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作業療法士の仕事内容とは?他のリハビリ職との違いや他職種との関わりをご紹介

執筆者:内藤 かいせい 理学療法士

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作業療法士は、病気やケガになった人のリハビリを行うためには欠かせない職種です。しかし、仕事内容についてあまり詳しく知らない人は多いのではないでしょうか。
この記事では作業療法士の仕事内容や、チーム医療での関わりについてご紹介します。これから作業療法士を目指す人はもちろん、作業療法士と関わりのある他職種への参考にしていただければと思います。

作業療法士とは?

最初に、作業療法士とはどのような職業なのかをご紹介します。また同じリハビリ職である理学療法士・言語聴覚士との違いについても説明します。

「作業」を中心としたリハビリテーションを行うこと

作業療法士はリハビリ職の1つであり、その名前のとおり「作業」を中心としたサポートをします。作業とは日常生活で行う「食事・着替え」から「家事・趣味活動」などの応用的な動作のすべてを指す言葉です(1)。人は普段の生活でさまざまな作業を行っていますが、病気やケガにより身体に障害を抱えてしまうと、その動作に支障が現れます。

作業療法士は、たとえば腕の骨折や脳卒中で足は動かせるけど、手が動かしにくいというような患者さんに対してリハビリを行い、生活に必要な動作の獲得を目指します。社会復帰のために、パソコンのタイピングや特殊な道具の操作など、より細かい応用動作の練習をすることも多いです。また作業療法士のリハビリ対象は身体に障害を抱えた人だけではありません。精神的な障害や認知症を持っている人にも、作業をとおしてアプローチをすることもあります。

このように作業療法士は、患者さんの心と身体の両方に寄り添いつつ、その人らしく生きるためのサポートをする職業といえます。

理学療法士と言語聴覚士との違いは?

「作業療法士」と「理学療法士・言語聴覚士」はよく混同されやすいので、ここで違いについてご説明します。まず理学療法士とは「歩く・座る・立つ」といった、基本動作の獲得を中心にリハビリを行う職業です。おもに以下の治療方法で身体機能の改善を図ります。

・運動療法:筋力トレーニングやストレッチ、歩行訓練など

・物理療法:超音波や低周波、ホットパックなど

同じ専門職であるため作業療法士と類似している部分もありますが、理学療法士はより基本的な動作を中心にリハビリを行う傾向にあります。

一方、言語聴覚士は障害によって話す・聞く・食べるなどが困難となった人にリハビリを行う職業です。これらの障害は、脳卒中後の後遺症として現れることが多いです。発声・飲み込みの練習をしたり、補聴器の調整を行ったりして、言葉によるコミュニケーションや食事を円滑に行えるようにサポートします。

まとめると、以下のようなイメージを持っていただくと、各職種の役割がわかりやすくなるでしょう。

  • 作業療法士:「応用動作」のリハビリを中心に行う
  • 理学療法士:「基本動作」のリハビリを中心に行う
  • 言語聴覚士:「コミュニケーションや食事」のリハビリを中心に行う

もちろん患者さんの状況に応じて各職種の役割が変わることもあります。

作業療法士の仕事内容とは?



作業療法士は応用動作のリハビリを中心に行いますが、患者さんの病気やケガの時期によって内容は変わります。ここでは作業療法士のリハビリ内容を「急性期・回復期・維持期」の3段階に分けて説明します。

急性期では基本的な動作の改善を図る

病気やケガをした直後の段階である急性期では、早期のリハビリを行い、基本的な動作の改善を目指します。この時期は症状が不安定となりやすいため、負荷量の大きい練習はなるべく控え、体調にあわせたリハビリを行います。具体的な内容は以下のとおりです。

  • 車いすに乗り移る
  • トイレをする
  • 自助具を使用して食事をする など

このように身体機能の低下を防ぎつつ、基本動作を少しずつ定着させていきます。

回復期では生活のための動作獲得を図る

病気やケガの状態が安定し、身体機能が少しずつ改善していく回復期では、生活のために必要な動作の獲得を目指します。患者さんの悩みや生活背景を聴取したうえで、自宅で行われる動作を想定しながらリハビリプログラムを組み立てます。

服の着脱やトイレの練習はもちろん、患者さんによっては実際に料理をしたり、公共交通機関を使って外出したりする場合もあるでしょう。また作業療法士と付き添いで試験的に自宅に戻り、どのくらい動作を行えるのかを確認する「外出訓練」も実施します。回復期はさまざまな動作の獲得を目指す時期のため、急性期と比べるとリハビリ内容のバリエーションが非常に豊富といえます。

維持期では自分らしく生きるための支援を行う

症状の改善がある程度固まった維持期では、今持っている機能でその人らしく生活を送れるようにするためのサポートを行います。とくに医療施設を退院した後は、リハビリをする機会が少なくなるため、身体機能が低下する危険性があります。それを防ぐために、デイサービスや訪問看護サービスなどでリハビリを行い、身体機能の維持を図ることが大切です。また地域のコミュニティの参加や就労をサポートし、社会とのつながりを保つための役割も担います。

作業療法士が他職種と連携をとるポイント

患者さんの退院支援を円滑に行うためには、他職種と連携をとりながらリハビリを行うことが大切です。ここでは、作業療法士がチーム医療として他職種と連携をとるときのポイントを説明します。

医師との連携

医師と連携する際は、患者さんの状態確認やリハビリを行う際の注意点などを聞くようにします。患者さんのなかにはバイタルが不安定だったり、特定の肢位を取ってはいけなかったりするケースもあるでしょう。注意点を十分に把握しないままリハビリを行うと、かえって症状が悪くなることもあります。

また目立った注意点がない場合でも、患者さんはいつリハビリ中に異常が起こるかわかりません。「様子がおかしい」と感じたときはすぐに医師に報告して、その後の指示を待つようにします。

看護師との連携

看護師は患者さんのリハビリ以外の日常生活を把握しているため、食事はできているか、睡眠はとれているかなどを聞きます。栄養が十分にとれていない状態で運動すると、かえって筋肉量が減少したり、体力が下がったりする危険性があります(2)。睡眠不足だった場合、集中力が低下してリハビリのパフォーマンスが低下することもあるでしょう。

事前にこれらの情報を知っていれば、患者さんの体調や状態にあわせてうまく負荷量を調整できます。また看護師が患者さんの車いすへの移乗や食事の方法で困っている場合、作業療法士に相談していただければ、うまく行うコツなどもお伝えできます。

理学療法士との連携

同じリハビリ職として関わりの多い理学療法士とは、患者さんの目標を共有しつつ、どのような方向で進めていくのかを相談します。お互いの方向性にズレが生じると、リハビリの効果が弱まり、患者さんを混乱させてしまう原因となります。

たとえば、脳卒中で片麻痺症状のある患者さんの目標が「ベッドから車いすへの移乗動作の獲得」だとしましょう。理学療法士は麻痺した下肢も今後うまく使えるように、なるべく両足の力で立ちながら車いすに移るように練習を行います。一方、作業療法士が麻痺した下肢を使用することなく、健側の力だけを使って車いすに移る練習をしたらどうでしょうか。

理学療法士と作業療法士が同じ目標を持っていても、それぞれ別のやり方でリハビリを行っていたら思うような効果は出ません。患者さんもどちらの方法で車イスに乗り移ればいいかわからないため、移乗の際に混乱して転倒する危険性も高まるでしょう。リハビリを効果的に行うためには目標だけでなく、お互いのリハビリプログラムを細かく共有することが大切です。

言語聴覚士との連携

言語聴覚士とは、食事に関連した連携をとることが多い傾向にあります。誤嚥をせずに食事をするためには、飲み込みの練習だけでなく正しい姿勢の保持が重要です。作業療法士はリハビリで身体機能の改善を図り、患者さんの姿勢を整えることで、飲み込みがしやすい状態を作ります。さらに正しい姿勢のとり方を共有し、言語聴覚士のリハビリの効果を高めます。

また患者さんが脳卒中の影響で話す・聞くなどの機能が障害されて、思うようなリハビリを行えないときもあるでしょう。そのときは言語聴覚士に相談して、コミュニケーションをうまくとるアドバイスをもらうこともあります。

まとめ

作業療法士は、その人が自宅での生活を送ったり、社会復帰して仕事を行ったりするために必要な「作業」を獲得するためのサポートをする職業です。そして理学療法士・言語聴覚士とともに、それぞれ別の視点から患者さんに最適なリハビリを提供します。またリハビリ職だけでなく、医師や看護師などの他職種とうまく連携し、患者さんの情報を共有することも大切です。今回の記事をとおして、チーム医療における作業療法士の役割や、他職種と円滑に連携をとるためのポイントをおさえていただければ幸いです。

おわりに

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出典

(1)作業療法士ってどんな仕事?

https://www.jaot.or.jp/ot_job/

 

(2)理学療法とリハビリテーション栄養管理

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/40/5/40_KJ00008826565/_pdf/-char/ja

 

目次

    執筆者について

    内藤 かいせい
    内藤 かいせい
    5年間、理学療法士として医療に従事。リハビリで患者をサポートするとともに、全国規模の学会発表にも参加。 新しい業界にチャレンジしたいと決意し、2021年に独立。現在はWebライターとして活動中。これまでの医療経験を活かしてヘルスケア領域や、リハビリ関係の記事を中心に執筆を手掛ける。ゆるく自分らしく生きることが人生の目標。
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