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医療介護の視点で”ケア衣料”制作に携わり患者さんを笑顔に 〜グッドデザイン賞衣服部門として看護師第1号受賞〜

執筆者:高山 真由子 看護師・保健師/看護ジャーナリスト

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ハイブリッド自動車のプリウスをはじめ、LED電球、CTスキャンなど、今や私たちの生活に身近なものが過去に受賞してきたグッドデザイン賞。去る2021年10月20日(水)、この年のグッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)が発表され、「アームスリングケープ」(株式会社ケアウィル)が受賞しました。看護師としては本賞全体で3人目、衣服部門としては看護師第1号となった坪田康佑さんに、ケアウィルに参画した経緯や、グッドデザイン賞に込めた思いについて話を聞きました。

 

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学生時代に決意した”患者さんを笑顔にしたい”という思いを形に

「患者さんの『感情』『感動』『感謝』を大切にしたい=護りたい」という意味を込めて「感護師」と名乗っている坪田さん。そう思うようになった原点には、看護学生時代に「患者さんの感情を大切にしたい」と決心した経験がありました。

それは、クリスマスの日に入院している患者さんにクリスマスカードや演奏をプレゼントする「サンタ企画」という活動に参加した時のことでした。クリスマスカードプレゼントチームの一員として、サンタに仮装し演奏チームと共に病棟を回っていった坪田さん。多くの病棟を訪問した中でも特に小児病棟では入院中の子どもたちがとても喜んでくれたと言います。演奏チームが音でクリスマスムードを創り出し、プレゼントチームの表現で「何かカードがもらえるみたいだぞ」という雰囲気づくりが行われ、1人ずつプレゼントが配られていきます。

「自分の番を首を長くして待っているワクワクした表情。順番が回ってきてプレゼントをもらう瞬間のドキドキした表情。僕のプレゼントはどうなっているんだろう?とカードを広げる期待いっぱいの表情。そして、周囲の大人や友達にカードを見せ合い、みんなで喜びを共有しあう表情。あの時触れ合った子どもたちの表情すべてを忘れることができません」

そう坪田さんは振り返ります。

 

しかし、そのサンタ企画は年に1度だけの特別な活動です。坪田さんは「日常の中に同じようなことを取り入れられないだろうか」と考え、メディカルクラウンやホスピタルクラウン、笑い療法士といった、病院の中で笑顔を創る活動をしている団体について調べていき、カナダのNPO「starlight Children’s Foundation Canada」にたどり着きました。この団体は、入院している10代の若者たちに対して、彼らが本当に着たいと思えるようなおしゃれな入院着を、トップデザイナーに協力をしてもらって創る活動をしていたのです。
「メディカルクラウン等の人件費がかかる活動ではなく、この活動のように再現性も汎用性も高いものをいつか日本で実践してみたいと考えていました」と話す坪田さんにとって、この活動との出会いが道しるべとなりました。

では、日本でどのように形にできるだろうかと、活動の場を探し始めた坪田さんは、前職で知り合った株式会社ケアウィル代表取締役の笈沼清紀さんが、「服の不自由さ」に着目し、ケア衣料のオーダーメイドを手掛けようとしていると聞き、参画することになりました。

ケアウィルと坪田さんは、対象者が高齢者と小児と異なっているだけで見据えている世界観が同じだと考えたためです。

 

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ケアウィルのメンバーたちとウェブ会議中の坪田さん(写真左)

医療・介護の視点を取り入れたアームスリングケープ開発に参画

坪田さんが同社に参画後、担当したのは医療従事者がケア衣料に求める機能とその効果に関する調査でした。調査結果は2020年と2021年にNPO法人日本リハビリテーション看護学会で発表し、アカデミアの視点からケア衣料の必要性・可能性を示しました。

坪田さんらがヒアリングを重ねるうちに目を付けたのは三角巾。これをもっと機能的に、そしてファッションの視点を取り入れることを目指し、調査結果やディスカッション、23名の当事者たちからのヒアリングを実施し、試作を重ねました。

完成した作品がこちらの「アームスリングケープ」。パッと見て、三角巾だと気付く人はいないでしょう。「病気と健常の境界をにじませること」にチャレンジしたということから、痛みや障害がなくなったあとも、ずっと着続けられる機能とデザインを重視しているといいます。

 

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ケアウィルサイトより

賞を受賞し医療介護以外の分野にも価値観を広めたい

では、どうしてこのアームスリングケープを、坪田さんたちはグッドデザイン賞に応募したのでしょうか。

坪田さんは大学卒業後、MBA(経営学修士課程)でマーケティングを専攻し、医療介護分野のマーケティングの仕事に携わっていました。その経験から医療介護の世界のプロダクトは、良くも悪くも他と交わることのない”別の世界のもの”と分類されることが多いと体感していたといいます。

しかしケアウィルは、医療介護の現場へケア衣料の商品を提供すること以上の展望を持っていました。医療従事者がつい言ってしまう「身体の不自由」という表現がありますが、ケアウィルは「『身体が不自由』なのではなく『服の方が不自由』なのだ」という考え方を大切にしています。「服の不自由を解消する」そして「着たい、選びたい、着て人と会いたい」という気持ちを叶えていくという世界観をもっています。この世界観を世界に広めて世界を変えようと挑戦していることから、医療介護以外の分野においても認知度を高め、関心を持ってもらうための施策が必要だと、坪田さんは考えました。これが医療介護分野に特化した賞への応募ではなく、社会に広く認知されているグッドデザイン賞を選択した理由でした。

 


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迎えた受賞結果発表の日。「アームスリングケープ」は見事グッドデザイン賞を受賞し、坪田さんは衣服部門として初めて受賞した看護師となりました。

本作品は審査委員からの以下のような高い評価を得ました。(以下サイトより抜粋)

普段補助として機能してきた物に目を向けてみると、まだまだ可能性がある。布を巻く三角巾は生活の知恵やサバイバルの世界でも最初に学ぶ補助方法だ。布を巻くと言う行為ほど可能性に満ちている物はない。最小限の素材から発想が湧く。その行為その物から次の「使い方」へと導いていく。応用的なデザインから新たな活用方法へと一体的な衣料品へと展開されている。これは新しいカテゴリーを生み出す可能性を秘めている。

 

看護師としての経験を活かして、新しいケア衣料の開発に携わった坪田さんは、医療従事者が医療以外の領域に関わることについて、どんな意義があると感じているのでしょうか?

「ダイバーシティが求められる時代にあって、医療においてもテーラーメイドメディスン(個別医療)が言われています。特に在宅領域においては、患者さんやご家族の生活支援が看護師の役割となります。だからこそ、ファッションに限らず趣味や経済などのさまざまな領域と横断的に関わっていくことが必要だと考えています。中でもファッションは、その人のやる気を引き出すことができるツールですので、患者さんのモチベーションと密接に関わる看護を実践していくうえで大切だと考えています」

実際に坪田さんは、認知症のお祖母様が昔好きだったブランドの洋服をリメイクし、妹さんたちにその服を着てもらって面会に行ったことがあるといいます。

 

「それまで私たちの訪問に全く反応を示さなかった祖母が、その面会から反応してくれるようになりました」

そのときの経験を通して、看護のファッションへの応用の可能性は、まだまだこれからだと感じているといいます。

ケアウィルは、今後メンバーの増員や、東京モード学園とのコラボレーションなど、さらなる発展を遂げていく予定で、その挑戦を坪田さんも共に走り続けます。

 

 

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*グッドデザイン賞*

1957年に始まり「デザインによって私たちの暮らしや社会をよりよくしていくための活動」として、「かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質を評価・顕彰」する活動。

2021年は、過去最多となった5,835件の審査対象の中から、過去最多の1,608件の「グッドデザイン賞」受賞が決定した。

 

ケアウィルは、パートナーを募集しています。

https://labo.carewill.co.jp/recruiting/partnership/

 

おわりに

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参考サイト

(1)なくしたい、服の不自由 | carewill

(2)https://www.g-mark.org/about/

(3)https://www.g-mark.org/activity/2021/outline.html

(4)sdgs_gaiyou_202108.pdf (mofa.go.jp)

目次

    執筆者について

    高山 真由子
    高山 真由子
    看護師・保健師/看護ジャーナリスト 慶應義塾看護短期大学卒業後、看護ライターとして活動開始。病院勤務・海外留学を経て東海大学健康科学部看護学科に編入学。卒業後、看護ジャーナリズムの開拓する必要性を感じ早稲田大学大学院政治学研究科に進学しジャーナリズム修士取得。看護師・保健師として、病院・在宅・行政・学校・企業・教育機関・イベント救護などに従事した経験を持つ。医療系オウンドメディアの企画・制作・編集に携わり2023年1月独立。メディアの立場から看護の発展を目指す。 https://fori.io/mayuko-takayama
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