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「保健医療2035」に向けた3つのビジョンを実現するためのアクションは?

執筆者:髙橋 茜 フリーライター

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日本の保険医療を取り巻く環境の課題を解決し、すべての人が安心して活躍しつづけられるような保険医療システムを実現するために、2015年に厚生労働省が発表した「保健医療2035提言書」。

 

本稿では、その内容を読み解き、実現するためのアクションを整理したうえで、必要な対策などについて考えていきます。

 

第一回は、保健医療2035提言書の基本理念と、2035年に向けた3つのビジョンを説明しました。第二回の今回は、3つのビジョン、「リーン・ヘルスケア」「ライフ・デザイン」「グローバル・ヘルス・リーダー」を実現するためのアクションについて具体例とともに説明していきます()。

リーン・ヘルスケアについて

リーン・ヘルスケアは、医療業界において安全性や品質の向上、効率性の向上などをもたらし、患者中心の医療サービスを提供することにより、患者が求める医療サービスの実現や医療の質の向上を図ることが狙いとなります。

ただし、医療現場は人間の命を扱うものであるため、リーン・ヘルスケアの実践には慎重さが求められます。

リーン・ヘルスケアのビジョンを実現するためには以下のような具体的なアクションが考えられます。

より良い医療を安く享受できる

(1)医療提供者の技術や医療用品の効能を評価し、診療報酬点数に反映させる

医療技術や保健アウトカムなどの評価を継続的に主導できる部門「保健医療補佐官(Chief Medical Officer)」を創設するなど、治療の効果や安全性、費用対効果などを客観的に評価し、その評価結果を診療報酬に反映します。

(2)医療提供者の自律的努力を積極的に支援する

専門医制度と連携した症例データベースであるNational Clinical Database(NCD)を普及させ、ベンチマーキングによる治療成績を改善します()。

(3)医療機関や治療法の患者による選択と実現を支援する体制を強化する

医療情報のオープン化や分かりやすい情報提供は、患者が医療機関や治療法を選択する際に十分な情報とサポートを得ることができ、自身の意思に基づいた医療選択が実現されます。

地域主体の保健医療に再編する

(1)かかりつけ医の「ゲートオープナー」機能を確立し、保健医療のガバナンスを強化する

高齢化等に伴い、多様な問題を抱える患者が増加し、医療技術が複雑化する中、患者の状態や価値観などをふまえて適切な医療を円滑に受けられるようサポートする「ゲートオープナー」機能を確立することは、かかりつけ医から全人的な医療サービスを受けることが可能となり、適切な医療機関の選択に繋がります()。

地域の保健医療ニーズに基づいて医療資源を再配置し、地域の特性や課題に合わせた保健医療体制を構築します。

(2)地域のデータとニーズに応じて保健・医療・介護サービスを確保する

高齢者人口の増加に対応するため、在宅医療や訪問診療の充実を図ることだけでなく、2050年には全国の居住地域の約半数で人口が半減、うち2割が無居住化することに備えて遠隔医療のためのICT基盤や教育システムを整備します()。

これらのアクションを通じて、患者中心の医療サービスの実現や患者満足度の向上が期待され、より良い医療をより安く享受できる社会の実現が目指されています。

ライフ・デザインについて


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ライフ・デザインには、多様な価値観やライフスタイルを尊重することが大切であり、社会全体でその実現を目指すことが求められています。

ライフ・デザインのビジョンを実現するためには以下のような具体的なアクションが考えられます。

自らが受けるサービスを主体的に選択できる

(1)自ら最適な医療の選択に参加・協働する

2035年には死者が毎年160万人を上回る時代であるため、患者の意思決定をサポートするための情報を提供します。 終末期について意思能力があるうちに患者が自身の価値観や優先事項に基づいた医療やケアを選択できるquality of deathの取り組みにも繋がります。

(2)自ら意識的に健康管理するための行動を支援する

国民自ら健康を育むことの支援には、電子健康記録(e-HR)に介護サービス情報を含めることやOTC薬を活用したセルフメディケーションなどがあり、患者自らの健康やライフスタイルに合わせたサービスを主体的に選択し、個別のニーズに応じたカスタマイズされた医療を享受することができます()。

(3)人々が健康になれる社会環境をつくり、健康なライフスタイルを支える

高齢者単独世帯の増加や社会的孤立の拡大に対応するための「自然に健康になれる」コミュニティと社会づくりや、疾病・死亡リスクの減少のための「たばこフリー」社会の実現は、人々が健康な環境で生活し、自らの健康を意識的に管理できるような社会に繋がります。

これらのアクションを通じて、個々の人々が健康で充実した生活を送り、医療や健康に関する選択や意思決定をできる社会の実現が目指されています。

世界の保健医療を牽引するグローバル・ヘルス・リーダーへ

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グローバル・ヘルス・リーダーには、国際的な医療支援や協力、グローバルな健康課題への取り組み、イノベーションと技術の推進を通じて、世界の保健医療において指導的な役割を果たすことが求められます。

グローバル・ヘルス・リーダーのビジョンを実現するためには以下のような具体的なアクションが考えられます。

(1)健康危機管理体制を確立する

公衆衛生の司令塔としての機能を持つ健康危機管理・疾病対策センター(Center for Health Protection and Promotion)(仮称)を創設することは、人類の脅威となる感染症が発生した際に、最も早く対処方法を世界に発信し、発生国における封じ込め支援をリードするための健康危機管理体制の確立に繋がります。

また、国際的な保健医療組織やパートナーシップとの連携を深め、人材交流や研究・開発の協力、保健医療リソースの共有などを行うことで、国際的な健康危機管理においてリーダーシップを発揮することができます。

(1)日本がグローバルなルールメイキングを主導する

我が国が誇る保健医療システム、医療サービスの普及などを含めた、国際保健外交を通じて、高齢化対応の地域づくり、生活習慣病や認知症対策などの分野で世界に貢献し、世界一の健康長寿国家としての地位を国際的に確立します。

G7等の機会を積極的に活用し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジをはじめ保健医療分野でのアジェンダ設定を主導するためのサミットを開催することや、グローバル・ヘルス・リーダーを育成することは、国際的な保健医療政策の立案に積極的に参画することに繋がります。

(1)保健医療のグローバル展開を推進する

ボーダーレス化の時代を迎えるにあたって、医療関係職種が諸外国でも活動できるよう教育課程や資格の調和を図り、医療の国際展開を図るため医薬品・医療機器承認制度(レギュラトリー・サイエンスなど)のシステム構築を支援し、地域包括ケアシステムの輸出などを目指します。

これらのアクションを通じて、国際機関などによるグローバル・ヘルス・ガバナンスの構築への貢献が行われます。保健医療の政策立案やデータ共有と分析、国際協力とパートナーシップの強化によって、グローバルな保健医療ガバナンスの発展と持続可能な健康社会の実現が目指されています。

まとめ

今回は、ビジョンを実現するためのアクションについて具体的事例とともに整理しました。ターゲットである2035年まで10年以上ありますが、各アクションは医療や健康に関するより良い社会の実現に繋がっています。本稿を機に、さらに詳しく内容を把握したいと思っていただけましたら、厚生労働書から出されている資料等もぜひご覧いただければと思います。

おわりに

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出典

(1)厚生労働省「保健医療2035提言書」 

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000088647.pdf

 

(2)内閣府「令和4年版高齢社会白書」

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/04pdf_index.html

 

(3)総務省「マイナンバー制度」

https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/01.html

 

(4)厚生労働省「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158223_00002.html

 

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    執筆者について

    髙橋 茜
    髙橋 茜
    東京都在住のフリーライター。商業高校卒業後、自動車業界にて経理・総務・システム開発など多岐分野の業務を経験。会計・ITに興味を持ち、連結会計ソフトウェアの開発・導入・コンサル・アウトソーシングを手掛ける企業へ転職し、15社以上の企業を担当する。難病である持病の悪化をきっかけに退職した後、ワーホリなどを活用し1年かけて20か国以上を旅する。帰国後RPA開発も携わるが、現在は、財務経理業務を続けながらライターとして執筆活動中。
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