2022年4月より、リフィル処方箋の制度が始まりました。この制度により医療費の削減や医師の負担軽減に繋がると考えられており、海外ではかなり以前から始まっています。特にリフィル処方箋の制度が古くからあるのはアメリカで、70年以上の歴史があります。
2021年の日本国内での調査では、リフィル処方箋を利用したいと考える患者さんは約55%おり、半数超えの結果でした(1)。リフィル処方箋の制度が始まった日、朝の情報番組では早速リフィル処方箋が取り上げられており、身近なものになっていくのを感じました。
本稿ではリフィル処方箋のメリットと課題についてご紹介してきます。
リフィル処方箋を知る
リフィル処方箋は「繰り返し使える処方箋」であり、症状が安定している患者さんに対して、医師の判断で発行します。様々なメリットがある一方で、課題も想定されています。
リフィル処方箋とは?
リフィルは英語でrefillと書きます。reには「再度」、fillには「調剤する」などの意味があり、refillで「再度調剤する」となります。
リフィル処方箋は、医師が決めた回数を使うことができ、現状では「最大で3回」となっています。
患者さんから見て、1回目は医師の診察を受けた後に薬を受け取るので今までの流れと大きな違いはありませんが、2回目、3回目は、医師の診察は不要で、薬局薬剤師による体調確認のみで、薬を受け取れるようになります(2)。
リフィル処方箋導入の背景
リフィル処方箋についての検討が表に出てきたのは10年以上前で、厚生労働省のチーム医療推進についての報告書(2010年3月)が初めになります。
医学部や歯学部と同じ「6年間の教育」を受けた薬剤師が登場すること、そして、その薬剤師の活躍を期待して、リフィル処方箋の導入が提言されました(3)。
その後も、薬剤師の対人業務の推進を目的として「骨太の方針2014」(経済財政運営と改革の基本方針2014)にリフィル処方箋が盛り込まれるなど(4)、度々検討されましたが、導入に至ることはありませんでした。そのため「骨太の方針2021」にリフィル処方箋のことが記載されていても(5)、導入に至ると予想した人は少なかったようで、医療系のニュースには「導入は意外だった」「予想外だった」という反応が相次いで掲載されました。
コロナ禍における通院回数の減少、医療費の削減、高齢化社会における労働人口の減少、医師の働き方改革など、多くのことがリフィル処方箋導入の後押しになりました。
海外におけるリフィル処方箋
リフィル処方箋の制度はイギリス、フランス、アメリカ、オーストラリア、カナダなどで導入されており、ドイツや韓国では導入されていません。
アメリカの場合、州によって制度の違いがありますが、例えばカリフォルニア州では有効期限が2年間のリフィル処方箋が出されることがあります。リフィル処方箋で処方ができない薬が一部ありますが、対象となる患者さんには規制がありません。
それに対し、フランス、オーストラリア、カナダでは主に慢性疾患の患者さんが対象で、医療機関で有効期限が6ヵ月~1年程のリフィル処方箋を発行してもらい、2~3ヶ月毎に薬局で薬を受け取ります(1)。
処方できない医薬品
日本でスタートしたリフィル処方箋の場合、処方日数に制限がある薬を処方することができません。具体的には向精神薬や麻薬、新医薬品(薬価収載から1年間を経過していないもの)、湿布薬が該当します。例えば慢性疾患の薬はリフィル処方箋で出しつつ、湿布薬は通常の処方箋で出す、という方法は可能です(2)。
リフィル処方箋の様式
以下は、2022年2月9日に出された診療報酬改定案の「個別改定項目について」に掲載されたリフィル処方箋の様式です。
リフィル処方箋にする場合は、リフィル可のチェックボックスにレ点を入れ、総使用回数(2回または3回)を記載します。リフィル処方箋にしない場合は空欄のままにします(2)。
リフィル処方箋のメリットと課題
リフィル処方箋の制度は海外では導入されて長く、制度として根付いています。しかし、日本とは保険制度や文化の違いがあり、メリットや課題を同じに捉えることはできません。これから制度が始まる日本では、以下のことが考えられます。
患者さんにとって
患者さんにとって大きなメリットとなるのは移動が少なくなることです。コロナ禍がいつまで続くか分からない現状の中、バスや電車に乗る機会を減らすことができます。また、自宅から遠方にある医療機関に通院している場合、移動にかかる時間やお金も節約することができます。
現在は医療機関の近くの調剤薬局で薬を受け取る患者さんが多いのが現状ですが、リフィル処方箋の場合は「自宅や職場の近くの調剤薬局で薬を受け取る」と回答した患者さんが約55%いたというアンケート結果があり(1)、薬の受け取りにおいても移動が最小限で済みます。
患者さんにとっての心配事となるのは、診察の機会が減ることです。リフィル処方箋の対象となるのは医師が「症状が安定している」と判断した患者さんであり、実際には心配は要らないのですが、医師に診てもらうことで得られていた安心感が得にくくなります。
医師にとって
医師にとっては一人一人の患者さんと向き合う時間を確保できることがメリットになります。高齢化が進み、医師一人に対しての患者さんの人数が増えると、患者さん一人一人に割ける診察時間は短くなります。診察時間が短いことは患者さんの不満に繋がります。症状の安定している患者さんをリフィル処方箋にすることで、時間の有効利用ができます。
一方で、信頼できる調剤薬局があって、そこで患者さんの対応をお願いしたいと思っても、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」により、患者さんが行く調剤薬局を指定できないことが懸念材料になると考えます。患者さんが自宅や職場の近くの調剤薬局で薬を受け取る場合は、ますます面識のない薬局薬剤師が対応することになります。ただ、処方箋の備考欄に「2回目、3回目の調剤をした時に、服薬情報提供書をお願いします」とコメントをしておくと、調剤をした薬局薬剤師が患者さんの状態も含めて知らせてくれます。
薬局薬剤師にとって
薬局薬剤師にとっては患者さんと向き合う場面が増えます。2回目、3回目の調剤をしても大丈夫かという薬学的判断をすることは、薬局薬剤師としてのやりがいの向上や、世の中に仕事を知ってもらう機会にもなります。
一方で、調剤の可否を判断することはこれまでになかった仕事であり、プレッシャーに感じる場面もあると考えます。
まとめ
2022年4月13日に開催された財務省の分科会では、リフィル処方箋について、患者さんの通院負担軽減や医師の業務負担軽減、診療時間確保などのメリットが改めて示されました(6)。
また、同日開催された内閣府の経済財政諮問会議では、岸田総理大臣がリフィル処方箋の使用促進に言及する場面がありました(7)。
リフィル処方箋の制度は始まったばかりで、これから見えてくる課題もあると考えますが、国としてリフィル処方箋の普及に動くことは間違いないと思われます。
リフィル処方箋が根付くまでには期間がかかるかもしれませんが、うまく制度を活用することで、患者さんにも、医師にも、薬剤師にも、より良い未来がもたらされるのではないかと考えています。
おわりに
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出典
(1)中央社会保険医療協議会 総会(第503回) 資料(個別事項 その8)
(2)2022年2月9日 中医協資料「個別改訂項目について」(処方箋様式の見直し)
(3)チーム医療の推進に関する検討会 報告書(2010年3月19日、厚生労働省)
(4)経済財政運営と改革の基本方針2014(骨太の方針2014)
(5)経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針2021)
(6)財政制度分科会(令和4年4月13日開催)資料「社会保障」
(7)第4回 経済財政諮問会議 議事要旨(令和4年4月13日開催)