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医療・介護の管理職が理解するLGBTQとダイバーシティ 実践編

 

医療・介護の管理職が理解するLGBTQとダイバーシティ 知識編」では、LGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア/クエスチョニング)について、組織のダイバーシティを考えるために、まずLGBTQについて理解を深めていただきました。

 

昨今ダイバーシティという言葉を耳にする機会が増えています。みなさんの働く医療・介護の組織では、ダイバーシティの推進のために実践していることはありますか?そもそも、なぜダイバーシティが重要なのでしょうか?ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、人が集まり働く場所としての組織を考える上で必須の項目となってきています。ここでは、LGBTQと就労の視点から考えてみましょう。

ダイバーシティ&インクルージョン

ダイバーシティ(多様性)とは、人種、性別、性的指向、性自認、ジェンダー、年齢、身体の状態など、あらゆる人のあり方が多様であることを指します。

一方でインクルージョン(社会的包摂)とは、そうしたひとりひとりが多様であることを個性として尊重し、活かすことで力に変えることです。これらはどちらも欠けることなく、両立することが必要です。

 

LGBTQはこうしたD&Iの中でどのような意味があるのでしょうか。

まず患者さんの中にLGBTQの人がいることを認識することは、受診や相談のハードルを下げ、適切な医療を提供することにつながるでしょう。そして、職員の中にもLGBTQの人は存在しています。

 

LGBTQの人に配慮された就労環境を整備することは、多様な人材獲得や働きやすさ・心理的安全性の担保にもつながり、生産性の向上、職員のメンタルヘルスの改善や離職率の低下、多様な人材によるイノベーションの可能性など、インクルージョンによる様々な効果が考えられます。

 

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LGBTQの人たちが困ることの中には、ジェンダーにも関わることが多く、「男らしさ」「女らしさ」として全ての人が影響を受け、困るようなことも存在しています。SOGI(Sexual Orientation/Gender Indentity 詳しくは前編へとして皆さんに関わる問題として取り組むことで、全ての人にとっての良い就労環境を考えることにつながるはずです。

就労現場でのLGBTQの抱える困難

それではLGBTQの人たちは就労の現場でどのような困難を抱えているのでしょうか。例えば就職活動でLGBTQであることを伝えると面接を打ち切られる、自分の望む性自認での就労が難しい、性的指向や性自認について話題にされてからかわれる、「オカマ」「ホモ」などの差別用語を投げつけられるなどのSOGIハラスメント、トランスジェンダーの方では職場で性自認に合ったトイレや更衣室が使用できないなど、非常に多くの困難が報告されています。特に「アウティング」については非常に大きな問題です。

「アウティング」と「カミングアウト」

アウティングとは、自身の性のあり方について当人の許可なく勝手に他の人に伝えてしまうことを指します。LGBTQの人たちが自身の性のあり方を他者に打ち明けることをカミングアウトと言いますが、特にトランスジェンダーの方は自分が望む性で働くためにカミングアウトが避けられない場合も多い一方で、理解が不十分な上司から職場の同僚にアウティングされる事例は少なくなく、訴訟になるケースもあります。管理職は従業員の性に関する情報は個人情報として取り扱う必要があり、業務上必要と判断する場合、誰に何の目的で伝えるのかについては当人と話し合い同意を得る必要があります。

 

ここで重要なことは、LGBTQの人に配慮することは、個人の趣味嗜好に関することではなく、人権を守ることだということです。LGBTQであることは、目に見えにくいマイノリティ性であり、こうした表面化しにくい多様性についても配慮ができる職場は、女性やその他の様々な多様な人にとっても働きやすい職場作りにもつながるのではないでしょうか。

LGBTQフレンドリーな医療機関のためにできること

LGBTQに配慮した医療機関になるために、どんなことができるでしょうか。ここでは、海外の指標を参考に、いくつかの項目に分けてご紹介したいと思います(1)。

差別禁止とスタッフ教育

患者・スタッフを性的指向・性自認で差別しないこと、こうした差別禁止のポリシーについて患者やスタッフ向けに院内掲示やホームページなどで明示がされていることが望ましいです。差別は意識的に行われるよりも無意識に起こることも多いため、LGBTQについて新人研修や接遇研修などの一環として職員研修を行うことで、スタッフに周知と啓発を行うことも必要です。

 

なお改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)において、大企業は2020年6月から、中小企業でも2022年4月から性的指向・性自認に関するハラスメント(SOGIハラ)、性的指向・性自認の望まぬ暴露であるアウティングも、ハラスメントの対象として含まれるようになっています。そのため管理職としては、より具体的な対策が求められるでしょう。

 

時代が変わり、社会の認識も変わってきていることを理解し、こうしたルールの変化については職員に対して積極的に周知し、SOGIハラスメントについて認識を高めていくことも重要です。

医療サービス

LGBTQに多い、あるいは特有のニーズのある医療ケアについて提供できることは、LGBTQの人たちにとって安心して医療にかかることができるきっかけになります。具体的には性感染症、メンタルヘルス、家族計画のカウンセリングなどがあります。

 

専門的な医療の提供が難しいとしても、トランスジェンダーフレンドリーな環境として診療において通称名の利用ができる、オールジェンダートイレを整備する、診察室での声かけなどの配慮も必要です。診察に同席する者について、同性パートナーについても親族と同様に対応がなされることが望ましく、対応のルールなどを決めておくとよいでしょう。

福利厚生と指針

多様なスタッフが、SOGIを理由に差別されずに福利厚生を利用できることが望ましいでしょう。トランスジェンダーの職員のための施策としては、就職のエントリーシートなどの性別欄に「その他」や「記載しない」などの回答項目を設ける、あるいは性別記載自体を求めないことがあります。

 

職員に対してもジェンダーに関わらず利用できるトイレや更衣室を提供すること、通称名を職場でも利用できるようにすることが挙げられます。

 

同性パートナーへの対応として親族・婚姻関係と同様に結婚・育児・介護などの慶事休暇を与えること、祝い金や見舞金、家族手当や家賃補助などの支給金を準備すること、社宅の入居で親族と同様に扱うことなどは個別の組織単位でも実践できることです。また、これらの制度を職員が利用する際に、周囲の人に知られずに申請できるなどの配慮の検討も必要です。

社会貢献

現在日本でも多くのLGBTQに関するイベントが各地で開かれています。民間企業を中心に、LGBTQの支援を表明する活動も広がってきています。LGBTQに関するイベントや社会活動への支援の表明、LGBTQの学生向けの就職説明会などへの参加・協賛などを通してLGBTQ支援を表明することは、社会貢献はもちろんのこと、「声を上げられない」組織内の当事者にとっても大きな心理的なサポートになるでしょう。

ダイバーシティ推進の意味って?医療の質改善としての医療者のケア

医療の質改善(QI)は医療現場の管理職としては日々考える、非常に重要な視点です。昨今では医療の質改善として、患者が受けるケアそのものやコストのみではなく、医療者のワークライフの改善も重要な要素として考えられるようになってきています。この背景として昨今医療スタッフのバーンアウトやメンタルヘルスの悪化、離職などの問題が取り沙汰されており、コロナ渦では社会問題ともなっています。

 

医療者の健康は、患者のケアを継続し、質を高めていくためにも大前提となるものです。働くスタッフが自分らしく、差別を受けずに安全に、そして健康に働くことができる環境を作ることは、医療者はもちろんのこと患者のケアにとってもポジティブな影響があることは違いありません。

最後に ー 「アライ」になること

ここまでお読みいただいていかがでしたでしょうか。最後に「アライ」という言葉をみなさんに贈りたいと思います。

 

アライ(Ally)はLGBTQの理解者・支援者を表す言葉です。

 

この記事を通してLGBTQとダイバーシティについて知っていただき、みなさんにはアライになっていただきたいと思っています。新しく知ったことや感じたことを、ぜひ周りの人と話し、一緒に考えてみてください。

 

ことばにすること、行動を起こすこと、ひとりひとりの実践する姿が組織を、そして地域のケアをよりよくしていくと信じています。

おわりに

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出典

(1)Human Rights Campaign, Healthcare Equality Index2020

https://hrc-prod-requests.s3-us-west-2.amazonaws.com/resources/HEI-2020-FinalReport.pdf

 

目次

    執筆者について

    坂井 雄貴
    坂井 雄貴
    千葉県出身。2014年に群馬大学医学部卒業後、亀田総合病院での初期研修、亀田ファミリークリニック館山 家庭医診療科での後期研修医を経て、2019年に家庭医療専門医・指導医を取得。 2020年より長野県軽井沢町 ほっちのロッヂの診療所で勤務開始、2021年より院長。 同年一般社団法人にじいろドクターズを設立、代表理事として活動。