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医療安全推進と看護師の働き方改革は車の両輪 ~リーガルナース友納理緒~ 【後編】

執筆者:高山 真由子 看護師・保健師/看護ジャーナリスト

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看護師等の資格・経験を活かし、医療現場以外で活躍する看護職が増えています。友納理緒さんは、看護師・保健師に加えて弁護士の資格を取得し、10年間医療現場の医療安全対策や医療事故解決等について活躍されています。また、日本看護協会の参与としても活動され、医療従事者向けに医療安全研修等を行っています。医療現場の外から医療現場を支える「リーガルナース」として看護職の明るい未来を守る友納さんに、前編では看護師の道へ進まれた原点から、弁護士になった経緯や問題意識を持っていらっしゃる医療現場の課題点、国政にチャレンジすることを決意させた原動力について、お話を伺いました。今回、後編では医療安全推進のために必要な法整備や院内のハラスメント対策で重要なことについてなど、伺っています。

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo) 

医療安全推進のために必要な法整備とたちはだかる壁

安全安心な医療を提供するためには医療安全の推進が欠かせません。そのためには看護師の働き方改革も並行して進めることが必要と考えます。現在、看護師の働き方を取り巻く多くの課題がありますが、これらの解決に向けてどのような法整備が必要でしょうか?

看護師の働き方改革については、疲労がたまる働き方、夜勤や交代制勤務の問題があります。労働基準法を含めた現在の労働法制は十分とは言えません。看護師のような特殊な働き方をしている職業については、それに合った法規制をする等の検討が必要だと考えています。

具体的な1つの案として「看護師の人材確保に関する法律」の基本方針改定に着目しています。この法律が平成4年(1992年)に制定されて以降、法律の制度の変化はあるものの、基本指針そのものは1度も改定されていません。そこには働き方の基準が書き込まれていますが、最近の働き方とマッチしていない内容ですので、今の働き方に沿う形に刷新することで現場が変わっていくことが期待できます。

平成4年は14校だった看護大学の数が、平成5年以降28年間で274校までに増えた(図1)背景には、この法律の基本方針に「看護の大学・大学院の整備充実」の項目が入ったことがあります。この経験から、基本指針に書き込まれることの意義は大きいと考えており、この改定が喫緊の課題だと捉えています。

図1:看護大学数の推移

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看護師等の人材確保の促進に関する法律の基本指針(抜粋)

医療安全を推進するためにさまざまな活動をされてきましたが、最大の困難は何でしょうか?

医療安全を推進する際の最大の困難は、医療事故が起こる背景にコミュニケーション、労働環境、人員不足など複数の要因が複合的に絡み合っていることです(図2)。
1つの問題を解決するだけでは根本を解決できませんし、ではどこに力を入れれば解決するのかと考えると対策が1つではないので困難だと感じています。

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図2:医療事故が起こる要因

さまざまなフィールドで活躍する看護師・看護管理者1人1人にできることは何がありますか?

今できることとして、ぜひ皆さんの声をあげていただきたいと思います。それは道のりが遠いことかもしれませんが、現場を変えるために社会に広く声をあげることも看護師・看護管理者の役割として大きいのではないかと感じています。

例えば、訪問看護の現場で利用者さんの自宅に看護師1人で行くことについて、さまざまなトラブルが発生していますが、そのことがどれだけ社会に伝わっているでしょうか。看護師が声をあげ、相手の家に1人で訪問することは危険だという認知が社会に広がれば、複数での訪問を推奨するなど何かしらの対策が進んでいくかもしれません。

とはいえ、皆さんが忙しく働いている上にさらに発信を求めることがどれだけ大変かは十分理解しています。皆さんの声を私が聴き、代わりに発信することが、これからの私の役目かもしれないと考えています。未来の看護を考えていくためには、現場の皆さんからの声が絶対に必要なのです。

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院内のハラスメント対策で重視すべきは相談窓口担当者の育成

パワハラ防止法改正により、各医療機関におけるハラスメント対策がより重要さを増しています。

2022年4月、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の改正によって、パワーハラスメントに対する社会の認識は高まりました。今後、風通しのいい職場環境を目指す上で、管理者と相談者の双方にとって非常に重要なことは、ハラスメント相談窓口の担当者の教育です。相談窓口での最初の対応が的確でなければ、明らかなハラスメント事例が見逃されてしまうことにつながり、被害者の苦しみが解消されません。この重要性は弁護士としての経験上、痛感していることでもあります。

しかし、相談窓口担当者がハラスメントについて正しく理解できているかというと、必ずしもそうとはいえない現状があります。厚生労働省のパンフレットを見て概要は理解しているかもしれませんが、研修を受けて具体的にどのような事例がパワーハラスメントに該当するのかを理解したり、「これはハラスメントの可能性がある」「このケースは急いで対応しなければ」と判断できる知識を持っている必要があると感じています。

相談窓口担当者となる人はどのような部署・役割から選出するのがよいでしょうか?

人事や総務に所属するスタッフが兼務しているケースがありますが、必ずしもそのような部署である必要はありません。ある病院では、長年看護助手として勤務した女性を窓口担当者に配置したところ、話しやすくまた判断も的確で効果があったと聞きました。院内に担当者を置く場合、大きい医療機関であれば、誰もが相談しやすいようにスタッフレベル・部長レベルなど複数の役職の方がいることが理想です。

また、どのような立場の人が担当するにせよ、共通している条件は「コミュニケーション能力がある人」。人の話をしっかり聴く力を持っていることが大前提です。小さな医療機関など院内配置が難しい場合は、外部相談窓口を設置するなどの工夫をしながらハラスメント対策を充実させていくことが大切です。

パワーハラスメントはまず客観的な判断(平均的な労働者がどう感じるか)が重視されます。セクシャルハラスメントが主観を重視されるため同じようにとらえられがちですが、明確な違いがあるのでしっかり認識した上で日々のマネジメントにあたっていただきたいと思います。

日々奮闘を続ける看護管理者の皆さんに友納さんからのエールをお願いいたします。

これまで弁護士として、また、リーガルナースの活動を通してたくさんの看護管理者の方たちと関わってきました。通常の看護管理業務に加え、医療安全・ハラスメントなどやらなければならないことが多い中で、皆さん精一杯日々の業務をしています。看護管理者の力が職場に与える影響は大きく、そのマネジメント能力が組織運営のカギになるほど重要な役割を担っていると言えます。

そんなプレッシャーの中にあっても、ご自身の健康管理をはじめとした「自分を大切にすること」を重視していただき、その上でスタッフも大切にしていただきたいと思います。自己犠牲の上に成り立つ幸せではなく、管理者もスタッフもみんなが幸せになれる方法を一緒に探していきたいですね。

 

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2児の母として子育てにも全力を注ぐ友納さん

まとめ

2回にわたって看護師×弁護士としてキャリアを歩む友納理緒さんをご紹介しました。今後看護の代表として国政に立ち、看護師をめぐるさまざまな課題解決のために奔走してくれることを期待したいと思います。そして、私たち看護師・看護管理者は積極的に声をあげ、現場を変えるための追い風を吹かせていきましょう。

おわりに

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目次

    執筆者について

    高山 真由子
    高山 真由子
    看護師・保健師/看護ジャーナリスト 慶應義塾看護短期大学卒業後、看護ライターとして活動開始。病院勤務・海外留学を経て東海大学健康科学部看護学科に編入学。卒業後、看護ジャーナリズムの開拓する必要性を感じ早稲田大学大学院政治学研究科に進学しジャーナリズム修士取得。看護師・保健師として、病院・在宅・行政・学校・企業・教育機関・イベント救護などに従事した経験を持つ。医療系オウンドメディアの企画・制作・編集に携わり2023年1月独立。メディアの立場から看護の発展を目指す。 https://fori.io/mayuko-takayama
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