未来の医療と介護を考えるIT×医療・介護マガジン

お問い合わせ

ピープルアナリティクスは人事に悩める医療機関の救世主!ゼロからお伝えします!Vol.1

執筆者:田村 泰地 ライター

≫ epigno journalの更新情報をメルマガで受信する

高齢化などにより、医療への需要が高まっている一方で、病院等の医療機関は十分に医療従事者を確保できていない状況が続いています。例えば、コロナ禍での医療現場のひっ迫に対し、「潜在看護師」への関心が高まったのは、平時に各医療機関が看護師を十分に確保できていないことを反映しているとも言えます。皆様がお勤めの医療機関も人手不足に悩まされていないでしょうか?

実は人手不足で悩んでいるのは医療機関だけではありません。コロナ禍で制限されていた経済活動の再開に伴い、中小企業を中心に多くの一般企業も人手不足に悩んでいます。そしてその対策として「ピープルアナリティクス」を活用する企業が増えていっています。

「人々」と「分析」を意味する英語が組み合わされた「ピープルアナリティクス」は、人事施策に関する意思決定を、データ分析を基に行う手法です。このデータに基づいて「効率化」・「意思決定精度の向上」・「従業員への価値提供の向上」させることが目標です。

一般企業の経営だけなく、今後病院経営でも活用可能な「ピープルアナリティクス」について、2回に渡って詳しく紹介していきます。

そもそも、ピープルアナリティクスとは?

皆さんの施設では、人材情報をデジタルで集積していますでしょうか。紙で管理していることがまだまだ多く、Excelで管理していても、十分に活用できていないかもしれません。

ピープルアナリティクスとは、「人材マネジメントにまつわる様々なデータを活用して、人材マネジメントの意思決定の精度向上を図り、業務の効率化を実現する手法」です。従来の人事業務は勘や経験に依存する部分も大きく、納得性に欠けることも多々ありました。ピープルアナリティクスでは、ヒトに関するデータを適切に分析することで、より納得性があり、効率性の高い人事施策を行いましょう、というものです。

このようにデータ分析に基づいて人事に関する意思決定を行う考え方は、一般的な企業では浸透しつつありますが、病院やクリニック、介護施設などの経営にも活用することが可能です。 では具体的にピープルアナリティクスでは、どのようなデータをどう分析しているのでしょうか。まず「データを適切に分析する」には、ステップがいくつかあります。大別すると、

  1. 各年のデータを集計する
  2. 過去の結果と比較する
  3. 他社(他施設)と比較する
  4. なぜ、ある事象が起きたのかを検討する
  5. 過去の結果から将来の動向を予測する

が挙げられます。一般的に、ピープルアナリティクスと呼ばれるものは4.と5.です。

ピープルアナリティクスが用いられる場面は実に様々です。具体例として、

  • 退職データを用いることで、どのような人材の退職可能性が高いのかを分析する
  • どのような人物が自社において成果を発揮しやすいのかを分析することで、採用時に効率的に人材を選抜する
  • 性格検査データを用いることでスタッフ間の相性を把握し、配属先を決定する上での参考にする
  • 社員のモチベーションなどを測定することで、スタッフや部門ごとのやる気や士気の指標とする

などが挙げられます。このようにピープルアナリティクスは、どのようなスキルの人材がどこにいるのか分からないといった人事関連の悩みを持たれている病院経営者の方々にとって有益な情報をもたらしてくれます。

ピープルアナリティクスで使うデータの種類

24625762_m

次にピープルアナリティクスを行う上で鍵となるのがデータです。分析対象のデータそのものが適切なものでなければ、求める分析結果は得られません。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会によると、ピープルアナリティクスに用いられるデータは、「オペ―ショナルデータ」、「センチメントデータ」、「パーソナリティデータ」、「アクティビティデータ」の4種類に分類することができます。

オペレーショナルデータ

このデータは、採用・配置・育成・評価・報酬・退職といった人事関連の業務を行うために、一部の一般企業や病院などではすでに整備されているデータとなります。このデータはピープルアナリティクスを行う上で、最低限必要なデータとなります。ただし、スタッフの日々のモチベーションの変化など、分析したい内容によっては、さらに様々なデータが必要となってきます。

センチメントデータ

このデータは、スタッフのモチベーションの変化など「感情(センチメント)の変化」を追跡するためのものです。日本企業の中で古くから使用されているものとしては、「従業員満足度」のデータがあります。2000年以降から注目されはじめたエンゲージメント(社員の会社に対する愛着心)のデータもセンチメントデータにあたります。

これらのデータはこれまでスタッフの離職やメンタルの兆候などを把握するにあたり、貴重なデータとして扱われてきましたが、今後は、その位置づけが徐々に変化するものと考えられています。以下、予想される3つの変化について説明します。

  1. 他の人事データと組み合わせて様々な洞察が可能になる

    従業員意識調査やエンゲージメントの情報は、これまでは、その調査結果単体の中での分析に留まっていたケースが多く、他の人事データと連動させた分析はあまりなされてきませんでした。しかし在籍年数、上司との相性、給与水準など様々な個人データと組み合わせると、個人のモチベーションなどが人材マネジメント上の何に影響を及ぼしているのかを特定しやすくなります。このように、今後は複合的な分析で活用されることが増加すると予測されています。

  2. 意識調査は「匿名式」から「記名式」になる

    多くの企業の従業員意識調査や満足度調査では、スタッフが上司などに情報が漏れることを恐れて「匿名式」を採用しています。しかし、外国人スタッフやミレニアル世代の拡大など、スタッフが組織の中で多様化している状況下においては、きちんとスタッフ一人ひとりのモチベーションの変化を把握する必要性が出てきています。その結果、欧米企業などを中心に「記名式」に転換する企業も増えつつあります。「記名式」にすることで、どのスタッフに、どのように介入するべきかが分かります。

  3. 意識調査のデータ頻度は月次/週次がトレンドになる

    現状、スタッフに対する調査は、おそらく多くの企業が年1回程度実施しています。しかし、スタッフのモチベーションは日々変化しており、その動きを的確に捉えていくために、調査の頻度をあげる企業が増えてきています。例えば、欧米の先進的な企業では週や月に1回実施するケースも見られます。

パーソナリティデータ

センチメントデータ以上にピープルアナリティクスを行う上で欠かせないデータとなるの が、パーソナリティデータです。パーソナリティデータとは、スタッフ一人ひとりの性格の特徴や、個人のバックグラウンドなどを示したデータです。多くの日本企業の新卒採用で実施されている性格検査(シンプルな質問に大量に答えてもらい、その回答から、知的好奇心や協調性、社交性やストレス耐性などを分析する)のデータなどが該当します。特に医療機関では、資格や研修といった専門職ならではのデータがあり、どの分野で何年実績を積んでいるか、なども重要な項目となります。

なぜこのパーソナリティデータが大切なのかというと、スタッフ一人一人の個別データがないと、多様な人材が集まる組織において、課題を発見できずに埋没させてしまうリスクがあるためです。たとえば、上司とのコミュニケーション量についてある組織で意識調査した際に、高評価でも低評価でもない平均的な結果が得られたとします。組織全体の傾向を見るかぎり、この結果は問題にはなりません。しかし、パーソナリティデータも用いて詳しく見てみると、内向的な人材が低評価を、外向的な人材が高評価を出しているかもしれません。この場合、もしパーソナリティデータがなければ、内向的なスタッフの不満に気づけずに終わってしまいます。

今後の人材の多様化が一層進む時代において、スタッフ一人一人の特性まで見るパーソナリティデータは益々重要になってくるでしょう。

 

アクティビティデータ

「アクティビティデータ」はスタッフの組織内での活動内容のログ(記録)です。古くからある情報でいえば、出社した時間から退社した時間、残業時間など1日の大まかな活動内容を把握することができる「勤怠情報」などが該当します。

こうした活動情報の取得は、近年のテクノロジーの進化によって、より精緻なレベルまで進んできています。たとえばメールの受信履歴や会議情報等の送受信により、どの部屋で社員が活動していたかなどの情報まで記録できるようになっています。こうしたデータをベースにハイパフォーマー(高い成果や業績を上げる人材)やローパフォーマー(組織が求める業務レベルに到達しておらず、組織の負担となってしまっている人材)が1日の中でどういった行動パターンを取るのかという分析を行っている企業もあります。

まとめ

今回は第1回ということで、そもそも、ピープルアナリティクスとは何なのか、そして、具体的にどのようなデータを活用するのかについて説明しました。第2回では、話をもう少し進めて、「ピープルアナリティクスは、具体的にどのように活用されているのか?」「ピープルアナリティクスの最近のトレンドは?」といったことについて説明します。

 株式会社エピグノでは、ヘルスケア領域でピープルアナリティクスを実現させるために、エピタルHRを提供しています。ピープルアナリティクスでタレントマネジメントの実践に興味を持たれた方はぜひこちらをご覧ください。

おわりに

Epigno Journalでは,これからの医療を支えるTipsを紹介しています.ぜひご覧ください.

出典

  1. 「病院経営動向調査の概要」 独立行政法人福祉医療機構
  2. 「ピープルアナリティクスの教科書ー組織・人事データの実践的活用法ー」
  3. 一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 日本能率協会マネジメントセンター

目次

    執筆者について

    田村 泰地
    田村 泰地
    医大生。東京大学経済学部を卒業後、インフラ企業に勤務。財務省への出向時には論文を執筆し、日本経済学会で発表を行った。コロナ禍において医療従事者の方々が奮闘されている姿を目の当たりにし、医療は人々の命を守るインフラであると強く感じた。そして、医師としてそのインフラを支える一員になりたいという思いから医学部に入学し、日々医学の勉強をしている。
    toepigno-1