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医薬品の出荷調整について、なぜ医薬品が安定供給されないのか?

執筆者:鈴木絢乃 薬剤師セールスコピーライター

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昨今、注文した医薬品が卸売業者から納品されず、代替医薬品の手配に追われているという医療現場も多いのではないでしょうか?
2021年から医療用医薬品の出荷調整が始まり、卸売業者に注文した医薬品が納品されない、あるいは注文数のうち一部のみしか納品されないという事例が増え、医薬品の安定供給が困難になっています。
2023年になっても、医薬品の出荷調整は継続されており、医療現場では医薬品の供給不安が続いています。
今回は医薬品の出荷調整について、開始された背景や具体的な影響などについて説明していきます。

医薬品の出荷調整が始まったきっかけ

医薬品の供給が不安定になったきっかけは、2020年に一部の製薬会社の不適切な製造や品質管理の不正が発覚したことです。

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この不正がきっかけとなり、国や都道府県が製薬会社に対して立入検査、自主点検を実施したところ、多数の製薬会社でも問題が見つかりました。その結果、業務停止命令や業務改善命令が発令され、多くの医薬品の製造・供給が停止され、出荷調整が行われるようになりました。

また、輸入に頼ってきた医薬品の原材料が、コロナ禍の影響も加わり調達が難しくなり、医薬品の製造がさらに困難になっています。
加えて、ジェネリック医薬品の場合、複数のメーカーが製造・販売を行っています。例えば、A社が業務停止や出荷制限を受け、医薬品の供給に影響が出た場合、注文がB社やC社に集中してしまいます。しかし、B社やC社も製造能力を超えた注文が入った場合、出荷調整を行わざるを得なくなります。このように、ある製薬会社の出荷制限が他社の供給にも影響を及ぼすことになります。
こうしたことから、2023年現在も製薬会社は医薬品の出荷調整を行っており、医療現場では医薬品の確保に苦労しているのです。

2022年8月時点での安定供給確保に関するアンケート調査の結果によれば、全体の28.2%、後発医薬品では41.0%で出荷停止、限定出荷が発生していました()。
2021年8月の欠品・出荷停止、出荷調整は、全体の20.4%、後発医薬品では29.4%だったことから、時間の経過とともに医薬品の安定供給が困難になっていることがわかります。
通常は時間の経過とともに出荷調整も解除されることが期待されますが、先述したようにある会社が製造中止などにより供給が中止されると、他社にも影響が及び医薬品の安定供給が難しくなります。

医薬品供給不安による薬局での影響

医薬品の製造中止や出荷制限による薬局での影響についてお伝えします。

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医薬品の安定確保に時間が取られ、業務負担が増える

医薬品の製造中止や出荷調整が本格的に始まった2021年からは、出荷制限がかかり、注文した医薬品が納品できないという卸売業者からの連絡が毎日のように薬局に入っています。一部の医薬品は入荷が全くできないものもあります。

しかし、患者さんにとっては必要不可欠な薬ですので、入荷ができない場合は他の店舗に在庫を譲ってもらえないか交渉を行ったり、卸売業者に次回の入荷予定日を確認してもらったりと、さまざまな手段で在庫を確保しなければなりません。その分の業務と負担が増加しています。

患者さんの不安を解消するための努力も必要

ジェネリック医薬品の場合は、前回と同じメーカーの薬を用意できないこともあります。患者さんの不安を解消し、安心して薬を服用できるように、わかりやすく、納得いくまで丁寧に説明するようにしています。

ジェネリック医薬品が入荷できないため、加算が取れない

調剤報酬の中に「後発医薬品調剤体制加算」という項目があります。施設基準を満たし届け出た薬局で調剤した場合、処方箋受付1回につき、調剤基本料に加算することができます。この加算は3つの区分に分かれており、ジェネリック医薬品の置換率によって点数が異なります。

ジェネリック医薬品が入荷できず、代わりに先発医薬品を使用する場合、ジェネリック医薬品の置換率が低下し、加算の点数が低くなる可能性があります。つまり薬局にとっては、負担は増えているのに、収益が減少する事態が起きてしまったのです。

この点に関しては、2021年9月21日以降、後発医薬品に係る施設基準について臨時的な取扱いが施行され、特例措置が導入されたことによって、現在は影響が小さくなっています()。

医薬品供給不安による患者さんへの影響

続いて、医薬品の製造中止や出荷制限による患者さんの影響についてお伝えします。

患者さんの金額負担が増える場合がある

ジェネリック医薬品が入荷できず先発医薬品で調剤する場合、患者さんの金額負担が増える可能性があります。先発医薬品は一般にジェネリック医薬品よりも薬価が高いものが多く、保険適用範囲内でも患者さんの自己負担が増えることがあります。

薬局の在庫不足により患者さんの負担が増える

毎日薬を切らすことなく服用しなければならない患者さんはたくさんいます。いつも服用している薬にも関わらず、普段通っている薬局に在庫がない場合、在庫がある薬局を自分で探してもらわなければならない場合があります。

ジェネリック医薬品のメーカー変更による不安

先述したように2022年8月時点での後発医薬品は29.4%で欠品・出荷停止、出荷調整が発生しており、現在も医薬品の供給不安は続いています。そのため、患者さんが普段服用しているメーカーの医薬品で取り揃えることができない状況も多々あります。

患者さんによっては、メーカーが頻繁に変わることにより、効果は変わりないのか?なぜいつもの薬ではないのか?などの不安を抱く方もいらっしゃいます。

出荷調整の解消時期はいつなのか?

以上のように、医薬品の供給不安は、薬局にとっても患者さんにとってもさまざまな負担があります。供給状況が1日でも早く改善することが望まれますが、では、医薬品の出荷調整はいつまで続くのでしょうか?

専門家の中には、あと2〜3年はこのような状態が続くのではないかと予想している方もいます。

2023年3月17日に行われた、医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(第7回)では議題に「医療用医薬品の安定供給について」がありました()。こちらの議事録では、現在続いている医薬品の出荷調整の改善時期の目処については明言を避けており、解消時期がいつ頃なのかはまだはっきりしません。

業界・厚生労働省が公開している安定供給に関する情報は、日本医師会のHPに掲載されています。最新情報はこちらをチェックしてください()。

まとめ

今回は医薬品の出荷調整について解説していきました。

2021年頃から出荷調整が始まり、3年経過した現在でも終息の目処が立っていません。

関係各所で連携し、一刻も早く、患者さんが必要な医薬品を適切に服用使用できる状況に戻ればと思います。

おわりに

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出典

(1)厚生労働省 医薬品の安定供給に関する最近の状況

https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001074100.pdf

(2)厚生労働省 後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて

https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/kouhatsuiyakuhin_syukkateisi_sochi_00001.html

(3)厚生労働省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(第7回)の議事録

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32627.html

(4)日本医師会 医薬品の供給に関する情報

https://www.med.or.jp/doctor/sien/s_sien/004805.html

目次

    執筆者について

    鈴木絢乃
    鈴木絢乃
    千葉県在住の薬剤師セールスコピーライター。 6年制課程薬学部を卒業後、ドラッグストアの調剤薬局にて勤務。その後調剤薬局に転職後、現在はドラッグストアの調剤薬局の管理薬剤師として勤務。結婚を機に、ワーク・ライフ・バランスを考えるようになり、セールスコピーライターの道へ。 今夏には出産予定。「どんな状況でも自立した女性」をモットーに薬剤師兼ライターとして活動中。
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