地域包括ケアは、急速な高齢化が進む日本の未来を支える地域づくりのための考え方です。団塊の世代のすべてが75歳以上となる2025年を目処に、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
地域包括ケアシステムにおいて医療・介護従事者の果たすべき役割は大きく、今まで以上にさまざまな機関や人々との連携が求められています。関係者と協力して地域の特性に合わせた仕組みづくりをするために、地域包括ケアシステムがどんなものか理解することが大切です。
この記事では、地域包括ケアシステムの基本的な考え方や具体的な取組事例、医療・介護分野における役割と課題について解説します。
超高齢化社会がもたらす2025年問題とは?
2025年問題とは、団塊の世代約800万人が75歳以上の後期高齢者となることで起こるさまざまな問題のことです。厚生労働省によると、2025年には65歳以上の人口が約3500万人に達 し、全人口の21%を65歳以上の高齢者が占める超高齢化社会が到来すると予測されています。国民の3人に1人が高齢者、5人に1人が後期高齢者となる時代です(1)。
一方で、少子化には歯止めがかかっておらず、高齢者を支える現役世代は減り続けています。
大量の後期高齢者を減少する現役世代で支えるために、医療・介護・年金といった社会保障が限界に達し、社会全体に負の影響を与えることが懸念されています。
出典:今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~ (厚生労働省)
2025年問題が社会に与える影響
では、2025年問題は社会に具体的にどのような影響を与えるのでしょうか。社会保障費の負担増加
高齢者が増え続けている日本では、高齢者を支えるために使う社会保障費が増加の一途をたどっています。特に、75歳以上の後期高齢者は他の世代よりも必要な医療費や介護費用が多いため、近年は社会保障費がハイペースで増加しています。
財務省のデータによると、年金を含めた社会保障費は2022年には131.1兆円(予算ベース)でした。2000年が78.4兆円だったことを考えると、急激に増えていることがわかります。
さらに、2025年には社会保障費が140兆円を超えると見込まれており、特に医療・介護分野の支出増加は顕著です。医療費は2018年に比べて1.2倍、介護費用は1.4倍になると予測されています(2)。
出典:社会保障について① (参考資料)2020年10月8日(財務省)
要介護者の増加
75歳以上の後期高齢者には、介護を必要とする人が多く、厚生労働省の調査によれば、実に23.3%の人が要介護の認定を受けています。
また、認知症患者数の増加も深刻です。2025年には65歳以上の認知症患者数は約700万人にまで増加し、高齢者の約5人に1人が認知症になると推測されています(3)。
図 65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病率の将来推計
出典: 平成28年版高齢社会白書(概要版)(内閣府)
近年は介護する側も高齢者となるいわゆる「老老介護」のケースも相当数存在しています。介護を行う家族の肉体的・金銭的な負担は大きくなる一方です。
労働人口の減少による人材不足
高齢者の増加と、それを支える現役世代の減少により、あらゆる分野で労働力が不足することも懸念されています。医療・介護分野も例外ではありません。
2018年度は6580万人だった医療福祉分野の就業者数は、2025年度には6453万人に減少すると予測されています。一方で、支援が必要な高齢者は増加しているため、医療・介護従事者の一人あたりの負担が増えることは避けられません(4)。
出典:2040年を見据えた社会保障の 将来見通しについて(厚生労働省)
特に、介護業界は重労働や低賃金、労働環境の問題から離職者が多く、大都市を中心に慢性的な人手不足が続いています。
2025年度には約243万人の介護職員を確保する必要があると推計されていますが、2021年度の介護職員数は214.9万人です。必要数と実際の職員数が大きく乖離していることがわかります。2025年度の要介護認定者は688万人と見込まれているため、介護職員一人あたり3人以上の要介護者をケアしなければなりません。
医療体制の逼迫
病気を抱えた高齢者が増えれば、医療施設と医療従事者の必要数も増加します。しかし、人材や施設を確保するための社会保障費が不足すれば、医師は少ない費用でより大勢の患者を診察しなければなりません。
病院の運営は利用者の自己負担だけではなく、国民の税金によって支えられています。税金額の減少により病院の経営が圧迫されれば、公立病院の減少が起こり、医療の質や量を維持することは困難になるでしょう。
特に近年、新型コロナウイルスの影響で病院や医療従事者への負担は大きくなっています。このまま医療体制が逼迫した状態のまま2025年を迎えると、医療の崩壊を招きかねません。
2025年問題に対する対策
では、ここまでに挙げた2025年問題がもたらすさまざまな課題に対して、2010年代当時から現在まで、どのような対策がとられているか見ていきましょう。
社会保障費の見直し
厚生労働省は2025年問題だけではなく、その先の2035年問題や2040年問題、その先も視野に入れて、社会保障のあり方の検討、給付と負担の見直しを行っています。
たとえば、一定の所得がある後期高齢者の窓口負担割合が2022年10月1日より2割負担となりました。また、現役世代の保険料負担の上昇を抑えるべく、診療報酬の見直しや薬価改定なども行われています(5)。
厚生労働省は、給付と負担のバランスを適正にすべく、今後もさらなる改革を推進するとしています。
健康寿命を伸ばす施策の推進
高齢者がより長く、医療や介護を必要とせずに元気に過ごせる環境を作る取り組みも行われています。
【健康寿命を伸ばす施策】
- 健康づくりの生活習慣の推進
- 病気の重症化予防を重視した医療プログラムの策定
- 介護予防やフレイル対策
フレイルについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
食とリハビリ 人生100年時代のフレイル予防のための栄養と運動
医療・介護分野の人材支援
医療や介護が必要な高齢者の増加に備えるためにも、医療従事者・介護従事者の増員は急務です。
人材支援として、国や自治体は介護未経験者を対象にした入門的な研修を実施し、介護職への参入を促進しています。また、認証評価制度の導入により、従業員の質向上と労働環境・待遇の改善を目指しています(6)。
2022年10月には、新型コロナ医療対応等を行う医療機関の看護職員や介護・障害福祉職員、保育士等について、収入を3%以上引き上げるための措置が実施されました。賃金の引き上げによる就労者の増加が期待されています。
また、ICTやロボットの活用も進んでいます。介護現場の生産性向上のため、介護ロボットの開発・普及支援が行われています。さらに、ICTを活用した業務効率化による職員の負担軽減策も拡充中です。病院や介護施設との情報共有も図られており、双方の連携強化が期待されています。
高齢者の雇用促進
現役世代が減少する超高齢化社会において人材不足を補い、活力のある社会を維持するために、健康な高齢者に就労を促すことも対策の一つです。そのために、高齢者の雇用機会を増やすための支援が行われています。
たとえば、企業に対して70歳までに定年年齢を引き上げることを求めています。また、45歳以上70歳未満の従業員を解雇する際、本人の希望があれば、再就職の援助に必要な措置を実施することも求めています。さらに、事業者への高齢者雇用促進制度として、高年齢者雇用に関する助成金制度を設けています(7)。
国は企業に対して、助成金や就労サービスを利用して、積極的に高齢者の雇用や職域を確保するとともに、高齢者も働きやすい職場環境をつくることを求めています。
地域包括ケアシステムの構築
自治体が中心となって取り組んでいる地域包括ケアシステムは、2025年問題への対策の一つであり、日本の未来を支えるシステムとして期待されています。
地域包括ケアとは「医療や介護が必要な状態になっても、住み慣れた地域で人生の終わりまで自分らしい暮らしができるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する」という考え方です。
医療機関や介護施設は、地域包括ケアシステムへの積極的な参加が求められています。
地域包括ケアシステムについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
日本の未来を支える地域包括ケアとは?医療・介護分野の取組事例と課題
まとめ
今回は、地域包括ケアの概要や具体的な取り組み事例、医療・介護分野の役割や課題について解説しました。
高齢化が進む中で、医療や介護のニーズは拡大する一方、サービスの担い手不足が懸念されています。地域包括ケアシステムは、医療や介護の専門家だけに負担を強いるのではなく、行政やNPO法人、地域住民自身も協力する仕組みです。実現までにはまだまだ課題もありますが、日本の未来を支えるシステムとなるでしょう。
おわりに
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出典
(1)今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~ (厚生労働省)
(2)社会保障について① (参考資料)2020年10月8日(財務省)
(4)2040年を見据えた社会保障の 将来見通しについて(厚生労働省)
(6)人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度について(厚生労働省)
(7)高年齢者の雇用(厚生労働省)