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なぜ辞めてしまうのか?看護師の離職率が高い5つの理由とその解決策

今年は新型コロナウイルス感染症の影響により,医療現場ではかつてない状況に陥っています.それにより看護師の確保が難しく危機的状況に拍車をかけています.

しかし,看護師不足は今に始まったことではありません.過酷な労働条件や労働環境が原因となり,毎年10万人以上の看護師が現場を離れています.


厚生労働省の推計によると,2025年には6万~27万人の看護職が不足するといわれています[1].また,日本医療労働組合連合会「2017年看護職員の労働実態調査結果」によると,「仕事を辞めたいといつも思う」は20.9%,「ときどき思う」は54.0%と約75%の看護師が辞めたいと思いながら業務に従事しているようです[2].


社会的にも推進されている「働き方改革」.いつまでも働き続けられる職場環境を改革するため,ワーク・ライフ・バランスの取り組みがありますが,それらの取り組みは離職防止に繋がっているのでしょうか?

今回は看護師の離職原因や対策についてお伝えいたします.

看護師の退職理由5選

そもそも看護師が退職するきっかけにはどのようなものがあるのでしょうか?ここでは,離職の原因について考えていきたいと思います.

職場の人間関係

離職原因の一つに,人間関係が大きく関わっています.それは上司や部下との関係だったり,同僚との関係だったり理由は様々です.病院は組織であり,職場は集団の場です.人が集まればそれだけ関係性は複雑になってきます.

看護師間のイジメ・嫌がらせ

近年,職場内ハラスメントが増加傾向にあります.2017年看護職員の労働実態調査結果によると,セクハラ11.6%,パワハラは29.0%が受けたことがあると回答.なかでも看護部門の上司からパワハラを受けたことがあると回答した看護師は全体の約6割を占めています[2].深刻な事例も多くあり,ハラスメントは看護師の離職理由になっていると考えられています.例えば経験年数やキャリア,役職などを行使し,新人看護師,パート看護師など拒否できない立場にある存在に対して無理な指示や命令,無視や暴言,私的な部分に過度に立ち入るなど,苦痛を与える行為は少なくありません.パワハラは個人だけの問題ではなく,職場全体に影響を与えます.

看護師は激務

深刻なマンパワー不足や夜勤継続による慢性疲労は大きな課題となっています.さらにこうした激務が続く中,健康不安を抱えている看護師は増加傾向にあります.

看護師の過酷なシフト

病院に勤務する看護師は,必ず交代制で働いています.なおかつ24時間体制になるため,人手不足が大きな負担となっています.そのため,夜勤や交代制勤務(2交代・3交代)による長時間労働から慢性的疲労を起こし,ミスや重大な事故につながることが示唆されています.また,2008年に看護師2名の「過労死」が認定されました.「2008年時間外労働,夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」では,看護師の23人に1人が過労死の危険レベルに相当することが分かりました.慢性的な疲労を自覚している看護師は医療事故の不安を常に抱えていたそうです[3].このように過酷な勤務体制によって体調を崩し,生活にも影響が出てしまうことが離職せざるを得ない状況に追い込んでしまう原因の一つになっていると言えます.

夜勤ありきの働き方

看護師の働き方で特徴的なのは夜勤・交代制勤務です.女性が多い職業であるため,育児や介護などの家庭と仕事の両立の負担が離職の大きな原因となっています.そこで日本看護協会では,2013年「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」を公表.夜勤・ 交代制勤務の負担軽減の考え方と,「勤務間隔11時間以上」「夜勤回数は3 交代制で月8回以内」などの改善を現場に投げかけてきました[4].3交代制では「日勤→深夜勤」「準夜勤→日勤」というように短すぎる勤務間隔.一方,2交代制では「16時間以上勤務」という長い拘束時間が問題であったことから,数多くの病院で夜勤・交代制勤務の見直しがされました.なかでも夜勤専従は正職員,非常勤,期間限定といった幅広い勤務が可能となり多くの医療施設で導入されています.しかし,夜勤への負担が改善されたわけではありません.

また,夜勤継続による不十分な休息がから事故リスクを高めることが実証されています.[5].このように夜勤・交代制勤務については離職を高める大きな原因になっていると言えるでしょう.

休日に多い勉強会・研修

人材育成に欠かせない勉強会,研修,委員会などの活動では,役割によって業務が集中してしまう傾向にあります.そのうえ,これらの活動は通常業務と並行して実施されるため,休日出勤して資料作りに専念することも少なくありません.こうした過剰な負担は,過労やモチベーション低下を招く要因になりかねません.そのため,業務が過密になり過ぎることで看護業務に専念できないことが不満となり,離職のきっかけの一つとなっています.

残業は当たり前?

残業や始業前時間外労働が常態化し,なかには不払いや時間外手当とならない事例があります.2017年看護職員の労働実態調査結果によると,看護職員の約7割が不払い労働を行っていることが分かりました[2].残業しなければならない理由には,看護記録や資料作成,院内の勉強会,研修への参加,人手不足などがあるといいます.

結婚・出産を機に

看護師の約9割は女性です.そのため結婚,妊娠,出産,育児をきっかけに退職するというケースは少なくありません.なかでも「出産・育児」は退職理由に最も多く,次いで「結婚のため」と女性ならではのライフイベントが離職につながっています.退職後は育児が落ち着くと復職を考えます.しかし,ブランクの不安や生活環境の変化,家庭と仕事の両立といった様々な悩みを抱えており,資格を持ちながら働いていない/働けない看護師は国内に71万人以上といわれています.そのため復職支援も視野に入れながら検討していく必要があるでしょう[6].現在は短時間正職員制度による雇用形態があり,おもに育児休業後の職員を対象に取り入れられています.しかし,夜勤免除に対して他の職員から不満の声があがったり,時短勤務であるがために受け持ちができなかったりといった働きにくさがあります.

スキルアップ/キャリアアップ

離職理由はマイナスな要因ばかりではありません.関心のある領域について学んだり,様々な資格取得を目指したりすることを目的とした転職があります.自己実現に向けた個人のキャリアビジョンについて一緒に考え,目標を確認していくことが必要とされています.

トラウマ

生命に直結した責任ある業務の中で,予期せぬ患者の急変対応に大きな不安と混乱を招いています.容態の悪化や死に対して重たい責任感と後悔が残り,自責の念を抱くといいます.このことが心的外傷となり,離職のきっかけの一つになっていると言えるでしょう.

看護師に長く働き続けてもらうために看護管理者ができること

5つの離職理由を踏まえてどのように改善するべきなのか一緒に考えていきましょう.


なお,看護管理者の役割等の詳細は下記リンク先を参照してください.


🔗看護管理者ってどんな仕事?看護管理者の6つの能力と4つのレベル

関係の質を高めるための1on1ミーティングの実施

1on1ミーティングとは,定期的に実施される上司と部下の1対1面談をさします.この手法は信頼関係を作り,組織自体の雰囲気を良くする人材育成の手法として注目されています.通常面談との違いは「部下のための時間」です.業務の課題やプライベート,体調,メンタル,ワーク・ライフ・バランスなど幅広いテーマを話し合います.しかし,あくまでも本人がその問題の解決策を考えていくことが重要です.そして,その課題について一緒に検討していくことで,パフォーマンスが上がり,結果としてチームの活性化につながるといわれています[7].

公平な勤務体制と評価制度の構築

看護ニーズに24時間応える交代勤務は,夜勤を伴う不規則な勤務体制です.それにより看護師自身の生活そのものに影響を及ぼしています.最近では,残業時間削減と指示出しの効率化を図るため,熊本地域医療センターでは,日勤者と夜勤者が一目で分かるように制服の色分けを実施しました.日勤者と夜勤者の違いを示したことで,定時で仕事を終えるようになり,業務を引き継ぐ際の協力体制がより強化されました.その結果,離職率が1割未満となり,労働環境の改善につながったといいます[8].また,組織をよりよく運営していくためのマネジメントでは,目標管理や評価がカギとなります.しかし,シフト管理上,部下との関わりが希薄になりやすく,目標管理ができていても適正な評価事実を把握できないことがあります.

ダイバーシティ・マネジメント

国が推進している働き方改革の中で,ダイバーシティーマネジメントが話題となりました.ダイバーシティは「多様性」と直訳され,性別,国籍などを問わず多様な人材を積極的に受け入れること.そしてそれを組織経営に活かしていくことをダイバーシティマネジメントいいます.看護現場では,いつの時代もマンパワー不足であり,離職のきっかけとなる結婚,妊娠,出産,育児など,環境が変化しても働き続けられるよう様々な取り組みを進めています.従来の勤務形態を見直し,正職員でも働ける時間帯や曜日が選択できるなど,一人ひとりが満足できる働き方が求められています.なかでも日本看護協会では,「看護職の健康と安全が,患者の健康と安全を守る」という考えを打ち出し,ワーク・ライフ・バランスを推進しています.看護師が定着するためには,人員確保,キャリア支援,人材育成が必須ですが,何よりも看護師自身の健康を守り,個々の違いを認めることが大切です.それに伴いモチベーションがアップし,組織全体の向上につながり質の良い看護が提供できると言えます[9].

看護師にやりがいを感じてもらうための人材育成

人材育成は個々のスキルや能力を獲得し,自己の価値ややる気を高めていくことを目的としています.とくに新人看護職員の場合,基礎看護教育と臨床の場でのギャップによる早期離職や教育体制の格差が問題視され,その後のキャリア形成への影響が懸念されています.そのために卒後の教育が継続できるよう,プリセプターシップ,チューターシップ,メンターシップなどの組織体制を整えることが大切です.なかでも組織に欠かせない要素は働く意欲(モチベーション)です.個人の自己実現に向けた目標設定を行い,計画的に実行し評価する.そして次の行動計画に結び付けるサイクルを継続することが有効だといわれています.

組織体制と目標管理をうまく連動することで,個人,組織の利益につながるでしょう.

心的外傷を負った看護師の適切なケア

看護職員は,統計的にがんになりやすい人々を意味するハイリスクグループであるといわれています.その理由の1つとして,心的外傷にさらされる頻度が高い職種であるにもかかわらず,十分なメンタルヘルスケアがなされていないことが挙げられます.

心的外傷は心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post Traumatic Stress Disorder)につながることがあります.そのためにも早期発見,早期治療が大切です.定期的にストレスチェックや労働環境の把握,改善などに取り組む必要があります.日頃から看護職員とコミュニケーションを取り,勤務態度,言動などの変化にも注意していきましょう.

まとめ

近年,大学の看護学部や看護学校の新設が増加し,看護師の就業人数は毎年3~3.5万人増えています.資格取得者が増えている一方,離職率の変化はなく慢性的な看護師不足は解消されていません.そのためにも離職の要因を知り,解決策を打ち出していくことで,看護師の定着だけでなく病院全体の業務改善が期待できるでしょう.

おわりに

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出典

  1. 厚生労働省「第11回看護職員需給分科会 資料」,
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07019.html,2020/10/28 アクセス
  2.  日本医療労働組合連合会「2017年看護職員の労働実態調査結果」,http://irouren.or.jp/research/ceb76c47ff9c68138c8354a71e5d5583adcf9538.pdf,2020/10/28 アクセス
  3. 日本看護協会「2008年時間外労働,夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」,
    https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/jikan/pdf/03-03.pdf,2020/10/28 アクセス
  4. 日本看護協会「2013年看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン全体版」,
    https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/guideline/yakin_guideline.pdf,2020/10/28 アクセス
  5. 看護師の夜勤・交代制勤務に関するデータ,
    https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/jikan/pdf/shiryou-4.pdf,2020/10/28 アクセス
  6. 厚生労働省「2014年看護職員の現状と推移」,https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072895.pdf,2020/10/28 アクセス
  7. 1on1ミーティングによる看護管理者の育成,
    https://www.nissoken.com/jyohoshi/nm/zai/mihon_2005.pdf,2020/10/28 アクセス
  8. 独立行政法人 福祉医療機構 WAMNET,
    https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/fukushiiryounews/20200114_101900.html,2020/10/28 アクセス
  9. 日本看護協会「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック」,
    https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/kakuho/2016/wlb_guidebook.pdf,2020/10/28 アクセス

目次

    執筆者について

    中澤 真弥
    中澤 真弥
    看護師ライター.群馬県在住.フリーランスの看護師として働きながら,ライター,看護師ライター育成,大学,専門学校等で教員,講師など幅広く活動.また自らの経験を元に,看護師のワークライフバランスや働き方改革などについて発信中.著書『看護の現場ですぐに役立つ循環器看護のキホン』(秀和システム) ほか4冊.