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DXに伴う電子手帳お薬手帳の現状と課題について

執筆者:鈴木絢乃 薬剤師セールスコピーライター

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今回はお薬手帳について解説していきます。
今までは紙のお薬手帳が主流でしたが、スマートフォンの普及と災害を機に、電子お薬手帳が誕生しました。
医療業界でもDXを推進していく動きがあります。
DXに伴う電子手帳の現状と課題についても説明していきます。

お薬手帳について

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お薬手帳とは

お薬手帳とは、患者さんが服用している薬品名・用法用量・処方日数などを記録できる手帳のことです。
調剤日、調剤薬局名、処方せん発行医療機関名も確認することが可能、副作用歴、アレルギーの有無、既往歴、体調の変化なども記入できます。
そのため、患者さんが病院を受診した際に、お薬手帳を持参する事により、現在の服用歴を医師が把握することが可能であり、また薬剤師も相互作用や重複投与、禁忌投与薬がないか確認することができます。

お薬手帳の歴史

お薬手帳は1993年(平成5年)、日本国内の患者さん15人が別々の病院から抗ウイルス剤と抗癌剤の処方を受け、併用して死亡した事件、「ソリブジン事件」をきっかけに導入されました。
その2年後の1995年(平成7年)、「阪神・淡路大震災」の際にお薬手帳の記録から、服用歴や既往歴が分かり、災害時の際に役に立つと認識され、普及するきっかけになりました。
さらに、2011年(平成23年)の「東日本大地震」の際にもお薬手帳の必要性が再認識され、電子お薬手帳が誕生しました。

電子お薬手帳について

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今までは紙のお薬手帳が主流でしたが、電子お薬手帳も時代とともに誕生しました。
電子お薬手帳は、今までの紙のお薬手帳と同様に活用できますが、保管方法が紙からスマートフォンのアプリになります。
電子お薬手帳の特徴として、以下の4つが挙げられます。

  • スマートフォンでアプリを登録することにより、携帯性が高く、受診時や来局時にも忘れにくい。
  • 情報をクラウド保管するため、災害時にも利用することや長期にわたる服用歴の管理が可能。
  • アプリケーション独自の服薬管理機能(服薬予定・状況の記録・アラート機能)、運動の記録、歩数や血圧などの健康管理機能が備わっている。
  • 処方せんの事前送信機能もある。

 

なぜ電子お薬手帳を普及させる必要があるのか?

これまでの紙のお薬手帳では、複数の医療機関受診歴や服用歴などがバラバラの情報で管理されてきました。

今後電子お薬手帳の活用が広がり、さらに電子処方せんシステムとの連携が進めば、患者さんの服薬状況の全体(処方薬および一般医薬品)を把握することができます。そうしてすべての医療機関の処方情報を一元化できれば、多剤・重複投与や相互作用の問題を回避することができます。

このような総合的なヘルスケアプラットフォームを構築していくために、電子お薬手帳の普及は必須となるのです。

一方で、このことを実現するためには電子お薬手帳に関して、以下の方策も立てていく必要があります。

  • 電子お薬手帳を使用する以前の過去の服用歴も、電子お薬手帳内で一覧できるようにすること。
  • いずれの電子お薬手帳でも、全国の医療機関ならびに医療関係者が対応できるようにすること。
  • 今後、PHRのようなネットワーク上の情報の一部を患者さんが手帳として携行することも想定し、データフォーマットの統一化を行う。

現在使用されている主な電子お薬手帳

現在使用されている電子お薬手帳のうち、特に利用者が多いものは以下の3つです。

  • eお薬手帳

    日本薬剤師会がサービス・サポート提供しているアプリです()。

  • EPARKお薬手帳

    利用者数約300万人の全国の薬局で使用できるアプリです()。

  • お薬手帳プラス

    利用者数100万人の日本調剤がサービス・サポート提供しているアプリです()。

国のDXの方針

平成27年に厚生労働省が発表した「患者のための薬局ビジョン」の中に、「対物業務から対人業務へ」シフトすると挙げられています。
対人業務へと移行するためには、薬剤師の業務内容の一部をデジタル化し、対物業務の時間を削減する工夫も必要です。その点、電子お薬手帳は、患者さんの健康づくりに向けたPHR(生涯型電子カルテ)・コミニュケーションツールとしての活用が推進されています。今後、紙のお薬手帳から電子お薬手帳へ移行し、情報の一元管理が進むと、副作用歴の確認や併用薬なども見落としが少なくなり、よりきめ細かいサポートが可能になるでしょう。

現在の電子お薬手帳の現状と課題

今までは紙のお薬手帳で管理していたのを、スマートフォンの普及に伴い、電子お薬手帳のアプリでまとめて管理することが可能になりました。
現在は、薬局から発行されるQRコードを読み取るまたは手入力で登録することにより、薬局では患者さんの服薬状況を把握することが可能です。
しかし現状では、電子お薬手帳の場合、多くの種類のアプリが存在するため、医療機関はスマートフォンの画面を見せてもらいながら服用薬を確認する、ワンタイムコードを発行するなど、運用に煩わしさがあります。

この煩わしさを解消するために日本薬剤師会が提供する「e薬Link(イークスリンク)」という電子お薬手帳相互閲覧サービスがあります()。異なる電子お薬手帳アプリの内容を相互に閲覧することを可能にする仕組みで、この仕組みに対応しているアプリと薬局であれば、患者さんの同意のもと、電子お薬手帳のデータを閲覧することが可能です。
しかし、現状ではまだ全ての電子お薬手帳のアプリが対応しているわけではないため、共通のフォーマットを作成するなどを、国主導で整理していく必要があります。

まとめ

今回はお薬手帳とDXに伴う電子お薬手帳の現状と課題について解説しました。

今までは紙のお薬手帳が主流でしたが、スマートフォンの普及と災害を機に、電子お薬手帳が登場しました。
紙のお薬手帳は、患者さんの服用歴や副作用歴、アレルギー歴を確認する手段として使用していましたが、電子お薬手帳になり、患者さんの服用歴の確認はもちろん、アプリケーション独自に様々な機能が追加され、便利な機能として期待されています。

今後は医療業界もDXを推進していく必要があり、患者さんの健康づくりに向けたPHR(生涯型電子カルテ)・コミニュケーションツールとして電子お薬手帳の活用が推進されています。
現在の電子お薬手帳は多くの種類のアプリがあるため、運用の際に煩わしさもありますが、今後共通のフォーマットを作成するなどし、医療情報の確認等の仕組みも構築されると、電子お薬手帳のニーズもより高まっていくのではないかと期待されます。

おわりに

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出典

(1)薬局薬剤師DXの推進について 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000910847.pdf

(2)患者のための薬局ビジョン概要 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/gaiyou_8.pdf

(3)eお薬手帳

https://www.nichiyaku.or.jp/e-okusuri/

(4)EPARKお薬手帳

https://okusuritecho.epark.jp/renew/

(5)日本調剤 電子お薬手帳

https://portal.okusuriplus.com

(6)e薬Link 日本薬剤師会

https://www.nichiyaku.or.jp/e_kusulink/index.html

 

目次

    執筆者について

    鈴木絢乃
    鈴木絢乃
    千葉県在住の薬剤師セールスコピーライター。 6年制課程薬学部を卒業後、ドラッグストアの調剤薬局にて勤務。その後調剤薬局に転職後、現在はドラッグストアの調剤薬局の管理薬剤師として勤務。結婚を機に、ワーク・ライフ・バランスを考えるようになり、セールスコピーライターの道へ。 今夏には出産予定。「どんな状況でも自立した女性」をモットーに薬剤師兼ライターとして活動中。
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