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2023年4月から原則義務化になったオンライン資格確認とは?

執筆者:鈴木絢乃 薬剤師セールスコピーライター

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2023年4月から保険医療機関と保険薬局には、オンライン資格確認の導入が原則義務化されました。しかし、2023年5月7日時点での保険医療機関・薬局の登録率は90.7%、運用率は71.5%となっており、どちらも100%ではない状態です()。

オンライン資格確認を導入するメリット・デメリットは何か?またオンライン資格確認の現状と課題について今回は解説していきます。

オンライン資格確認とは?

オンライン資格確認とは、保険資格の確認がオンラインでできる仕組みです。マイナンバーカードと健康保険証による確認方法があり、マイナンバーカードのICチップ、健康保険証の記号番号等を用いて、オンラインで資格情報の確認ができます。
本格的に2021年10月に運用がスタートしましたが、2023年4月からはオンライン資格確認の導入が原則義務になりました。
オンライン資格の導入機関は、保険医療機関と保険薬局が対象です。訪問看護ステーション、整骨院、接骨院、鍼灸院、あんま・マッサージは対象外となります。また、現在紙レセプトでの請求が認められている保険医療機関・薬局も例外となっています。
オンライン資格確認に係る各種申請を行うためには、「医療機関等向けポータルサイト」のアカウントの登録と、顔認証付きカードリーダーの申し込みを行う必要があります。
しかし、2023年5月7日時点で医療機関等向けポータルサイトアカウントの登録は90.7%()、義務化対象施設に対する割合はそれぞれ顔認証付きカードリーダーの申込98.7%、準備完了施設83.3%、運用開始施設76.8%と決して良い数字ではありません()。(義務化対象施設数は、社会保険診療報酬支払基金にレセプト請求している医療機関・薬局の合計で算出し、紙媒体による請求を行っている施設は除いています。)

なぜオンライン資格確認の導入が必要なのか?

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オンライン資格確認は、患者さんの同意の下で、患者さんの医療情報や健康状態を共有することができるようになるため、より良い医療を提供しやすくなるとともに、医療DXの基盤としても期待されています。
また、これは厚生労働省が推進する「データヘルス改革」の一環で、以下に記す「データヘルス集中改革プラン」の3つのACTIONが実現できれば、医療関係者の負担が軽減されるとも考えられています。

データヘルス集中改革プランとは

データヘルス集中改革プランとは、健康・医療・介護情報のビッグデータを構築していくプラットホームのことです。
今後は医療機関、自治体、患者さんが有する健康・医療・介護情報を共有しながら、デジタル化を通じた強靭な社会保障を構築していくために3つのACTIONが必要と考えられています()。

ACTION1:全国で医療機関情報を確認できる仕組みの拡大

複数の医療機関を受診している場合、情報を集約でき、問診や確認の負担が軽減されます。また服薬情報も確認できるため、重複投薬を避けることができます。

ACTION2:電子処方箋の仕組みの構築

現状は、病院で紙の処方箋を発行し、患者さんが薬局へ持参する形式です。しかし、電子処方箋が導入されると紙の処方箋の受け渡しが不要になり、リアルタイムで処方情報の共有ができるようになります。そのためオンライン診療やオンライン服薬指導にも活用することが可能です。
また薬局では、処方箋情報の入力負担が軽減されるほか、調剤時に処方情報や調剤情報を確認でき、重複投与や併用禁忌を防ぐことが可能になります。

ACTION3:自身の保険医療情報を活用できる仕組み

患者さん自身がマイナポータル等を通じて、自身の医療情報を閲覧・活用することができます。
また受診する際に、病院側と医療情報の共有ができるため、同じ検査を受ける、同じ質問をされるなどの無駄な時間を省くことができます。

以上の3つのACTIONに共通することは、医療機関と患者さん自身がオンライン資格確認等システムにより治療内容や薬剤情報などを共有できるため、効率的な医療の提供が期待されている点です。
また、データヘルス集中改革プランを推進していくことで、保険医療機関や保険薬局が対物業務から対人業務へシフトしていきやすくなり、事務作業の時間が削減され、結果的に医療従事者の負担が軽減されると考えられています。

オンライン資格確認を導入するメリット・デメリット

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ここからは、オンライン資格確認を導入することにより、保険医療機関・薬局にどのようなメリットまたはデメリットがあるのか具体的に説明していきます。

メリット

受付時の作業確認時間の削減

今までは患者さんからお預かりした健康保険証から氏名、生年月日、保険証記号番号などを確認後、手入力していたため、時間がかかっていました。
しかし、オンライン資格確認を導入した医療機関や薬局の窓口では、マイナンバーカードを顔認証付きカードリーダーで使用すると、加入している医療保険や自己負担限度額等など患者さんの最新の資格情報が確認できるようになっています。そのため、受付時の作業時間が大幅に削減できます。
ただし、健康保険証の場合は従来通り手入力になります。
そのため、オンライン資格確認システムやマイナンバーカードの普及を促す目的で、2022年10月より、マイナンバーカードを使用した方が従来の健康保険証を使用する時より患者さんの費用負担が減るようになっています。

レセプト返戻の削減

従来の保険証確認では、退職により資格失効していた場合でも健康保険証だけでは判断できず、有効期限切れのまま受診することによる過誤請求や入力ミスなどがありました。しかし、オンライン資格確認等システムの導入により、こうした間違いを減らすことができます。その結果、レセプト返戻の件数を削減することが可能になります。

診療・薬剤情報や特定健診等情報の閲覧が可能

患者さんの同意と本人確認を得られたら、マイナンバーカードにより診療・薬剤情報や特定健診等情報の閲覧ができるようになります。
診療・薬剤情報は令和3年9月診療分からの3年分のレセプトが閲覧可能です。特定健診等の情報は令和2年度分から順次登録された5年分の情報が閲覧可能になります。
災害時においては、患者さんの同意は必要ですが、特例措置としてマイナンバーカードによる本人確認ができなくても薬剤情報や特定健診等情報の閲覧が可能となります。情報が少ない災害時には、医療従事者にとってありがたい仕組みとなります。

電子版お薬手帳との連携が可能

今までは、薬局毎に発行される調剤明細書等に記載されている薬剤情報を手入力または二次元バーコードを読み取り、電子版お薬手帳に登録していました。
しかし、今後はマイナポータルを介して、レセプト情報に基づく薬剤情報を一括で取り込むことが可能になり、電子版お薬手帳との連携が可能になります。

デメリット

初期費用がかかる

オンライン資格確認を導入するには、顔認証付きカードリーダーを設置しなければなりません。またソフトウェアの導入やネット環境の整備、レセプトコンピュータや電子カルテシステムの改修など初期費用がかかります。(全額負担ではなく、病院、診療所・薬局、大型チェーン薬局によって導入費用の補助が期限を設けてそれぞれありました。)

オンライン資格確認普及の課題

高齢化が進み続けるなか、医療費をはじめとした社会保障費は年々増加傾向にあります。
今後も安心できる社会保障基盤を保つため、そのあり方や、給付と負担の見直しを厚生労働省は行なっています。そこで効率よく、質が良い医療・介護サービスを提供できるようにとオンライン資格確認を普及させる動きが強まっています。
しかし、2023年4月からオンライン資格導入が原則導入義務化されたにも関わらず、なぜ導入が思うように進まないのでしょうか?
日本歯科医師会が実施したオンライン資格確認に関するアンケート調査によれば()、
オンライン資格導入が困難の理由として「高齢のため、数年後に廃院予定の為」「レセプトの請求件数が少なくオンライン資格確認を活用できないため」の2つが最も多い回答でした。また、「ランニングコストなどの経費がかかる」「回線の申し込みから1年以上経っても業者が未対応のまま」「セキュリティ対策に不安があるため」などコスト面の負担、業者対応の遅延、セキュリティの不安なども、オンライン資格確認の導入が進んでない原因です。
しかし、オンライン資格確認等システムは今後の医療DXの基盤となっていくため、医療機関・薬局が患者さんに周知できるように環境を整備していく必要があります。

まとめ

2023年4月の時点では、オンライン資格確認等システムの運用率は100%ではありません。今後も厚生労働省と医療機関・薬局が連携しながら、医療の質向上や医療機関や薬局の業務負担軽減に繋がるようにオンライン資格確認等システムを普及させ、患者さんにより質の良い医療が提供できるようになればと思います。

おわりに

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出典

(1)厚生労働省 オンライン資格確認の都道府県導入状況について

https://www.mhlw.go.jp/stf/index_14821.html

(2)厚生労働省 オンライン資格確認の導入についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08280.html

(3)厚生労働省 データヘルス改革について

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/data_rikatsuyou/dai1/siryou3.pdf

(4)厚生労働省 オンライン資格確認導入に関する現状・課題

https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001027464.pdf

目次

    執筆者について

    鈴木絢乃
    鈴木絢乃
    千葉県在住の薬剤師セールスコピーライター。 6年制課程薬学部を卒業後、ドラッグストアの調剤薬局にて勤務。その後調剤薬局に転職後、現在はドラッグストアの調剤薬局の管理薬剤師として勤務。結婚を機に、ワーク・ライフ・バランスを考えるようになり、セールスコピーライターの道へ。 今夏には出産予定。「どんな状況でも自立した女性」をモットーに薬剤師兼ライターとして活動中。
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