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医療現場で認知症の方と関わる際に大切なこと

執筆者:大木 知夏 科研費心理士療法士

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日本の高齢者率はどんどん上昇しており、令和18(2036)年には、約3人に1人が、65歳以上の高齢者になると言われています。(1)
日本社会の高齢化に伴い、認知症の方に対するケアはますます重要な課題となっていくでしょう。
医療現場においても診療科を問わず、認知症の方と接する機会は増えていくと予想されます。
本稿では、認知症の方と関わる際に大切したいこと・病院内でできることについて紹介していきたいと思います。

認知症ってどんな病気でしょうか

認知症とは、「脳の疾患により認知機能が障害され、日常生活に支障が出ている状態」とされています。(2)
中核症状として、「記憶障害」「見当識障害」「理解・判断力の低下」「実行機能障害」が挙げられます。(3)
他にも、妄想・幻覚・誤認・抑うつ状態・無気力状態・不安・睡眠障害・徘徊・脱抑制などといった周辺症状が引き起こされる場合もあります。


認知機能の低下を引き起こす原因は一つではありません。代表的なものに、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、血管性認知症などが挙げられます。他にも早期に発見できれば治療可能な、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などもあります。

医療の現場においても以下の出来事が起こっている場合、認知症の可能性が考えられます。

  • 服薬の管理が適切に行えず、薬の飲み忘れや過剰服薬によって、持病が悪化している。
  • 医師から言われたことをうまく理解できず、何度も確認する。またあとから「そんなこと言われていない」とトラブルになる。
  • 病院に受診する日程のスケジュール管理が行えず、来院しなかったり、予約日と違う日に来院したりする。
  • 診察券や保険証の管理がうまくいかず、出すまでに時間がかかったり、頻回に忘れてきてしまう。
  • 季節にそぐわない服装をしていたり、診察場面で勝手にマスクを取り外したりしてしまう。

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こういった場合は、できるだけご家族が一緒に付き添って来院していただくようにし、大切なことはメモしていただく工夫をしていきましょう。また、お薬の管理については、薬の一包化の検討、ポケットにその日に飲む分の薬を入れておける、お薬カレンダー等を利用していただくように促すのもよいでしょう。


患者さんに認知症の疑いがあり、ご本人や家族が不安に感じている場合、なるべく早い段階で物忘れ外来等の認知症の検査ができる病院の受診を検討していただくのがよいでしょう。
認知症の早期治療により、治療可能な認知症の鑑別を行なうことができたり、認知症の進行を抑制する薬の早期導入が可能となったりすることがあります。また介護保険サービスの導入を考えるきっかけとなったり、症状の進行に応じた今後の見通しを立てることができたりします。

認知症の方とコミュニケーションをとる際に大切にしたいこと

それでは、実際に認知症の方やその疑いがある方と接する際は、どのようなコミュニケーションを心がけるとよいでしょうか。いくつかご紹介します。

視界への入り方

水平な高さ・正面の位置・近い距離で視線を合わせることを心掛けましょう。視線が合っていないうちに話しかけたりケアを行おうとすると、急な出来事に驚いて叫んだり暴力をふるったりすることにつながってしまうかもしれません。(4)
またマスクがあることで、相手の認識が難しい上に、表情が分かりづらく、不安になりやすい環境にあります。視線があったら、なるべく笑顔で、相手が安心できるよう心掛けていきましょう。

表情や仕草などの非言語コミュニケーションも大切に

認知症の方は、言語コミュニケーションから情報を得ることが難しくなっていくため、非言語コミュニケーションを大切にしましょう。例えば、表情や仕草でもメッセージを伝えられるように努めます。お話する際は、高齢者の方が聞きやすいように、「低い声で、滑舌良く、ゆっくりと」話しかけましょう。またその際、機械的なやり取りに感じさせないよう抑揚を意識することも大切です。(5)
また重度の認知症の方は、自身の状態を言葉で伝えられないことがあります。顔の表情や、痛む場所をさするというような身振りに着目し、相手がどのようなメッセージを送りたいか、察知することが重要です。

安心感を与えることを心がけましょう

認知症の方は具体的な出来事や会話そのものを忘れてしまうことがあっても、その時に起こった感情は持続します。そのためコミュニケーションをとる際は、ポジティブな感情が引き起るような関わり方を心掛ける必要があります。
「さっきも言っていましたよ」「同じ確認はしないでください」といった関わり方は、認知症の方を不安にさせてしまいます。「○○するから大丈夫ですよ」「なるほど、そうなんですね。」と相手のペースを大事にする言葉がけをしていきましょう。
毎回自己紹介を丁寧に行い、慣れないことをするときは、例え忘れてしまっても、見通しを伝え、相手を安心させてあげましょう。認知症の方が安心できる環境調整を行うことで、周辺症状が改善されることもあります。
物の名前が思い出せずに「あれ」「それ」などの代名詞をつかっている場合は、さりげなく具体的な言葉を使って補うように対応しましょう。間違いを指摘したり、会話の流れを断ち切って言葉を教えたりはしないようにします。(6)

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予告をしてからケアしましょう

ケアを行う際は、どのようなケアを行うか予告をしながら行うことが大切です。「次は○○を洗いますね、あたたかいですね」と常に前向きな言葉かけをしていきましょう。またケアの際、相手に触れるときは「広い面積で、ゆっくり、優しく」触れることを意識しましょう。(4)

過去についての語りにも耳を傾けてみましょう

認知症の方が過去について語るとき、構成力を欠いてたり、断片的であったり、常同的であったりすることがあるかもしれません。「これは事実と違っているな」とか「前も同じ話していたよ」とつい言いたくなるかもしれません。しかしその過去の話は、その方が自分の人生の物語として、過去を振り返りまとめ上げる作業を行なっているのです。一人一人の持っている人生の物語に正解はありません。人生の物語を聞く側としては、正しい情報を伝えるのではなく、敬意を持ってその方の物語を聞き、お話しされている方が今現在どんな想いでその出来事を語っているか、想像することが大切です。(5)

医療の現場で認知症の方へどのような支援が可能でしょうか

支援の基本として大切なのは、認知症の方が安心して過ごせる環境作りです。持病の管理、転倒・誤飲の回避等、まずは安全管理を行なうことが大切です。また認知症の方を一人でケアしようとせず、チームで関わっていくことで、問題解決につながったり、より幅広い視点からのアプローチが可能になります。(6)


医師や看護師の他にも、様々な職種の方たちとチームとして連携することが考えられます。以下に職種と役割を簡単に紹介します。(7)

  • 理学療法士:運動機能のアセスメントやリハビリ
  • 作業療法士:日常的生活動作のアセスメントやリハビリ
  • 言語療法士:言語機能のアセスメントやリハビリ
  • 栄養士:食形態や必要な栄養素の検討
  • 歯科衛生士:口腔内ケア、咀嚼状態の観察
  • 薬剤師:処方薬の作用・副作用の確認や飲み合わせの確認
  • 介護福祉士:日常生活のケア
  • ケアマネジャー:介護サービスの調整
  • 心理士:認知機能のアセスメントや心理療法

特に認知症の方が入院する際は、状況変化が理解できず、問題行動が起こりやすくなります。身体的要因・精神的要因・環境的要因を見直し、様々な職種の視点から、その方を多層的に理解し、支援を考えていくことが重要です。

まとめ

認知症の方と関わる際に大切にしたい視点について紹介しました。
認知症の方が安心して過ごすことができる医療の現場、お一人お一人に残された機能を活性化できる医療現場を目指しましょう。
本稿が認知症の方と関わる際やケアを行う際に、生かせる部分が少しでもあれば幸いです。

おわりに

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出典

(1)高齢化の現状と将来像|令和2年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府 (cao.go.jp)
(2)黒川由紀子・扇澤史子(編),「認知症の心理アセスメントはじめの一歩」,医学書院,2018.
(3)もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)
(4)本田美和子,「ユマニチュード入門」,医学書院,2014.
(5)黒川由紀子,「認知症と回想法」,金剛出版,2014.
(6)日本看護協会(編),「認知症ケアガイドブック」,照林社,2016.
(7)亀井智子(編),「認知症高齢者のチーム医療と看護」,中央法規,2017.

 

目次

    執筆者について

    大木 知夏
    大木 知夏
    大学院を修了後、臨床心理士・公認心理師の資格を取得。2018年より国立精神・神経医療研究センター病院にて科研費心理士療法士として勤務。臨床研究に携わる中で、臨床研究のコーディネート業務・精神症状評価・認知機能検査等を行っている。患者さんの安心や希望に繋がる働きができるよう日々奮闘中。
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