未来の医療と介護を考えるIT×医療・介護マガジン

お問い合わせ

少子高齢社会で医療機関が取り組むべき人材マネジメントとは?|Epigno HR ExpoレポートVol.2

執筆者:Epigno Journal 編集部

≫ epigno journalの更新情報をメルマガで受信する

 

少子高齢化が進む中、病院経営においても人材マネジメントは大きな経営課題になっています。これからの時代において、人材をどのようにマネジメントしていくべきか悩みは尽きません。

 

エピグノでは、働くことにやりがいを感じてもらって組織を活性化することで、経営を健全化するために医療機関が取り組むべき「人材マネジメント」の重要性を考える目的で「Epigno HR EXPO」を開催しました。

医療業界における有識者の方々から、様々な角度で人材マネジメントの重要性や具体的な事例についてお話いただきました。その概要を3回に渡ってお伝えします。

 

第2弾の今回は4つの講演のうち後半、

  • 株式会社DTG代表取締役CEO、おうちの診療所医師・岩本修一先生
  • ハイズ株式会社代表、慶應義塾大学大学院特任教授・裴英洙(はい・えいしゅ)先生

のお二人による講演の概要をお伝えします。

岩本修一先生〜病院の人材マネジメントでデジタルを活用する〜

DX化によって組織・人事の問題解決の生産性が向上

岩本先生からはまず、病院の人材マネジメントにおけるDXやデジタル活用法についてお話がありました。

DXとは「Digital Transformation」の略であり、デジタル革命、デジタル変革といった意味で使われています。DXには「デジタルやデータを活用して、業務フローを変えて手間を減らす」という効率化の観点と「デジタルやデータを活用して、問題の発見をしやすくし、問題解決をより早くする」という改善サイクルのスピードを上げる観点があります。今回は後者の問題解決における生産性向上の話です。

病院経営では「辞めたいと悩んでいる」「同僚の仲が悪くなった」「他部署との連携ができない」など、組織や人事の問題が日々発生しています。その問題を早期に発見・解決して、組織を運営することが経営陣の仕事です。従来の組織では、問題の発見や解決は特定の個人によって行われてきました。しかし、この方法では問題毎に対応するため、多大な時間や労力がかかります。また、解決策も特定の問題だけに沿ったものになりやすいため、問題解決の手間に比べて効果が見合わないと判断されることも多いです。

このような問題を解決する方法が、DXを進めることです。あらかじめ収集されたデータから問題の前兆を拾い上げるため、追加の調査なしに素早く問題の解決法を見出すことができるようになります。たとえば、ビジネスチャットでは日々のチャットが蓄積されるため、チャットの件数によって「最近コミュニケーションが減っている」といった変化を見ることができます。また、チャットのログを見て「あの時どういう話をしていたか?」を確認することも容易です。

image5-2

共通言語や共通認識をつくり「担当者まかせ」を解決

他の例として、在宅診療所の看護師の新人教育の事例の紹介もありました。

その診療所では、マニュアルや育成プログラムを整えて教育係をつける、いわゆるOJT方式を採用していましたが、うまくいきませんでした。新人の教育が教育係の看護師まかせになっていたことや、新人に対して「何ができるようになればいいのか?」という明確な基準がなかったことが主な原因でした。

そこで、看護師のスキルを業務毎に5項目・5段階で表すことにしました。毎週、新人の看護師のそれぞれのスキルがどの段階にあるか、評価する仕組みを整えたのです。さらに、新人看護師の教育状況がどの段階にあるのかデジタルで見えるようにして、そのデータをもとにミーティングを行うことにしました。この仕組みを導入したことで、看護師の教育を教育担当者だけに任せるのではなく、他の看護師やマネジャーも関わることができるようになりました。評価基準が明確になり、共通言語や共通認識ができたことで改善もしやすくなりました。

image1-Jul-06-2023-07-55-51-8709-AM 
image3-Jul-06-2023-07-55-51-9706-AM

組織や人事の課題は、今日のExpoのテーマである「なんとなく人事」と「担当者まかせ」の2つがあります。「なんとなく人事」は基準の明確化やデータを元にした評価によって、「担当者まかせ」はチーム体制や共通言語・共通認識をつくることによって解決できます。

最も伝えたいことは、実際にDX、デジタル化を進めるにあたっては、軸や目的を決めたうえで現場で運用できるようにすることが大事であることです。経営者と管理者、現場の職員が納得できる三方良しの全体設計ができれば、職員や求職者に選ばれる病院となれるでしょう。

image8-1

裴英洙先生〜病院経営層として今後重要なマネジメントの視点とは〜

人材マネジメントが今まで以上に大事になる理由

裴(はい)先生からは、最初に医療政策の大きな転換点についてお話がありました。

現在、地域医療構想や医師偏在対策、医療職の働き方改革の三位一体の改革が同時進行で行われています。病院経営者にとっては、これまでとは比べ物にならないほど、先が読みにくい時代が訪れています。今までの前例主義や延長線上の対策では対処できない課題が増えている、と感じている方も増えています。

そもそも、医療は「人」が中心の労働集約型ビジネスです。医療職が患者に、つまり人が人に対して価値を提供することが基本原則ですし、人件費率が5割を超えています。さらに、医療職、特に医師は非常に個性的な方が多く、若い世代は労働や人生、仕事に対する価値観が多種多様になっています。人材のマネジメントが今まで以上に大事になることは間違いありません。

一方で、田中先生のお話のとおり、高齢者の増加によって医療や介護のニーズは増える一方です。医療職を一生懸命に育成したところで、なかなか供給が需要に追いついていないのが実状です。だからこそ「限られたリソースを使って、どのように最大限の価値を提供していくか?」が病院経営者や介護施設経営者の腕の見せどころになります。

病院経営の概況を見てみると、一般病院では赤字の病院が約7割に達しており、患者の平均在院日数はどんどん短くなっていることがわかります。高齢の患者が増えているため、1人の患者にかける労力も増加傾向です。病院経営の財務的な体質が厳しい中で現場の回転率が上がり、非常に忙しくなっているといえます。

スクリーンショット 2023-07-06 18.30.41  
image7-1

病院組織が持つ人材マネジメントの難易度を上げる特性

続いて医療というサービスが持つ、6つの特質についてのお話がありました。

  1. 無形性
  2. 生産・消費同時性
  3. 結果・家庭の等価的重要性
  4. 顧客との共同生産
  5. 情報の非対称性
  6. 結果の不確実性

このような特質を持つ医療はある意味非常に特殊なサービスであり、人材が重要な役割を果たします。また、高信頼性組織(HRO)であることが、病院組織の特徴です。つまり、失敗は許されず、常に緊張を伴う状況下で成果を出す必要があります。

それを踏まえたうえで、病院はさらに2つの特性を持っています。1つ目は「顧客にユニークネスがある」ことです。患者は百人百様であり、個人差や個体差が大きいため、現場の即興的な対応が必須となります。2つ目は「従業員の専門集団性」です。病院内では、医師集団や看護師集団、薬剤師集団等、専門職それぞれ独自の専門集団が形成されています。それぞれの文化や行動規範の対立が、人材マネジメントを難しくしています。働き方改革が叫ばれていても、医師は非常に忙しく、心身を病んでいる方が多いというデータもあります。

スクリーンショット 2023-07-06 18.31.01

医療機関で今求められる人的資源管理

今回のイベントの大きなテーマの1つである「医療機関における人材を人的資源価値として考える」ことについてもお話がありました。今までは労務管理という考え方でしたが、これからは「人的資源管理=Human Resource Management」という考え方にシフトしていきます。人をリソース、つまり投資する対象としてマネジメントするということです。人材は成長して発揮する価値を変化させ、組織発展の資源となるものです。

人材マネジメントには3つのモデルがあります。1つ目は「伝統モデル」です。仕事への給与は辛いものへの対価である、という考え方です。管理職は人を厳しく管理監督しなくてはいけないことに重きを置かれており、今はかなり少なくなっています。

2つ目は「人間関係モデル」です。人は自分が有用で重要だと感じたいものだから、承認欲求を満たすことが大事、という考え方です。管理職は「あなたは有用でチームに必要な存在だ」と自己効力感を感じさせてあげることが大事になります。

3つ目は今求められている「人的資源モデル」です。目標に対して貢献するために、部下が自ら自己管理をしていくという考え方です。管理職は部下に裁量権を与えて、成長を促すという視点が必要になっています。

image4-4

医療機関・介護施設の価値提供の基本資源である職員の獲得と、職員が長く働きがいを持って働けるような環境整備がますます重要になってきます。病院経営者は「人が減って危機だ」とよく言いますが、「危機」という字をよく見ると、2つの言葉がセットになっています。左の危は危険の危ですが、右の機は機会の機です。つまり、ピンチの後にチャンスあり、です。ピンチの中に人材がさらに伸びるチャンスを見出すのが名経営者です。

「医は仁術」と言われる時代が長く続いてきました。これからは仁術に加えて「人術」も必要になります。人を活かす術がこれからの病院経営や病院づくり、組織づくりには今まで以上に重要になるとのお話がありました。

まとめ

今回は「Epigno HR EXPO」前半の講演パートから、株式会社DTG代表取締役CEO、おうちの診療所医師・岩本修一先生の講演「病院の人材マネジメントでデジタルを活用する」と、ハイズ株式会社代表、慶應義塾大学大学院特任教授・裴英洙(はい・えいしゅ)先生の講演「病院経営層として今後重要なマネジメントの視点とは」の概要をお届けしました。
次回は、イベント後半のパネルディスカッションの様子をお伝えします。

おわりに

Epigno Journal では、これからの医療を支えるTipsを紹介しています。また、メールマガジンにて最新記事のお届けをしています。右記フォームより、お気軽にご登録ください。

目次

    執筆者について

    Epigno Journal 編集部
    Epigno Journal 編集部
    株式会社エピグノは「全ては未来の患者と家族のために」をミッションに掲げ,医療機関向けマネジメントシステムを提供している企業です.
    toepigno-1