全失語は「話す・聞く・書く・読む」といったコミュニケーションに関する機能が重度に障害されている状態です。全失語はさまざまな種類のなかでも、もっとも障害度の高い失語症といえるでしょう。
相手の言葉を理解するだけでなく、喋ることも困難な状態なので、コミュニケーションに大きな支障をきたします。
失語症と構音障害との違い
失語症と似ている障害として、「構音障害」があります。構音障害とは、唇や舌などの麻痺や筋力低下によって言葉をうまく話せなくなる状態のことです。高次脳機能障害である失語症とは異なり、構音障害は声を出すための運動機能が損なわれることで発症します。
構音障害は言葉を話すのが難しくなるだけで、その他のコミュニケーション能力に障害が出るわけではありません(3)。失語症は種類によっては言葉の内容自体が理解できない場合があるので、構音障害とは明確な違いがある点をおさえておきましょう。
失語症の方に話しかけるときのポイント
ここでは言葉が伝わりにくい失語症の方に話しかけるときのポイントについて解説します。
短文でシンプルな言葉を使う
なるべく文章を短くして、シンプルな言葉を心がけましょう。長い言葉やむずかしい言葉を使うと、理解されにくくなります。会話の例としては、以下の通りです。
【会話の例】
NG:この後12時から食事なので、ご飯が来るまでここで待機していてください。
OK:これからご飯です。ここで待っていてください。
また、話す際は一つひとつゆっくり、はっきり喋るようにしましょう。
「はい・いいえ」で答えられる質問にする
失語症の患者さんに対しては「はい・いいえ」で答えられるような質問をしましょう。ある程度返答が決まっている質問をすることで、相手から理解が得られやすくなります。
たとえば、「どこに行きますか?」「何の食べ物は好きですか?」などの質問だと、返答のバリエーションが多くなるため、難易度が高くなります。その場合は、「トイレに行きますか?」「りんごが好きですか?」のように言い換えると、患者さんも返答がしやすくなるでしょう。
非言語的なコミュニケーションを活用する
ジェスチャーや写真などを活用した非言語的なコミュニケーションを取り入れるのもおすすめです。言葉でうまく伝わらない場合は、トイレやリハビリなどの行動を示した絵カードや、身振り手振りなどを活用してみましょう。聴覚だけでなく、視覚的な情報を入れることで、患者さんの理解が得られやすくなります。
コミュニケーションの手段は、決して言葉だけではありません。会話だけではむずかしい場合は、非言語的な手段を活用してみましょう。
失語症の方に話してもらうときのポイント
ここでは、言葉を出すのがむずかしい失語症の患者さんに話してもらうときのポイントを解説します。
途中で遮らずに最後まで言葉を待つ
途中で会話を止めずに、最後まで待ちましょう。失語症の患者さんは途中で言葉が詰まってしまうこともあります。そのときにフォローしようとして言葉を遮ると、本人としても「最後まで伝えたかった」と感じることもあります。なるべく先回りをせずに最後まで言葉を待つようにしましょう。
ただし、待った後でもなかなか言葉が出ず、本人が困っている状態の場合は、こちらからフォローをしてみてください。
言葉を急かさないように穏やかな雰囲気を作る
失語症の患者さんの言葉を決して急かさないように、穏やかな雰囲気作りをしましょう。急かしているような雰囲気を作ると、患者さんも焦って余計に言葉が出なくなってしまうことがあります。
患者さんが「ゆっくり話しても大丈夫なんだ」と安心できるように、焦らせないような雰囲気を作ることが大切です。そのためには、失語症を理解したうえでゆっくりと話したり、気長に待ったりするようにしましょう。
失語症の患者さんと関わるときの注意点
失語症の患者さんと関わるときに注意すべき点は、子どもに対するような振る舞いをしてはいけないことです。失語症は脳の障害によってコミュニケーション能力に必要な機能は低下していますが、認知機能や思考能力が損なわれているわけではありません。そのため、幼稚な言葉を使うのは控えましょう。
また、意図とは違う言葉を発したときに笑ったりすることも、本人の尊厳が傷つく原因となります。話すときや会話を待つときの工夫は必要ですが、あくまでも大人として接することが大切です。
まとめ
失語症はコミュニケーションに関係する機能が低下して、日常生活でのやり取りに支障をきたす障害です。失語症にはさまざまな種類があるので、症状によって対応の仕方が異なります。症状に合わせた対応がうまくできないと、余計にコミュニケーションが取れなくなったり、患者さんを傷つけたりする恐れもあります。話すのが苦手なのか、理解するのがむずかしいのかよく評価したうえで、その症状に適した接し方を心がけるようにしましょう。
おわりに
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出典
(1)失語症-独立行政法人国立病院機構鳥取医療センター
https://tottori.hosp.go.jp/section/cnt1_00024.html
(2)関西福祉科学大学-失語症とは?言語聴覚士が関わる失語症について
https://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/fukkalibrary/article/ST19.html
(3)日本福祉教育専門学校-失語症と構音障害のちがいとは?