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医療スタッフに知って欲しい、転倒に関する豆知識

転倒・転落は、医療従事者の大きな悩みのタネであり、病院内で起こる医療事故の中でも高頻度で報告される項目です。
場合によっては、脳血管疾患や骨折、死亡事故に至ることもありますので、多くの病院が転倒予防や対策に取り組まれています。
転倒は、筋力低下や認知障害、視力障害という内因性要因だけでなく、居住環境や部屋の明るさなどの外因性要因など、様々な要素が複合して転倒リスクが増加します。
本記事では、理学療法士の目線から「転倒」の原因や予防策について、豆知識をご紹介します。

転倒の実態

転倒は、要介護になる原因「第4位」

令和元年の国民政策基礎調査によると、「転倒」は介護が必要になった原因の第4位(約13%)となっています。たった一度の転倒で、大腿骨頚部骨折や脊椎圧迫骨折を受傷し、安静臥床を余儀なくされてしまうケースも少なくありません。安静臥床期間が長引くほど、フレイルやサルコペニアが進行し、ADLやQOLが著しく低下するリスクが増してしまいます。また、骨折や怪我がなかったとしても「歩行」や「階段昇降」に対する恐怖心が増し、結果的に活動量の低下と身体機能の低下を招く場合もあります。(1)

転倒が起こりやすい場所

転倒してしまった方に話を聞くと「転倒した時のことを全く覚えていない」「気をつけていたのに転んでしまった」という声をよく耳にします。東京消防庁の救急搬送データから高齢者の日常生活事故をみると、2014年から2018年の5年間では、約32万人の搬送者のうちの81.7%が、転倒による搬送であったと報告されています(2) また、自宅での主な転倒発生場所は、以下の表の通りです。「トイレや台所」などの方向転換が多い環境よりも、「居室や寝室」などの日常よく過ごす場所での転倒が圧倒的に多いことがわかります。

 

1位

2位

3位

4位

5位

事故発生場所

居室・寝室

玄関・勝手口

廊下・縁側

トイレ・洗面所

台所・調理場・ダイニング

救急搬送人数

22,282人

3,212人

2,252人

1,029人

834人

転倒・転落は医療事故の約20%を占める

転倒は、自宅や屋外だけでなく、病院内でも起こります。転倒・転落に関するアクシデント・インシデント報告は、チューブ抜去などの事故と並び高い頻度で報告されています。打撲などの軽傷に留まるケースもあれば、骨折や頭蓋内の出血や血腫、時には死亡に至るケースまで報告されています。(3)

リハビリ中の医療事故・ヒヤリハット事例も、転倒転落が多い

医療事故情報収集等事業2020年報によると、報告された49件の「医療事故」情報のうち転倒・転落は16件、「ヒヤリ・ハット事例」168件のうち63件が転倒・転落です。発生場所は、病室内が多く、次いで歩行訓練中に生じる事例が多くなっています。その要因としては「離床直後で患者さんの全身状態が不安定だった」「介助量やリスクに関する情報共有不足」が挙げられており、評価不足や対応力の欠如が事故に繋がっていることが示唆されています。(4)

転倒の評価方法

転倒の原因を解剖する 〜「内因性」の要因と「外因性」の要因〜

転倒は、特別な場所だけで起こるものではなく、普段の何気ない生活場所にリスクがあることがわかりました。では、ここからは「転倒」のことを更に解剖し、細かく因子を分けてみましょう。転倒してしまう因子は、大きく「内因性」と「外因性」に分けられます。内因性の要因は、身体機能低下や高次脳機能低下などに加え、栄養状態不良や薬剤性の因子も含まれています。外因性の要因は、段差や手すり、明るさなどの住環境設定に由来するものや、居室に放置された衣服や家財なども因子として含まれています。以下の表は、チェックリストにも活用できますので、転倒の評価にぜひお役立てください。

内因性の要因

認知障害

注意機能や低下などの影響

視力障害

緑内障や白内障などによる視力低下の影響で、段差や障害物が見えなくなる

感覚障害

平衡覚、表在覚、深部覚、視覚などの低下により、バランスが取れず転倒に繋がる

筋力低下

筋力低下により良姿勢が保てない、理にかなった動きができず、転倒してしまう

可動域制限

身体が伸ばせず、重心移動が円滑でなくなり、転倒に繋がる

低栄養

栄養状態の悪化により、上記機能低下を助長し、転倒に繋がる

薬剤性

睡眠導入剤の服用、残存によるふらつき、転倒

めまい

起立性低血圧、回転性めまいなどによるふらつき、転倒


外因性の要因

床材の滑りやすさ、絨毯やカーペットで滑る、躓いて転倒する

段差

室内の軽微な段差、敷居の段差で躓いて転倒する

明るさ

薄暗い状況で障害物を見落とす。白内障で、眩しくて障害物が見え難くなるケースも

手すり・ベッド柵

ベッドや椅子から、手すりの距離が離れている、手を伸ばし掴もうとして転倒する場合も

衣類・家財

落ちている衣類や家財に滑って転倒するケースも

転倒リスクの評価方法 [Timed Up and Go Test]

転倒リスクを判断する代表的な検査方法として、短距離の歩行速度の測定や、起居動作・方向転換を含んだ歩行を測定する「Timed Up and Go(以下、TUG)」、タンデム歩行検査や長距離歩行(6分、12分)検査などがあります。その中でTUGは、検査の信頼性も高く、筋力やバランス能力、日常生活能力との関連性も高く、妥当性が高いことが評価されている検査です。(5)

転倒・転落アセスメントスコアシートの活用

転倒リスクの炙り出しと対策のために、アセスメントシート(Assessment Sheet、以下AS)を活用して対策する病院・施設もあります。
アセスメントシートは、施設の運営に則してカスタマイズされ、個々の患者さんの状態を評価し、対策を立てるために広く活用されています。
以下に参考事例を記載します。他にも様々なASが存在しますので、自施設にとって使いやすく当てはまりやすいマニュアルを参考にするとよいでしょう。

日本医師会

PDFリンク

米沢市立病院の場合

PDFリンク

転倒リスクは、人と住環境の組み合わせ次第で十人十色。転倒事故の頻度を減少させるための第一歩は、転倒リスクの評価から始まります。ぜひ、TUGやASを活用してみてはいかがでしょうか?

転倒の予防策

ケーススタディ

 

筆者も理学療法士2年目の時に、一度だけ患者様を転倒させてしまったことがあります。
胃ろう増設とフレイルで入院となっていた90代の女性、シルバーカーを使用しての歩行練習後、車椅子をセッティングしようと患者さんから「目と手」を離したほんの一瞬に、尻餅をつくように転倒させてしまいました。
幸いにも大きな怪我や後遺症はなく、リハビリを経て無事に退院できましたが、一瞬でこの方の人生が180度変わってしまった可能性を考えると、今でも悔いが残る一場面です。
この転倒事故を解剖すると、要因には二つの軸があることがわかります。
一つは「身体機能・能力の評価が不適切であった」という問題、もう一つは「介助者が目だけでなく手も離してしまった」という問題です。
この一件から、私は歩行介助などの際、どうしても手を離す必要がある場合は「絶対に目は離さない」、そして「未然に手を離さなくても良い段取りと環境設定をする」ことに注力し、以降、転倒事故は再発しておりません。

転倒を予防のイロハ

 

転倒予防は、内因性・外因性問わず、それぞれの要因に対して対策を立てる必要があります。
時には複数因子が重なり合って転倒リスクが高まっている難解なケースもありますが、要因をしっかり評価して解剖し、改善が期待できる要因と期待できない要因に分けて、対応策を練っていくことが大切です。  例えば筋力や可動域が向上したとしても、バランス能力が低下したままだったり、服薬問題や住環境問題により、転倒頻度があまり改善しないケースも見受けられます。
食事をバランス良く食べることが大切であるのと一緒で、転倒予防も各種要因をバランス良く解決していくことが大切です。

転倒予防体操のススメ

 

様々な転倒予防策について解説してきましたが、やはり重要度が高いのは定期的な運動です。
前述の通り、転倒に関する危険因子は複数から重なり合っており、転倒率はその危険因子の数に比例して増加することが示唆されています。
その中でも、高齢者の転倒原因の大きな因子となっている身体機能・能力低下は、日々のエクササイズやリハビリによって解消できる可能性があります。
筆者が運営している総合リハビリ施設BALENAでは、YouTubeを通じてリハビリ体操を発信したり、コメディカルや一般の方々のタメになる講座などを配信しています。
転倒予防にも役立つ椅子体操動画や、フレイルを予防するための講座を多数配信していますので、ぜひ読者の皆様の施設でもご活用ください。



総合リハビリ施設 BALENA(バレーナ)の活用

 

バレーナは、通所介護、自費リハビリ、理学療法士のいる靴屋さん、認定栄養ケア・ステーションという4つの顔を持っています。自治体や地域と協業し、転倒予防やフレイル予防に関する取り組みを行なっております。人生100年時代をより良く過ごしていくために、靴と足を見直し、食事を見直し、運動を見直す。理学療法士や管理栄養士が皆さんの「転倒」や「日々の不安」にワンストップでお悩み解決すべく、日々シニアヨガやピラティス、リハビリに励まれています。90代の方も多数ご来店されており、今まで出来なかった日常動作や運動ができるようになったと喜ばれています。今後このような施設は増えていくことが予想されます、ご興味がある方はぜひ一度ご見学ください。

おわりに

人生は100年時代。100年間に一回も転ばないで生活することは、不可避かもしれません。転倒時に上手に受け身をとって怪我を予防することや、転倒した後に床から立てる身体作りや動き方をお伝えすることも、これからの時代に必要なことだと考えています。みなさんは、「転ばない」ことを意識しすぎて、「転んだ後に当事者がどのように困っているか」考えたことはありますか?転んだ後に、立てなくて困った方、立たせられなくて困ったご家族がいることを、考えたことはありますか?転ばないことも大切ですが、転んでも怪我をしない身体作り、転んでも起き上がれる身体作りや介助者指導という視点も、大切ではないかと考えています。

まとめ

この記事では、転倒に関する豆知識と、転倒予防策について解説させて頂きました。明日からの臨床現場で、ご提案した評価や転倒予防体操を活用してみていただけたら嬉しく思います。
ご質問などは、FaceBookのDMやHPからお気軽にお申し付けください。

目次

    執筆者について

    新田 智裕
    新田 智裕
    2007年〜2019年、青葉さわい病院・リハビリテーション科に勤務。スポーツ選手からシニアまで幅広い分野のリハビリテーション、スポーツ選手のコンディショニングに従事。日本栄養士会理事の田中弥生教授と共同で、食とリハビリに関する研究活動、講演活動も継続している。 2019年12月〜横浜市青葉区(たまプラーザ駅)にて、Studio & Cafe BALENA(バレーナ) をOPEN。「食と運動を通じてあなたを健康に」をコンセプトにシニア向けデイサービス事業、および全世代を対象とした自費リハビリ&栄養相談事業を展開中。また、高齢者向けの健康リハビリ体操動画を、YouTubeを通じて多数配信している。地域住民の身体の悩みを、「ワンストップ」で「根本的」に解決するために 多彩なサービスを提供している。
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