国連統計によると、2019年には世界人口77億人の32%を占めるようになった「Z世代」(1)。今後の消費や労働など、全てのステイタスとなっていく世代と言えます。昨今、彼らが社会人として世に出始めると、採用や新人教育の現場では価値観の違いに困惑し、対応に困っているという声が後を絶ちません。皆さんも、病院やクリニック、介護施設などご自身の職場で、新たに入ってきたZ世代の人とのコミュニケーションに困り事を抱えてはいませんか?
本稿では、Z世代の特性を理解し、離職率を抑え、理想的なチームビルディングを叶える対話術について考えていきます。
Z世代とはどんな世代?
なぜ、リーダークラスや教育担当とZ世代は互いに理解しあえないのか。その答えを探るために、Z世代の特徴を理解することから始めましょう。
Z世代の特徴
Z世代とは、1990年代中盤〜2000年代終盤に生まれた人々のことを指します(文献により諸説あり。2022年現在、10代中盤から25歳くらいまでの若者たちのこと)。彼らは、オンラインでコミュニケーションを図ることが当たり前の時代に生まれ、成長してきました。
スマートフォンやSNSが常に身近にあるため、情報収集能力に長け、自分自身を表現することにも抵抗が少ないのが特徴です。一方で、自分と価値観の合う人とだけ、互いに「いいね」をし合っているため、価値観の違う年代や人との人間関係構築の経験が少なく、苦手な傾向があります。
変化するキャリアデザイン
Z世代のキャリアデザインでは、 一箇所に勤め続ける終身雇用の考えは薄れ、転職によりキャリアアップを図るのがスタンダードとなっています。その結果、業界に関わらず新人の定着に苦戦しているという訳です。離職の原因として最も挙げられるのは、「上司との人間関係」です(2)。
上司だけでなく、入職後の新人教育担当を任された既存社員との関係でも悩みを抱え、モチベーション維持ができないという事例も耳にします。入社するZ世代社員だけでなく、受け入れるリーダークラスや教育担当も、互いに「どう接したら良いのかわからない」という状況であると言えるでしょう。
なぜ、この仕事(職場)を選んだのかが曖昧
Z世代は多くの場合、やりがいではなく安定を重視して職場を決定していると言われています。この背景にはコロナの影響が大きく、業績不振で新卒採用実施なしの企業や内定取り消しなど、就職に対する不安を煽るニュースも、彼らは頻繁に目にしていました。さらに、文部科学省の全国調査では、コロナの影響によって中退者や休学者が増加したというデータも公表されるなど、学生生活においても様々な方面から制限がかかっていたと言えるでしょう(3)。
そうした環境のなか、「1日でも早く内定をもらって安心したい」という気持ちを優先し、テンプレート化された面接対策を叩き込まれた彼らは、「なぜこの仕事(職場)を選ぶのか」という思考を疎かにしがちなのです。結果、入職後に期待値とのギャップが生まれ、こんなはずじゃなかった=自分には合わないという思考に至ってしまうのです。
そうだったのか!Z世代の不可解な行動のワケ
一見すると、やる気のない若手とみられがちなZ世代。リーダークラスや教育担当者から見ると「?」な行動を例に挙げながら、彼らへの理解を深めていきましょう。
何事も受け身である
「うちの新入社員はやる気がない」「前のめりに学ぼうとする姿勢が見受けられない」などの声が聞かれることがありますが、彼らはやる気がないわけではありません。 ただ、「自分の役割は〇〇」「上司の役割は〇〇」と定義が明確なだけなのです。
関連して「チームのメンバーが残業していても気にせず定時で帰宅する」「懇親会などの出席も前のめりではない」などの行動も、仕事とプライベートの線引きがはっきりとしているというだけのこと。 社会貢献に対する意識が強い世代でもあるため、自分の立ち居振る舞いが周囲にどんな影響をもたらし、良い結果へと繋がるのかがイメージできれば、自発的に動いてくれるようになります。
メモしない
オンライン授業が当たり前になった昨今、資格取得の勉強なども、倍速再生機能を利用し、教材動画を数倍速で視聴するのがスタンダードになりつつあります。彼らは“効率”を重視する世代なのです。メモをしない理由を聞いてみると、「後で資料をいただけるんですよね?」「ポイントはスマホにメモしたので大丈夫です」といった答えが返ってくることもしばしば。
体調不良で、急な休みをとりたい場合の連絡もLINEでする、といった驚きの行動も「早く効率よく状況を報告したい」という気持ちからくるもので、悪気はないのです。 連絡手段などのルールが細かく定められているのであれば、「一般常識として知っているでしょう」という思い込みはなくし、研修などに盛り込むことをおすすめいたします。
先に答えを知りたがる
「先に答えを知りたがる」という傾向もよく見られますが、手抜きをしているわけではありません。全体像を理解した上で、効率よく進めるにはどうする?という思考に長けているのです。マネジメントする側の期待することや、求める役割は背中を見て学ぶべし!というスタンスのコミュニケーションだと、価値を見出せずモチベーションが保てません。
少し面倒に感じるかもしれませんが、「なぜこれをする必要があるのか」を言語化し、チームで同じ方向を向いていけるよう導くことが大切です。応用力が高い彼らの特徴を活かし、定番のやり方を一通り指導した上で改善点を挙げるような指示を出すと、目から鱗なアイディアが飛び出すかもしれません。
Z世代との対話術
ここからは、Z世代と対話をする際に意識したいポイントを見ていきましょう。
オープンな対話を心がけよう
こちらがして欲しい行動や、理解して欲しいことの背景をしっかり伝えましょう。頭ごなしに「〇〇しなさい」「ルールで決まっているから」と言っても、重要性や意味が理解できず行動できません。
特に、新人の頃は環境に慣れることで精一杯。さらに、命を預かる現場にいる医療スタッフの場合、その緊張は他の職業とは比べ物になりません。話しかけづらいなどの理由で問題が大きくなってしまうことを避けるために、「〇〇な状況になったら声をかけてね」「そうでないと逆にリスクがあるからね」など、相談したり声を掛けても良いと明確に許可すると良いでしょう。
心理的安全性を確保し、成功体験を積み上げよう
Z世代は、仕事においても自分のやりがいを感じることを重視する傾向があります。そのため、失敗が許されるシーンであればその旨を伝え、どんどん挑戦させましょう。
安心安全な環境で、小さな成功体験を積み重ね、その成功が周囲にどんなプラスの影響を与えているかも伝えることで、チームに対する想いも育っていきます。リーダークラスや教育担当者は、他の既存スタッフを巻き込みながら、心理的安全性を意識したチームビルディングが肝になります。
心理的安全性を意識した声かけの例:
例1:✖️「お疲れ様です」 → ◯「〇〇さん、お疲れ様です。」
些細なことですが、何気ない挨拶にも名前を添えることで個(あなた)を大切にしていると伝わりやすくなります。
例2:✖️「なんで終わってないの?」→ ◯「何が原因で止まってしまったのかな?」
一方的に原因を詰問するのではなく、一緒に問題を解決しよう!というスタンスで声をかけることで、相談しやすい環境であると認識してもらえるようになります。
例3:✖️「悩んでいることない?」→ ◯「私に知っておいて欲しいことはある?」
同じことを聞いていますが、相手が話をしたいことだけ話せるように質問の仕方を工夫してみましょう。
まとめ
Z世代との対話に関わらず、生まれ育った時代や環境の違う人同士が共存する職場で良い人間関係を築くためには、それぞれが“自分達にとっての当たり前は相手の当たり前ではない” と自覚し、歩み寄る努力を惜しまないことが必要不可欠です。Z世代の新人を受け入れるスタッフが一丸となり、心理的安全性のある職場環境を整えることで、組織全体の質が高まります。今回ご紹介した視点を日々のコミュニケーションに取り入れることで、小さなリアクションの変化を実感いただけたら幸いです。
おわりに
Epigno Journal では、これからの医療を支えるTipsを紹介しています。また、メールマガジンにて最新記事のお届けをしています。右記フォームより、お気軽にご登録ください。
出典
1)Gen Z to Outnumber Millennials Within a Year: Demographic Trends - Bloomberg
2)【HR総研】人材の定着に関する取り組みの実態調査
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=313
3)文部科学省 学生の修学状況(中退者・休学者)に関する調査【令和3年12月末時点】
https://www.mext.go.jp/content/20220301-mxt_kouhou01-000004520_1.pdf