採用は医療機関の未来を形作るために重要なプロセスです。しかし、その実践は容易ではありません。この記事では、デジタルの力を借りて、採用の課題を解決するアプローチ「採用DX」についてご紹介します。
採用DXとは何か?
「採用活動にデジタルを導入することで、採用活動の問題点を発見しやすく、再現性を高める方法論」のことをここでは「採用DX」と呼ぶことにします。
生産年齢人口の減少や働き方改革を背景に、採用は、大多数の医療機関にとって最重要課題の一つであり、組織の継続と発展に直接関係しています。自院が求める人材を定め、その人材を採用できるように採用オペレーションを設計・運用していくことは、今後、医療機関でも主流になっていくだろうと予想します。
採用活動の2つの側面
採用活動とは「採用という成果につなげるための活動」を指します。例えば、求人公開、採用広報、書類審査、面接審査などがあります。
また、採用活動は大きく2つに分けられます。採用オペレーションと採用ブランディングの2つです。
採用オペレーションとは「採用業務の順番や方法」のことであり、「求人から応募、選考、内定、入職までの各工程での業務とその流れ全体」を指します。
最近では、入職後に職場や業務に慣れるまでのことを「オンボーディング」と呼び、これも採用オペレーションの一部と捉える考え方が広がっています(医療機関のオンボーディングに関する記事はこちら)。これは、採用のゴール設定が「採用すること」でなく、「職場に慣れて、力を発揮してもらうこと」にシフトしてきているからです。
採用ブランディングとは「候補者に自院を認知・想起・信頼してもらうための活動」です。わかりやすい例としては、採用サイトの構築・運用がそれにあたります。
採用オペレーションの「求人」をより効果的に実践するには、誰にどのようなメッセージを届けるのかという具体的なイメージをもつことが必要です。また、その届ける相手に「応募」してもらい、「選考」を受けてもらうための仕掛けも必要でしょう。採用ブランディングはこれらの部分を担います。
採用活動の難しさとは?
みなさんは採用活動のどこに難しさを感じていますでしょうか?
これまでいろんな医療機関の採用に関わってきて、以下のような悩みや課題を聞きました。
- 人手が足りなくなったから採用活動を開始したが、応募が集まらない
- 自院は立地的な面や、給与待遇面で他院より劣っているため、人が集まりにくい
- 自院には対外的に打ち出すアピールポイントがない
- 採用サイトや人材紹介会社を多数利用しているが、応募も見学もほとんどこない
- 面接の評価基準があいまいなため、採用された人の能力に差がある
- 候補者が増えるほどに、面接官の採用面接の負担が増える
- 内定を出したが、断られてしまうことが続いている
- 苦労して採用しても、仕事やチームに合わずすぐに辞めてしまう
これらの課題は、採用DXを導入すれば手を打つことができるようになります。
採用で再現性を高める方法
採用で再現性を高める方法を考えるにあたり、「医療」の考え方が参考になります。
医療では、患者さんがよくなるために治療をおこないます。つまり、「患者アウトカム」につなげるために「治療」をおこなっているわけです。しかし、いきなり「治療」を始めているわけではありません。症状経過や検査結果などの「データ」をみて「診断」し、それに合わせた「治療」を実施しています。また、治療後にもデータをみて評価し、次の治療につなげています。
この「データをみて調整する」サイクルによって、医療は再現性を高めています。
採用においても、同様のサイクルを持てば再現性を高めていくことができます。「データ」をみて「判断」し、それを基に「採用活動」をおこなうことで「採用」というアウトカム(成果)につなげていくという考え方です。
採用DXは、採用に関する様々なデータの集め方と、その使い方(=どのように判断に活用するか、改善のためにどのように利用するか)を設計・運用し、採用の再現性を高めるための手法とも言えます。
理想とする使い方を実践するためには、まず、必要なデータを収集・蓄積する必要があります。このデータを後からすべて手入力でExcelにまとめ直すのは実用的ではありません。デジタルツールを導入して、日常業務の中にデジタルで入力する作業を組み込んで、データが日常的に貯まっていく形を設計していくことが必要です。
医療機関の採用で使えるデジタルツールには以下のようなものがあります。
採用DXのメリット
採用DXを導入することによるメリットには大きく以下の3点があります。
1)採用活動における問題を発見しやすくなる
2)採用活動の再現性が高まる
3)採用責任者の負担を下げる
まず、採用関係者の感覚的な違和感に、データという客観的な情報が加わることで、問題が発見しやすくなります。応募者数の変化、合格率の変化などのデータを可視化することで採用オペレーションや採用ブランディングの中で自院の抱える改善ポイントが見えてきます。
2つ目は、データという根拠のある情報を用いた判断が可能となることにより、採用活動の標準化や改善がおこないやすくなり、再現性が上がります。採用活動の再現性が上がれば、採用の成果を得る可能性を高めることができます。さらに、オンボーディングに関するデータも取り入れることが出来れば、「定着して、自院で活躍する人材を採用する」確率を向上することも可能です。
3つ目は、採用責任者の負担を下げることができます。現在、多くの医療機関では、採用責任者および採用担当者が候補者リストをみながら採用可否の判断をしていると思います。ある程度の共通認識に基づいて判断をされていると思いますが、ときに「なぜあの人を採用したのか」「採用した人が入職後すぐに辞めてしまう」といったことが起こり、当時の判断について責任を感じてしまうこともあるでしょう。これは、採用責任者・担当者の「主観的な判断」による割合が大きいために起こっていると考えます。データと採用基準によって一定割合で客観性を持たせられれば、その負担を下げることができます。
採用DX実践のポイント
DXという言葉を使うと、デジタルツールを導入さえすればうまくいくと捉える方がいますが、現実には導入だけで改善する部分は半分以下です。
DXで最大限の効果を発揮するには、業務全体の設計と運用を含めて変えていく必要があります。 採用DXにおいては、実践上の2つのポイントがあります。
1つ目のポイントは、採用要件の定義から始めることです。 採用要件とは「その職種・ポジションにおいて求められる条件」のことです。採用要件を明確にして、それに基づいて、採用活動を設計しましょう。
採用要件を設定することで、どのような能力やマインドを有している必要があるか、それらを採用時にどのように評価すればいいかなどを明確にして、関係者で共通認識をもつことができます。
2つ目のポイントは、採用活動の進捗管理を徹底することです。
採用活動は、求人公開から面接、内定、入社まで多くの工程があり、各工程によって関わる人も異なるのが通常です。どの工程でどのような状況にあるのか、どの候補者と誰が面接をおこなったのか、どの候補者に内定を出したのかなど、ファクトを確実に保存し、進捗を管理することで、自院の手落ちによって大事な候補者を逃すことを回避できます。
実際に、採用活動を適切に進捗管理すると、採用活動上の重要な抜け漏れや、採用時に評価すべき能力を実際には確認すらしていなかった事実にいくつも気づきます。
まとめ
今回は採用DXについて実践的に解説しました。初めて採用DXにとりかかる際は、「採用要件の簡単なリスト作成」や「簡単な進捗管理表の導入」などから始めてみるのはいかがでしょうか?
いきなり全部やるというより、まずは一歩踏み出してみることが大切です。そこから、徐々に実践を深めていくことで、自院の採用をよりよい形に進めていくことができるでしょう。
※以下の本や資料などを参考にしています。
1)青田努(2019)『採用に強い会社は何をしているか ~52の事例から読み解く採用の原理原則』ダイヤモンド社
私の採用の師匠である青田努さんの本です。採用のバイブル本。
2)採用を体系的に学ぶ会 https://castaspell.jp/
私もここで採用の基本を学びました。オススメです。
※本記事は、倉敷中央病院医事企画課係長 犬飼貴壮さんと名古屋市客員起業家 木野瀬友人さんにアドバイスを得て執筆しております。
おわりに
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