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日本の未来を支える地域包括ケアとは?医療・介護分野の取組事例と課題

執筆者:吉澤 香子 フリーライター

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地域包括ケアは、急速な高齢化が進む日本の未来を支える地域づくりのための考え方です。団塊の世代のすべてが75歳以上となる2025年を目処に、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。

地域包括ケアシステムにおいて医療・介護従事者の果たすべき役割は大きく、今まで以上にさまざまな機関や人々との連携が求められています。関係者と協力して地域の特性に合わせた仕組みづくりをするために、地域包括ケアシステムがどんなものか理解することが大切です。

この記事では、地域包括ケアシステムの基本的な考え方や具体的な取組事例、医療・介護分野における役割と課題について解説します。

地域包括ケアとは?

地域包括ケアとは、「医療や介護が必要な状態になっても、住み慣れた地域で人生の終わりまで自分らしい暮らしができるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する」という考え方です。

地域包括ケアの考え方は1980年代に生まれました。その仕組みである「地域包括ケアシステム」という言葉が初めて法律で使われたのが、2005年の介護保険法改正の時のことです。2014年には「医療介護総合確保推進法」が施行され、地域包括システムの構築が全国的に推進されるようになりました(1)。

地域包括ケアの基本的な考え方

地域包括ケアの基本は、その地域の実情に合わせた取り組みを行うことです。高齢化の状況や医師・看護師の数などには地域格差があり、抱えている課題もさまざまです。人口が多い地域と過疎化が進む地域では住民のニーズも異なります。

そのため、地域包括ケアシステムは国ではなく市町村が主体となり、地域の特性に応じて作り上げていくものとされています。現在、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目処に「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。

地域包括ケアが必要とされる背景

地域包括ケアが必要な1番の理由は、日本で急速に進む高齢化に対応するためです。2021年に65歳以上の人口は3,621万人となり、全人口の約30%に達しています。また、今後高齢者のみの世帯が増加することが見込まれており、2025年には全世帯数の4分の1を超えると予測されています。今後、医療や介護、日常生活支援のニーズが増大することは間違いないでしょう。(

一方、少子化による人口減少が進む中で、医療・介護サービスの担い手は少なくなります。 そのため、医療や介護の専門家だけではなく、行政やNPO法人、また高齢者自身も含めた多様な団体や人々によって、地域の支え合いを行う地域包括ケアが求められているのです。

地域包括ケアシステムの目指す未来と5つの構成要素

厚生労働省が推進する地域包括ケアシステムの目指す未来は、主に5つの要素を基本として構成されています。

地域包括ケアシステムの目指す姿

地域包括ケアシステムが目指す姿とは、主に「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」「住まい」の5つの要素が互いに有機的に連携する地域作りです。

下記のイメージのように、地域の利用者に必要なサービスがおおむね30分以内に継続的に提供されることを目指しています()。

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また、地域包括ケアの理想の姿は植木鉢モデルに例えられます。住まいや介護予防、生活支援を植木鉢と土、医療・介護を植物として捉えたものです()。

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植物は植木鉢や土が無いところでは育つことができません。同じように、地域包括システムでは、自分らしい暮らしを送るために、まずは安心できる住まいや日常生活を支える生活支援、寝たきりにならないための介護予防が欠かせないと考えられています。このようなベースがあって初めて、専門職による医療や介護サービスが効果を発揮するという考え方です。

地域包括ケアの5つの構成要素

では、地域包括ケアを構成する主な5つの要素を見ていきましょう。

①医療

地域包括ケアの医療は、かかりつけ医や地域の病院、歯医者や薬局が連携して担います。退院後も訪問診療や訪問看護を自宅で受けられる仕組みづくりを目指しています。

②介護

介護は在宅系サービスと施設・居住系サービスに分類されます。前者には訪問介護やデイサービス、後者には老人ホームなどが含まれます。

③住まい

自立した生活のためには、尊厳とプライバシーが守られた住まいが確保されなければなりません。自宅やサービス付き高齢者向け住宅が該当します。

④介護予防

要支援や要介護状態を予防するための取り組みです。地域住民が運営する体操教室や、リハビリテーションの専門職が行う指導による自立支援の取組が推奨されています。

⑤生活支援

高齢者が日常生活を送るための取り組みも必要とされています。たとえば、掃除や洗濯、料理や買い物といった家事への支援ニーズには、高齢者自身がサービスの担い手となって参加する体制づくりが大切です。

地域包括ケアシステムの取組事例

地域包括ケアの取り組みは、すでに全国で各地域の特性に合わせて、さまざまに展開されています。代表的な事例を3つ紹介します。

都市部の一体的な取り組み(東京都世田谷区)

東京都世田谷区は人口規模が23区中最大であり、一人暮らしの高齢者や高齢者のみの世帯の合計が約半数を超えています。都市部で高齢化が進む世田谷区が取り組んでいるのが、住民からの意見を反映させ、地域包括ケアの5つの要素もバランスよく取り入れた仕組みの構築です。

たとえば、医療連携推進協議会を中心にした在宅医療の推進の他、NPO法人や地域のボランティア団体、大学など約70の団体が連携した住民主体の活動も盛んに行われています()。

在宅医療サービスの拡充(千葉県柏市)

都心のベッドタウンである千葉県柏市では、行政が中心となって多職種と連携して、在宅医療を推進する取り組みが行われています。

具体的には、医療・看護・介護の関係者が集まる研究会を複数回開催し、ルールづくりや関係づくりを通して、効率的に医療を提供する体制を整えました。また、在宅医療従事者の負担軽減のために、主治医・副主治医システムの構築、在宅医療に従事する人材の育成、医療拠点の整備に積極的に取り組んでいます()。

介護予防と自立生活支援(大分県竹田市)

大分県竹田市は高齢化率が40%と全国平均を大幅に超えており、介護保険費用の支出の増加が課題となっていました。そこで立ち上げたのが、暮らしのサポートセンター久住「りんどう」です。

介護保険外のサービスを利用して、高齢者が自立した生活ができる支援体制の構築に取り組んだ結果、介護予防で自立度が高まった高齢者が、サービスの新たな担い手となる循環が生まれました。高齢者の生きがい創出につながり、地域で互いに助け合う体制が広がっています()。

地域包括ケアの医療・介護分野における役割と課題

地域包括ケアでは、専門職である医療・介護従事者が大きな役割を果たすことになります。具体的な役割と、その役割を果たすための課題について解説します。

在宅医療・介護連携の推進

高齢化にともない、病気を治すだけではなく、病気を抱えながら生活する人に対するケアのニーズは拡大しています。また、病気になった時に、多くの方が自宅等の住み慣れた場所での療養を望んでいます。

地域包括ケアシステムにおいて、入院治療を終えた後に自宅療養へスムーズに移行するためには、在宅医療と介護の連携体制の構築が欠かせません。また、在宅医療に取り組む医師を増やすことや在宅医療に関する人材育成などの体制整備が求められています。

人材不足の解消

地域において、必要なサービスを継続的に提供するためには、医療・介護分野の人手不足の解消は直近の課題です。人手不足の状況は地域による格差も大きく、過疎化が進む地域では医師や看護師、介護の担い手不足が深刻になってきています。

特に、在宅医療は医療従事者にかかる負担が大きくなっています。新たな人材の育成や、離職防止、結婚・出産によって現場を離れた女性に対する復職支援などの取り組みが求められています。

多職種連携の強化

地域包括ケアの構築には、多職種連携の強化が欠かせません。医師や薬剤師、看護師、ヘルパーなどの医療・介護従事者だけでなく、ケアマネージャーやボランティア団体など、様々な分野の人々の連携が必要です。

地域の関係機関が協力することで、利用者に合ったサービスを切れ目なく提供し、誰もが自分らしい生活を送ることができる地域社会の実現に近づくでしょう。

デジタル化の推進

多職種の連携を試みた時に、情報が紙で管理されている状態では、情報を共有して活用することは困難です。患者の情報をデジタル化して共有することで、医療や介護機関同士だけではなく、患者さんや家族へのコミュニケーションも効率的になります。また、医療・介護の質向上とともに、医療従事者の負担軽減にもつながります。

まとめ

今回は、地域包括ケアの概要や具体的な取り組み事例、医療・介護分野の役割や課題について解説しました。

 

高齢化が進む中で、医療や介護のニーズは拡大する一方、サービスの担い手不足が懸念されています。地域包括ケアシステムは、医療や介護の専門家だけに負担を強いるのではなく、行政やNPO法人、地域住民自身も協力する仕組みです。実現までにはまだまだ課題もありますが、日本の未来を支えるシステムとなるでしょう。

おわりに

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出典

(1)医療介護総合確保推進法(e-Gov法令検索)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=401AC0000000064_20220617_504AC0000000068 

(2)令和4年版高齢社会白書(内閣府)

 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/gaiyou/04pdf_indexg.html

(3)地域包括ケアシステム(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/

(4)「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する研究事業-地域包括ケアシステムと地域ケアマネジメント-(平成28年3月)」(厚生労働省)

https://www.murc.jp/uploads/2016/05/koukai_160518_c1.pdf

(5)都市部での医療・介護・予防・生活支援・住まいの一体的な提供に関する取組(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/model01.pdf

(6)行政と医師会の協働による在宅医療の推進と医療介護連携(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/model04.pdf

(7)介護保険外のサービスの開発とそれを活用した介護予防と自立生活支援(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/model06.pdf

 

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    執筆者について

    吉澤 香子
    吉澤 香子
    静岡県在住のライター。名古屋大学文学部を卒業後、上場企業にて貿易事務を10年経験。適応障害と診断されて休職したことをきっかけに、心理学やメンタルヘルスを学ぶ。幼少より好きだった文章を書くことを仕事にすることを決意し、ライターとして起業。現在はセールスコピーライティングの技術を習得し、メンタルヘルス企業のマーケティングに関わる。地方の中小企業や個人起業家の集客支援も行っている。
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