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コロナ禍で需要が高まった潜在看護師をどう確保するか

執筆者:三好 彩 フリーライター

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皆さんは、「潜在看護師」の存在についてご存じでしょうか?

医療現場において重要な看護師の存在。元々、人員不足な上に、コロナ禍で医療現場のひっ迫により拍車がかかり、さらに需要が高まっています。

その中でも、潜在看護師についてはあまり知られていないかもしれません。

本稿では、潜在看護師がどういった存在で、なぜ需要が高まりつつあるのか、復帰策を含め、今後の医療・社会にどのように貢献していける可能性があるのかについて、ご紹介していきます。

コロナ禍において注目を集めた潜在看護師

2019年12月に中国・武漢市で、新型コロナウィルス(COVID-19)が発生してから、新型コロナウィルス感染症患者を受け入れる医療現場の多くは人員がひっ迫しています。

その中で、全国1402自治体を対象にした調査では、ワクチン接種の特設会場を設ける自治体の2割以上が看護師不足と回答しました(1)。

この解決策の一つとして潜在看護師の存在が注目されはじめました。

そもそも「潜在看護師」とは?

潜在看護師とは、看護師免許を持った64歳以下の人(225万人存在)で、看護師としては働いておらず、看護師免許を所持しているのみの人を指します(2)。

2012年時点では、潜在看護師の数は71万人とされています。これは看護師資格保有者のおよそ3分の1が資格を保有しているだけの状態であることを指します(2)。

その中には、専業主婦の方もいれば、医療以外の看護の知識の不要な正社員の職についている方、看護知識を活かして介護施設などでパート勤務をされている方などもいらっしゃいます。

潜在看護師は、ブランクがあるとはいえ医療知識と実務経験があるため、長期の育成が必要な新人看護師よりも、即戦力として臨床現場への復帰が期待されています。 ただ、多くは臨床現場へ復帰していないのが現状です。

なぜ、臨床現場から離れたままになるのか

看護師が臨床現場から離れる理由は、ライフステージの変化が一番に挙げられます。男性の看護師も増えたとはいえ、女性の看護師が多く、離職理由は結婚や出産、育児が約3割にものぼります。 

離職には精神的な理由や人間関係などの理由もありますが、ライフイベントを経ていくなかで、結婚、出産、育児、介護といった理由に段階的に変わっていきます。

そうしたブランクに加えて、勤務条件に制限があることが復帰を阻む理由になっています。

他にも、

  • 新人の頃のように夜勤に耐えられる体力があるか
  • 手技の感覚の鈍りに対する恐怖心
  • 医療職の責任の重さや緊張感に耐えられるか
  • 最新の医療に対応できるか

こうした精神的・物理的な理由も挙げられます。
そのため、復職のサポートが非常に重要になってきます。

臨床現場への復帰の対策について

 

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社会的にも最近、高齢化問題とコロナ禍により、ようやく潜在看護師が問題視され始め、看護師の離職を防ぐ目的で保育施設を設けたり、復職支援のための研修を充実させる病院も増えてきています。国家レベルでは、1992年に制定された「看護師等の人材確保の促進に関する法律」に基づき、中央と各都道府県にナースセンターを設置(3)。各都道府県のナースセンターで職業紹介や再就業支援の研修等、潜在看護師の復職支援を行うようにもなってきました。

 

しかし、まだ十分ではなく、看護師の離職防止策や復職支援を積極的に行っていく必要があります。

 

具体的には、ブランク期間の最新医療の勉強会やセミナー開催、短時間から復帰可能な勤務環境の整備、モデルロールの育成・実績づくりなどが挙げられます。

他には、家族のサポートも重要です。
臨床現場への復帰に対する家族の理解、子育て中の場合は、まず保育園など子供を預かってくれる環境を整えたり、保育園の近くの職場を選ぶなど、個人的な工夫も必要です。

「2025年問題」へ向けて

実は、コロナ禍以前から、団塊の世代全員が75歳以上となるいわゆる「2025年問題」があり、看護師不足に陥ることは問題となっていました。

想定される需要に対して看護職員は188~202万人必要になるとされています(4)。就業者数は年間約3万人のペースで増加しているものの、2025年には6~27万人の不足が見込まれています。

そこで看護師不足による、医療サービスの質の低下が懸念されています。

以前から、患者あたりの看護師の数が増えるほど、患者死亡率は低下し、入院期間も短くなることが示されています(5)。厚生労働省の資料では、「病床あたりの看護師数が多いほど、患者の安全性が高い」という結果もあります。

看護師が多ければ、患者ひとりひとりに目が行き届くようになるため、質の高いサービスを提供できるとともに、医療ミスの減少にもつながります。逆に、看護師数が不足することは、医療の質の低下や医療ミスの増加のリスクを意味します。

現在、日本は100床当たりの看護職員数は各国の平均値よりも半分という非常に低い値となっています(6)。

そして、少子化の影響で新人看護師育成が間に合わず、慢性的な人材不足が深刻な中で、潜在看護師を求めている病院が多くあります。中には、人材不足によって、病棟の一部を閉鎖する病院なども出てきています。
医療サービスの低下だけでなく、病院の運営にも関わってきているのが現状です。

まとめ

潜在看護師は、個人のキャリアデザインだけではなく、高齢化社会や少子化といった社会問題にもアプローチできる重要な存在です。

潜在看護師がコロナ禍で注目される存在となり、離職・復帰対策の工夫は今後も必要です。

潜在看護師が復職することにより、現場の看護師不足が少しでも解消され、これからの安心・安全な医療現場においても期待されています。

おわりに

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出典

(1)厚生労働省「ワクチン接種に係る人材確保の現状について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000767637.pdf

(2)厚生労働省「2014年看護職員の現状と推移」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072895.pdf

(3)公益社団法人日本看護学会「ナースセンターとは」
https://www.nurse.or.jp/nursing/nc/gaiyo/

(4)厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ.2019」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07927.html

(5)TA Lang, et al. Nurse–Patient Ratios: A Systematic Review on the Effects of Nurse Staffing on Patient, Nurse Employee, and Hospital Outcomes. J Nurs Adm. 2004;34(7-8):326-37.

(6)厚生労働省「第11回看護職員需給分科会 資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07019.html

 

 

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    執筆者について

    三好 彩
    三好 彩
    香川県出身、大阪府在住のライター。大学はバイオサイエンスを専攻。 人材派遣営業、金融系・試薬系コールセンター、商社・医療機器会社事務経験。 将来のキャリアに不安を感じたのと、婦人系の体調不良と自律神経の不調を患ったことをきっかけに、セールスライティングを学びライターの道へ。 美容と健康は密接な関りがあるとの考えに興味を持ち、日本化粧品検定協会コスメコンシェルジュ取得。過去には日本アロマ協会アロマテラピー検定1級取得。 現在、コスメライターにも幅を広げたいと薬機法、SEOライティングについても勉強中。
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