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漢方薬を知ると薬選びの幅が広がる ~風邪のひき始めに漢方薬を使ってみよう~

 

診療ガイドラインへの漢方薬の掲載は増加傾向にあり、10年前に70件程だった掲載数が今ではその2倍以上に増えています。日常業務の中でも漢方薬を見聞きする機会が増えているのではないかと思いますが、漢方薬は通常の薬と選び方に違いがあります。

例えば「風邪をひいたので葛根湯」のように病気で漢方薬を決めてしまうと、効き目が悪いだけでなく、副作用が起こりやすい可能性があります。

本稿では、医療者自身の「風邪のひき始め」を想定して、漢方薬の選び方をお伝えします。
(※漢方の考え方を簡略的に書いている箇所があります。)

そもそも漢方とは

漢方という言葉が定着したのは江戸時代と言われています。オランダから伝わった西洋医学が「蘭方」と呼ばれたのに対し、中国医学を由来として日本で発展した医学は「漢方」と呼ばれました。
漢方の基本は「病気ではなく病人をみる」であり、漢方薬の添付文書の効能効果は、病名に先だって症状や体質が書かれています。

なお、漢方による治療には、漢方薬での治療以外に、鍼灸(しんきゅう:針やお灸による治療)や食養生(しょくようじょう:食事の工夫による治療)などがあります。

漢方薬とは

漢方による治療で使われる薬を漢方薬と言い、生薬の組み合わせでできています。生薬とは植物、鉱物、動物の薬効のある部位(乾燥、刻みなどの加工したものを含む)であり、ほとんどの生薬は植物に由来します。植物由来以外の生薬としては、鉱物由来のセッコウ(石膏)、動物由来のボレイ(牡蠣の貝殻)やゴオウ(牛の結石)などがあります。

通常の薬の多くは病名に応じて選択されますが、漢方薬では病名よりも「証」(しょう)という「体質や症状」が重視されます。それを風邪(感冒)の場合で見てみます。
風邪でよく使われる医療用医薬品としてPL配合顆粒があり、その効能効果は
「感冒もしくは上気道炎に伴う下記症状の改善及び緩和
鼻汁、鼻閉、咽・喉頭痛、頭痛、関節痛、筋肉痛、発熱」です。

それに対して、葛根湯(かっこんとう)(ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用))では
「自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のあるものの次の諸症
感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん」です。

PL配合顆粒は「感冒」という病名が先にあって、その後に症状が来ていますが、葛根湯では症状が先に、病名が後ろに記載されています。このことからも、漢方薬は病名より症状重視であることが分かります。

また、葛根湯では「比較的体力のあるもの」という表現が用いられており、病名と症状の他に、体質を考慮する必要があります。「風邪をひいたので葛根湯」のように、病名だけで漢方薬を選んでしまうと、その漢方薬と症状や体質が合っていない場合があります。
漢方薬には医療用医薬品として医師が処方するものがあれば、一般用医薬品として薬局やドラッグストアで販売されているものもあります。例に出した葛根湯は、医療用医薬品と一般用医薬品のどちらにもあります。

漢方の考えは奥が深く、本質を理解するには相当な期間を要します。本稿では「自分自身が風邪のひき始めに漢方薬を買う時に、より適切なものを選べるようなること」を目標としてお伝えしていきます。

治療方針を見極めるための証

漢方における治療では「証(しょう)」に合わせた漢方薬が選ばれます。証とは体質、体力、症状のあらわれ方など、人の状態をあらわすもので、様々なあらわし方がありますが、代表的なのは、8通りで人の状態をあらわす八綱(はちこう)です。

八綱とは

八綱は人の状態を表裏(ひょうり)、寒熱(かんねつ)、虚実(きょじつ)、陰陽(いんよう)の要素であらわす方法です。陰陽は総括的なものであり、「表・熱・実」は陽に、「裏・寒・虚」は陰に属します。
通常は表か裏か、寒か熱か、虚か実かで考えます。
これにより、2×2×2=8通りの組み合わせができるため八綱と呼ばれます。ただし、状態によっては「表と裏の間」ととらえる場合もあります。

治療方針を見極めるための証

表裏は、病気の位置である病位をあらわします。悪寒や鼻水のように病気が体の外側にあれば「表」、腹痛、下痢、便秘のように体の内側にあれば「裏」と考えます。
病気が表にある時は、病気が体の中に入らないように抵抗している段階であり、病状としては比較的軽症になります。
なお、咳や痰のように、病気が体の外側(表)と内側(裏)の間にある状態を「半表半裏」(はんぴょうはんり)と言います。

病気の性質をあらわす寒熱

寒熱は、病気の性質や状態である病性を示すもので、基本的には他覚的な所見より自覚症状が優先されます。例えば、風邪をひいて体温が上がった時は「体が熱い」(体温計で測ると熱がある)状態ではありますが、多くの場合、最初に悪寒を感じます。悪寒という自覚症状を優先するため、状態は「寒」になります。悪寒は「寒」が体の表面にある状態のため「表寒」(ひょうかん)と言います。
それに対して、暑がる状態や、炎症がある状態は「熱」になります。

体力などの充実をあらわす虚実

虚実は、正確には病気の勢いである病勢を含めた考え方ですが、概ね体力の充実具合をあらわします。「実証」の人は体力が充実していて、がっしりした体型で、活動的で、大食で、声に力がある傾向にあります。一方、「虚証」の人は体力が低く疲れやすく、痩せていたり水太りであり、消極的で、小食で、声が弱々しい傾向にあります。

表裏、寒熱と関連する症状

症状だけで病位、病性を正確に判断するのは難しいですが、表と裏、寒と熱のそれぞれの組み合わせに当てはまることが多い症状が下図のようになります。

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風邪に使われる漢方薬

漢方では、風邪の多くは「表寒」から始まり、そこで治らなければ徐々に体の中に病気が入り、「半表半裏」を経て「裏熱」(りねつ)になると考えます。なお、風邪が長引いて体力が落ちると「裏寒」(りかん)になることがあります。

このように風邪と一口に言っても、寒もあれば熱もあり、表もあれば裏もあります。さらに虚実を合わせて考えると、1種類の漢方薬で風邪をカバーするのは難しいことが分かります。

漢方は、寒ければ温め、熱ければ冷まし、足りなければ補い、多ければ取り除き、全体のバランスがとれた状態である「中庸」(ちゅうよう)を目指します。「表寒」であれば表を温める漢方薬を服用することで風邪を改善します。

ここでは風邪のひき始めである「表寒」に着目し、表を温める漢方薬の中でドラッグストアや薬局で購入できるものをお伝えします。
(風邪の中には、ほてりを感じる「表熱」から始まるものもありますが、本稿では触れません。)

ひき始めの「表寒」に使われる漢方薬

●麻黄湯(まおうとう)
体を温める力が強く、体力が充実している「実証」の人に向いています。体力が少ない人が服用すると、汗が出過ぎて却って体調を崩す場合があります。生薬の麻黄を主にした漢方薬であり、心臓の働きを強めるエフェドリンが含まれるため、心臓病や高血圧の人には注意が必要です。

●葛根湯(かっこんとう)
比較的体力のある人に向いています。麻黄湯を構成する3つの生薬に、ショウガやナツメの生薬である生姜(しょうきょう)や大棗(たいそう)など4つを加えて、7つの生薬で構成されています。肩やうなじの凝りのある場合に特に向いています。麻黄が含まれるため、麻黄湯と同様の注意が必要です。

●小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
体力が中等度からやや虚弱の人向けです。特に鼻水が出るような場合に向いており、花粉症のようなアレルギー性鼻炎にも効果があります。麻黄が含まれるため、麻黄湯と同様の注意が必要です。

●桂枝湯(けいしとう)
桂枝とはシナモンのことで、比較的体力のない「虚証」の人に向いています。葛根湯の7つの生薬から麻黄と葛根の2つの生薬を減らし、5つの生薬で構成されています。

●香蘇散(こうそさん)
桂枝湯と同じく麻黄を含みません。胃腸が弱く、体力のない人に向いており、桂枝湯でも汗が出過ぎたり、胃腸の調子が悪くなるような人でも服用できます。紫蘇や生姜の生薬を含みます。
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漢方薬選びの例

ではここからは、具体的な人物像を置いて、その人の症状や体質などに合った漢方薬の選び方をお伝えします。

【想定する人】
44歳の男性。痩せ型で疲れやすい体質だが、持病はない。胃腸は弱めではあるが、すごく弱いわけではない。37度台の発熱があって悪寒を感じている。節々の痛みがある。

【まずは八綱を考える】
「痩せ型で疲れやすい体質」を考えると、体力などの充実をあらわす虚実は「虚証」になります。また、悪寒があることから「表寒」と言えます。それらを合わせると「表寒虚証」(ひょうかんきょしょう)と考えることができます。

【八綱に適した漢方薬を考える】
表寒虚証であることから、 桂枝湯や香蘇散が候補になります。胃腸がすごく弱いわけではないことから、桂枝湯が適していると考えられます。 以上のように、まずは八綱を整理できれば、「風邪に使われる漢方薬」がたくさんあるなかから、適したものを選ぶことができます。

まとめ

「風邪をひいたので葛根湯」と考えられがちですが、それでは本来の効果が発揮されないことがあります。漢方は長い年月に渡り、症状や体質を重視して発展した「経験則に基づく医学」であるため、それを守ることが重要です。
自分自身が風邪をひいて漢方薬を選ぶ時、風邪のひき始めか(「表寒」の状態か)、体力はあるか(実証か虚証か)など、今一度体の状態を考えてみると、より適切な漢方薬を選ぶことができます。
風邪をひいたと感じたときには、本稿を参考に漢方薬を試してみていただければ幸いです。

おわりに

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出典

(1)感冒の漢方治療,208-212,ファルマシア,Vol.56,No.3,2020

https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/56/3/56_208/_pdf

 

(2)医療用医薬品の添付文書、インタビューフォーム
・PL配合顆粒

・ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用)
・ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用)

・ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用)

・ツムラ桂枝湯エキス顆粒(医療用)
・ツムラ香蘇散エキス顆粒(医療用)

 

(3)一般用医薬品の添付文書

・ツムラ漢方麻黄湯エキス顆粒
・ツムラ漢方葛根湯エキス顆粒

・ツムラ漢方小青竜湯エキス顆粒

・ツムラ漢方桂枝湯エキス顆粒
・ウチダの香蘇散

 

(4)Okabayashi S, Goto M, Kawamura T, et al. Non-superiority of Kakkonto, a japanese herbal

medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the common cold: a randomized controlled trial. Internal Medicine 2014; 53: 949-56.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24785885/

 

(5)漢方の標準化及び補完代替医療との関係

https://www.nihs.go.jp/kanren/iyaku/20131101-dpp.pdf

 

 

目次

    執筆者について

    崎野 健一
    崎野 健一
    東北医科薬科大学を卒業後、薬局薬剤師、病院薬剤師を経て、現在は医薬品卸である(株)バイタルネットで勤務。また2010年以降、東北大学薬学部の非常勤講師としてセルフメディケーション学などの講義を担当。宮城県在住。
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