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【DXと医療機関:未来への架け橋】人材育成とDX:リーダー育成とデジタル人材育成の両立

執筆者:岩本修一 株式会社DTG 代表取締役CEO、おうちの診療所 医師、経営学修士

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医療機関の経営において、人材育成とデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)はどちらも重要なテーマとなっています。人材育成については、診療技術や事務能力の教育もさることながら、マネジメント人材やチーム医療のリーダーをどのように育てていくかも経営課題となっています。また、DXを始めようとしても「どこから手をつけたらいいか決められない」「どうやって進めたらいいかわからない」という声も多く聞いています。

実は、マネジメント人材育成とDXは同時に進めると相乗効果を期待できます。この2つは重要テーマであるとともに、非常に相性のよい取り組みです。

そこで、本記事では、マネジメント研修を通じて、デジタル人材も同時に育てていくアプローチを紹介します。

マネジメント研修とDX

医療機関において、管理職やチームリーダーなど、「マネジャー」の役割を担う人材の育成の重要性は増しています。そのため、管理職や管理職候補を対象としたマネジメント研修を実施しているケースは増えています。

医療機関でDXを進めていくにあたっても、マネジャーのデジタル技術に関する理解度やスキルがその成否を決める鍵の一つとなっています。DXプロジェクトを担当したり、デジタル活用を現場レベルで実装したり、各部署のスタッフに新しい取り組みを説明したりするのは、マネジャーの役割となることが多いからです。

 

そこで、マネジャーやその候補となる人材に対するマネジメント研修のなかに、デジタル技術に慣れてもらえるような仕掛けを組み込むことで、「経営を担う人材の育成」と「DX推進のキーパーソンの育成」の両立をめざすことをお勧めしています。

 

医療機関でDXを進める際の一番の障壁は「DX人材・デジタル人材の不足」です。DXに必要なのは、システムやプログラミングに関する知識や技術に加え、プロジェクト管理やタスク管理の方法論、新しいことを進めていくのに必要なリーダーシップなどです。

システムに関する専門的なものを除くと、各部署のマネジメントや病棟運営でも活用できるスキルと共通しています。例えば、マネジャーが業務やタスクをうまく管理できるようになれば、病棟運営やチームマネジメントでも力を発揮しやすくなるでしょう。リーダーシップを学ぶことで、リーダーとしての自分を省みる機会となります。

つまり、管理職とDX人材で求めるスキルの多くは共通しています。だから、マネジメント研修にデジタルに触れる機会を追加するだけで、DX人材の育成にもつながるのです。

 

デジタルを活用したマネジメント研修

デジタルを活用したマネジメント研修は、従来のマネジメント研修のカリキュラムにデジタル技術やツールの仕様を組み込んで進めるものです。例えば、下記のようなツールを使います。

 

・ビデオ会議ツール:Zoom、Google Meetなど

・チャットツール:Slack、Microsoft Teams、Chatworkなど

・生成AIツール:ChatGPTなど

 

Microsoft 365やGoogle Workspaceを導入すれば、これらのツール群をまとめて導入することができます。

 

研修の連絡や授業後の質疑応答をチャット上でおこなったり、一部の授業をオンラインで実施したりすることで、受講者や事務局がツールの使い方やその準備方法に自然と慣れていきます。

「マネジメント研修にデジタルを組み込む」というと、プログラミングやシステム構築のようなITの専門的な技術を学ぶと想像する方がいるかもしれません。確かにそれらの知識を習うことも重要ですが、それよりもツールを使って慣れることのほうが実践的です。なぜなら、難しい理屈がわからなくても、何度かつかってみれば使い方はわかるものがほとんどだからです。デジタルツールは「習うより慣れよ」の考え方で始めてみるのがいいでしょう。

 

実際、ビデオ会議の開催には、パソコンなどの機器の準備や設定、Wi-Fiなどのネットワーク環境の確認、ビデオ会議で発言する際の心得などが必要です。

ビデオ会議を用いた研修を開催し、受講生全員がビデオ会議に慣れれば、院内外の会議進行がスムーズになり、会議の生産性は向上するでしょう。

 

また、こちらの記事でテキストコミュニケーションの重要性を解説していますが、従来の紙や口頭中心のコミュニケーションから、チャットツールを用いたテキストコミュニケーションに移行することは、組織的な生産性向上の実現に不可欠です。

「今まで使ったことのないツールを使ってもらうのは大変ではないか」という心配もあるかもしれませんが、日本の労働人口の9割がLINEを使っている現代において、それほどの難しさはありません。あえて言うなら、「業務で新しいツールを使うことに対して気が進まない感じ」はあります。研修でのチャットツール導入は、業務とは離れたところでツールに慣れる場所として最適なのです。

 

研修のカリキュラムに「デジタル活用」や「AI活用」などの項目を加えるのもいいでしょう。


研修を通じたDX推進の意義

マネジメント研修でDXを同時に進める意義は以下のとおりです。

1)受講者がDX推進者になる

2)実務とは別の場所で安全に無理なくDXを進められる

3)部署や職種を超えて、DXの共通理解を得られる

 

1)受講者がDX推進者になる

一般的に、マネジメント研修の受講者は、それぞれの部署や職種でリーダーシップを発揮している人や、将来的に発揮することが期待されている人です。研修を通じて得られるデジタル理解や経験値は、彼らから各部署のスタッフに引き継がれます。つまり、受講者がDXの推進者としての役割を果たしてくれます。

 

2)実務とは別の場所で安全に無理なくDXを進められる

医療機関でDXを進められない理由としてよく挙げられるのが「DXで現場の運用を変更したときにトラブルが起きないか不安を感じる」です。とくに、診療や看護の業務に対するDXプロジェクトでよく聞かれます。

患者さんの安全を第一に考える医療職にとって、慣れた手順や方法を変更することのリスクを心配に思う気持ちは理解できます。

 

一方で、研修という環境は、実際の業務とは離れた学びの場所です。そのため、新しいツールや方法を試すには最適な場です。失敗しても患者さんや実務に直接的な影響を与えないため、受講者は安心して新しいことに挑戦することができます。

 

3)部署や職種を超えて、DXの共通理解を得られる

医療機関は多職種で構成される組織です。医師、看護師、薬剤師、事務職、放射線技師など、それぞれが独自の専門知識や業務をもっており、連携して医療サービスを提供しています。DXを進めるにあたっては、異なる視点や業務をもつ職種間で共通の理解や意識が必要となります。

研修の場では、多職種のメンバーが一堂に会し、マネジメントを学び、デジタルに慣れ親しんでいきます。これにより、DXについての共通理解も形成されていきます。また、受講者同士の情報交換やディスカッションを通じて、実務でのデジタル活用に関してさまざまな視点やアイデアを共有することもできます。

 

医療機関におけるDXの取り組みは、マネジャーや管理職の積極的な関与によって、効果やスピードが大きく変わります。マネジメント研修にDXを組み込むことで、受講者がDXにおいてもリーダーシップを発揮できるようになり、医療DXをスムーズに進められるようになるでしょう。

まとめ

今回は、マネジメント研修とDXについて解説しました。「管理職やリーダーを育成したい」、「DXをどこから進めたらいいかわからない」という方はマネジメント研修から進めてみるのはいかがでしょうか?

 

※本記事は、倉敷中央病院医事企画課係長 犬飼貴壮さんと名古屋市客員起業家 木野瀬友人さんにアドバイスを得て執筆しております。

おわりに

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    執筆者について

    岩本修一
    岩本修一
    株式会社DTG 代表取締役CEO、おうちの診療所 医師、経営学修士。
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