春一番が吹いたと思えば年度が変わり、真新しいスーツを着た新入職員が配属される時期となります。この時期一番大変なのは、部署移動などで学びなおしが必要であったり、新人に対して教育をしなくてはならないことが上げられると思います。
そこで本稿では、医療従事者として忙しく勤務する皆さんにオススメの勉強方法について、紹介します。
医療従事者が考えるオススメの勉強方法とは
自己学習編
1日中働いたあとに勉強するのは一苦労です。疲れた頭で勉強を行うと、すぐ眠くなってしまい効率が悪くなってしまいます。この章では、少しでも勉強の効率が高まるような方法をご紹介します。
医学書を読む
原始的ですが、やはり文章、しかも紙媒体を読む行為はとても重要です。現代のインターネット検索では、無料でかつ有用な情報が簡単に手に入ります。しかし、以下の2つの研究から「電子書籍では記憶に残りにくい」という可能性が読み取れます。
VDT versus paper-based text: reply to Mayes, Sims and Koonce (1)
この研究では、電子物を読む情報は、印刷物を読むより時間が掛かり、かつ精度が低い傾向が示唆されています。
Reading linear texts on paper versus computer screen: Effects on reading comprehension (2)
こちらの論文では、印刷物でテキストを読む学生は、デジタルで読む学生よりも読解力テストで有意に良いスコアを示していました。
どちらの論文においても、「紙媒体で勉強する方が身につく」という結果となっています。10数年も前に、当時の先輩から「給料の1割分くらいは勉強するために本を買いなさい」と教わってきましたが、理に適っていたのかもしれません。
これから、電子媒体がますます普及していくと思います。生まれた時からインターネットに慣れ親しんでいるデジタルネイティブ世代の方や電子書籍を愛用されている方には、あてはまらないかもしれません。自分に合った媒体を選択しましょう。
読解力をつける
2つ目の学習効率をあげる鍵は「読解力」です。読解力とは、複雑で長い文章の中から筆者の最も言いたいことをつかみ、「要するに何?」ということを読みとる力のことを言います。
学習・教育アドバイザーの伊藤敏雄氏によれば
そもそも読解力が低い人は、読みに関する記憶力が弱く、本を読んでも書いてある内容が全く頭に入ってこない「リーディングスパン」という現象が起きやすいといいます。
この現象を穴の開いたバケツに例えると、水(=情報)を入れた際、穴が多くあるバケツは水が残らず、逆に穴が少ないバケツは水が溜まるような状態です。
このリーディングスパンの「穴」をふさぐには、「主語と述語を正しく読みとること」が大切だといいます(3)。
正しく読みとれた後に、さらに読解力を高めるために大切なのは「書き残す」ことと、「誰かに話す」ことです。
(1)書き残す
ある論文によれば、読解力の向上のためには、以下の4つの力を意識して「読んだ内容をまとめて書く訓練を行うこと」が大切だとされています(4)。
- 文の構造を正しく理解する力(主語−述語の関係性など)
- 代名詞が何を指しているかを理解する力
- 知らなかった言葉の意味と使い方を理解する力
- 論理的に推論する力
医療従事者は、論文やレポートなどの『型』にはめ込んで書く作業をよく行っていると思いますが、机に向かって勉強する時は、形式を大事にするよりも、覚えたい知識を書き込むという作業を大切にすることも大事かと思います。
(2)誰かに話す
覚えた知識を定着させる方法として、人に話すことをオススメします。教育デザインラボ代表理事、教育評論家の石田勝紀氏は、在籍していた東京大学の学生達と話していた際に感じた共通点として、
「彼らはよくしゃべるために「繰り返し効果」が働き、また相手にしっかり聞いてもらおうと、感情を込めて話すことでさらに記憶が強化されるのです」 (5)
と述べています。
英会話の勉強法を例にあげると、文法や単語を書いているだけでは覚えられない内容も、声に出してみることで理解と記憶の植え付けが出来るようになります。
資格取得編
医療業界は、国家試験に合格して働いている方が多くいますが、その先を目指すためにも資格取得を目標にすることは、自分のモチベーションを維持するためにも有用です。ここからは、資格取得を目指す上での勉強方法について紹介します。
理解と暗記の違いを知る
資格取得したいと思っている試験形式が、空所補充型テスト(穴埋め)か記述式テストか事前情報がある場合には有用です。東京大学大学院教育学研究科の村山氏によると、
授業後に繰り返し空所補充型テストを課された群(空所補充群)では、浅い処理の学習方略使用が、記述式テストを課された群(記述群)では深い処理の学習方略使用がそれぞれ促進されたといいます(6)。
浅い処理の方略とは「暗記」を目的とした単純な反復などを指し、逆に深い処理の方略とは「理解」を目的とした学習内容の関連や既有知識との結びつきを意識したものを言います。
ですから、自分が受講するテストの形式によって、勉強する方略を変えないといけません。
例えば記述式問題に対しては、学習時に暗記などの浅い処理の方略を使用してもあまり有効ではなく、空所補充問題では短期的に見た場合に、浅い処理の方略もそれなりの有効性があるということです。
ただし、医療従事者の勉強は、最終的に臨床に反映することがゴールですので、資格取得のために「暗記」した知識を、臨床で応用できるように「理解」まで掘り下げていくことも重要です。
勉強会の参加や自分達で勉強会をつくる
所属している学会や研究会・セミナーに参加することで、同じ領域で学んでいる方達と意見交換をしたり、各専門分野の認定資格を受けたりできるようになります。これらの資格取得は自らのモチベーションを向上させる効果もあるでしょう。
資格取得には、問題解決力を高めたり、粘り強く目標を達成するための工夫、あるいは、価値観や考えが違う人と話し合ったり、教え合う環境作りが必要であると言われています(7)。
資格取得という目標を達成するために、自分だけが頑張ることに意識が向いてしまいがちです。しかし、資格試験は、入学試験などと異なり競争ではありませんので、同じ資格取得を目指している同僚や友人と、話し合ったり、教え合うことで、自分自身の知識の整理になったり、自分の理解の間違いに気付かされたりするものです。同僚や友人と、このような勉強会を行うことで、より一層問題解決力の向上につながります。
勉強会をつくるという行為は、なかなかハードルが高いように感じるかもしれません。しかし、3人も集まれば立派な勉強会です。職場の同僚・学生時代の仲間同士で始めてみて、気心の知れた仲間と勉強のモチベーションを高め合えると良いでしょう。
実践編
最後は、「一生懸命やっているはずなのに、何故か覚えられない、勉強しても業務に活かせない」という方にオススメの勉強方法です。
メモを取る
業務を教わっている中で、重要と思う箇所のメモを取ることは基本中の基本です。メモなしでは記憶に残ることはありませんし、後で復習することもできません。
自分でできるようになりたいことや、自分が必要だと思うことをメモするようにしましょう(8)。
自分が必要とする知識や、あとで調べられるようにするためなど、メモを取る目的をはっきりとさせておくことも重要です。
また、書いたメモを用いて復習をしなくては、ただの無意味な紙となってしまうので注意が必要です。エビングハウスの忘却曲線でも知られる通り、毎朝見る手帳などにメモを貼り、何回も思い出すためのツールとしても活用すると、より効果的でしょう。
尊敬する医師、先輩からアドバイスをもらう
経験者が語る言葉には重みがあります。自分の人生は一度きりしかありませんが、他者が経験したことを教えてもらえれば、その経験も自分に活かせるかもしれません。
(1)ただ聞くだけでなく、自分の意見を伝える
よくありがちな事ですが、教えてもらうだけでは成長出来ません。自分の考えをしっかりまとめておき、
「Aのように考えているのですがいかがでしょうか?」
「B案とC案を考えていたのですが、この場合はどちらがいいとお考えでしょうか?」
など、自分なりの考えや意見に対して回答をもらうようにしましょう。
(2)相手のアドバイスを一旦は素直に受け入れる
アドバイザーは、科学的な知見や、経験的な知見、さまざまな角度でアドバイスをくれると思います。自分の意と反するときでも、まずは深呼吸して相手の言葉を一から聞いてみましょう。おのずと自分の考えが整理できるうえ、相手の意見を素直に受け入れやすくなると思います。大切なのは、「聞き入れること」ではなく「受け入れること」である点です。
(3)最終的な結果を報告する
アドバイスがもらえたなら、その後自分がどうしたのかを報告することも大切です。相手のアドバイスがいかに役に立ったかを伝えれば、その後も何か聞いた時に、答えたくなる気持ちが増すはずです。きっとまた良いアドバイスがもらえるでしょう。
まとめ
このページでは、勉強効率を高めるための方法や、日常から学べる機会を育むための重要なポイントについて、お伝えしました。
医療を担う方が知識不足では、満足した医療を提供することはできないでしょう。このページで得られた勉強方法という手札が『自己成長の種』となることを願っています。
おわりに
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参考文献
(1):VDT versus paper-based text: reply to Mayes, Sims and Koonce
International Journal of Industrial Ergonomics Volume 31, Issue 6, June 2003, Pages 411-423: J.M.Noyes,K.J.Garland
(2):AnneMangen,Bente R.Walgermo,Kolbjørn, Reading linear texts on paper versus computer screen: Effects on reading comprehension. International Journal of Educational Research, 2013: 58; 61-8
(3):All About 国語読解力をつけるには 文章の要約練習がおすすめ
(4):読解力は「書く」ことで向上するか Can Writing Improve Reading Skills? 昭和薬科大学紀要 2021: 55; 15-22
(5):記憶力がいい子は「3つの技術」を使っている | ぐんぐん伸びる子は何が違うのか? | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
(6):村山 航 (2003a). テスト形式が学習方略に与える影響 教育心理学研究, 51, 1-12. (Murayama, K. (2003a). Test format and learning strategy use. Japanese Journal of Educational Psychology, 51, 1-12.)
(7):ヘルスカウンセリング学会公認資格取得向上の要因 有資格者と無資格者の問題解決力の物事への対処の傾向の比較から
ヘルスカウンセリング学会年報 (1880-4543)13巻 Page105-109(2007.09)
(8):効率の良いメモのとり方(「メモを取る能力」は受験勉強において非常に重要な能力です。メモの目的、何をメモするべきか、どこにメモをするべきか、メモの工夫の仕方について解説しています) | 大学受験の王道 (daigaku-juken.net)
(9):アドバイスの正しいもらい方:ちきりんの“社会派”で行こう!(1/3 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン