高齢化などにより、医療への需要が高まっている一方で、病院等の医療機関は十分に医療従事者を確保できていない状況が続いています。皆様がお勤めの医療機関も人手不足に悩まされていないでしょうか?
実は医療機関だけでなく、中小企業を中心に多くの一般企業も人手不足に悩んでいます。そしてその対策として「ピープルアナリティクス」を活用する企業が増えています。
「人々」と「分析」を意味する英語が組み合わされた「ピープルアナリティクス」は、人事施策に関する意思決定を、データ分析を基に行う手法です。このデータに基づいて「効率化」・「意思決定精度の向上」・「従業員への価値提供の向上」させることが目的です。
今後、病院経営でも活用可能な「ピープルアナリティクス」について、Vol.1では基本的な内容とデータの種類について紹介しました。Vol.2では、ピープルアナリティクスの目的や活用方法、さらには最近のトレンドについて紹介していきます。
ピープルアナリティクスを行う目的とは?
Vol.1でもご説明しましたが、ピープルアナリティクスは、データ分析に基づいて人事施策の意思決定をすることで、「効率化」・「意思決定精度の向上」・「従業員への価値提供の向上」を達成することを目的としています。以下、経営者の視点でこれらの目的について詳しく説明します。
「効率化」については、たとえば新卒採用の最初の書類選考において、その組織が必要とする適性や、組織文化に合った性質を持った人物かどうかをデータを用いて分析することで、人が一枚ずつ目視で確認をして選抜するよりも、時間と労力を削減することができます。このように既存の業務をより効率的に行えるようにすることが、ピープルアナリティクスの目的の一つです。
「意思決定精度の向上」については、ピープルアナリティクスによりデータを分析することで、事実に基づいた正しい判断が出来る可能性を高めることを目的としています。これまでのように事業環境や労働環境が大きく変化しない時代であれば、蓄積された人間の勘や経験が有効かもしれませんが、現在はVUCA※の時代と言われるように、先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代となっています。そうした中では、従来の環境下で培ってきた「勘と経験」だけでは誤った判断をしてしまう可能性が高まります。だからこそ、ピープルアナリティクスによる「意思決定精度の向上」は組織運営にとって極めて重要です。
「従業員への価値提供の向上」は、近年「エンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience)」とも言われて注目を集めていますが、組織においてスタッフにより良い経験をしてもらうことで、モチベーションや従業員の生産性向上、ひいては組織の業績向上を図る考え方です。多様なスタッフがいるなかで、そのタイプごとに、どんな経験が「より良い経験」になるのかをデータを用いて分析することで、この目的を達成しやすくなります。
※VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)
ピープルアナリティクスの具体的な活用方法の紹介
企業のピープルアナリティクスへの取り組み状況やピープルアナリティクスを取り巻く環境は日々アップデートされています。ここからは、pwcによるサーベイ調査やみずほ情報総研のレポートを参考に、近年のピープルアナリティクスのトレンドを紹介したいと思います。
pwcはピープルアナリティクスにおける企業の取り組み状況等を2016年から継続的に調査することで、近年のピープルアナリティクスのトレンドを分析しています。なお、最新版の2022年の調査(速報)では、日本企業151社を調査対象としています。また、みずほ情報総研は2019年12月18日から24日に、国内企業の人事に所属する方を対象にインターネットアンケート形式で調査を行い、515件の回答を得ています。
①在職中のスタッフの属性を分析し、採用活動に活かす
在職中のスタッフの、年齢や性別、勤務年数、学歴、専門性、保有しているスキル・資格など人に関するデータを蓄積し、このデータと入社後のパフォーマンスや評価、退職者情報を照らし合わせることで、どのような属性を持つスタッフのパフォーマンスが高く、退職率が低いかなどの傾向が分かります。
上記分析を行うことで、「組織内で弱点となっているスキルを持つ人材を採用する」など、採用活動の方針を具体的に設定しやすくなります。また、選考過程において、入社後にハイパフォーマンス(高い成果や業績)を発揮し、かつ退職確率が低いと思われる人物を効率的に選抜することができます。
②配属先や教育の仕方
採用したスタッフの専門性やスキル・資格情報を性格検査データ(Vol.1で紹介したパーソナリティデータ)と組み合わせることで、既存のスタッフとの相性を把握できるので、配属先を決定する際の参考にすることができます。
また、新人スタッフの教育についても、そのスタッフが「自主的に学習できるタイプ」なのか「比較的フォローが必要なタイプ」なのかといったデータがあれば、各新人スタッフに合わせた指導がしやすくなります。
③退職リスクの軽減
過去の退職者のデータを分析することで、ある属性を持つスタッフを特定の部署に配属すると離職率が高まるといった傾向を把握することもできるため、離職防止の対策を講じやすくなります。
ピープルアナリティクスの具体的な活用方法の紹介
ここまでピープルアナリティクスを行う目的について説明しましたが、これらの目的を達成するために、実際にピープルアナリティクスがどのような場面で用いられているのか、具体例を以下で示します。
①在職中のスタッフの属性を分析し、採用活動に活かす
在職中のスタッフの、年齢や性別、勤務年数、学歴、専門性、保有しているスキル・資格など人に関するデータを蓄積し、このデータと入社後のパフォーマンスや評価、退職者情報を照らし合わせることで、どのような属性を持つスタッフのパフォーマンスが高く、退職率が低いかなどの傾向が分かります。
上記分析を行うことで、「組織内で弱点となっているスキルを持つ人材を採用する」など、採用活動の方針を具体的に設定しやすくなります。また、選考過程において、入社後にハイパフォーマンス(高い成果や業績)を発揮し、かつ退職確率が低いと思われる人物を効率的に選抜することができます。
②配属先や教育の仕方
採用したスタッフの専門性やスキル・資格情報を性格検査データ(Vol.1で紹介したパーソナリティデータ)と組み合わせることで、既存のスタッフとの相性を把握できるので、配属先を決定する際の参考にすることができます。
また、新人スタッフの教育についても、そのスタッフが「自主的に学習できるタイプ」なのか「比較的フォローが必要なタイプ」なのかといったデータがあれば、各新人スタッフに合わせた指導がしやすくなります。
③退職リスクの軽減
過去の退職者のデータを分析することで、ある属性を持つスタッフを特定の部署に配属すると離職率が高まるといった傾向を把握することもできるため、離職防止の対策を講じやすくなります。
ピープルアナリティクスの最近のトレンドは?
企業のピープルアナリティクスへの取り組み状況やピープルアナリティクスを取り巻く環境は日々アップデートされています。ここからは、pwcによるサーベイ調査やみずほ情報総研のレポートを参考に、近年のピープルアナリティクスのトレンドを紹介したいと思います。
pwcはピープルアナリティクスにおける企業の取り組み状況等を2016年から継続的に調査することで、近年のピープルアナリティクスのトレンドを分析しています。なお、最新版の2022年の調査(速報)では、日本企業151社を調査対象としています。また、みずほ情報総研は2019年12月18日から24日に、国内企業の人事に所属する方を対象にインターネットアンケート形式で調査を行い、515件の回答を得ています。
①ピープルアナリティクスの実施状況
ピープルアナリティクスの実施状況について、みずほ情報総研によると、既に実施している企業、ピープルアナリティクスの実施を検討している企業、興味を持っている企業を合わせると、既に約半数を占める状況となっています。それらの企業のピープルアナリティクスの活用先は人事・経営戦略の立案や、採用活動などが中心です。企業に限らず、病院などの医療機関でも人材データを活用・分析していて当たり前という時代がもうすぐ来るかもしれません。
②人材データの分析ツールの活用動向
pwcによるサーベイ調査によると、現在活用している人材データの分析ツールとしては、普段使い慣れている表計算ソフト・データベースソフト(例:エクセル)を70%が挙げており、活用度が依然高いです。一方、将来活用したい人材データの分析ツールとしては、「BIツール ※」が37 %で筆頭、続いて「人事基幹システムに付随しているツール」が35%と活用の意向が高まっています。分析対象が複雑化・多様化する傾向にあり、それに対応すべく、表計算ソフト・データベースソフト以外のツールの活用度が高まっているものと考えられます。なお、ピープルアナリティクスを実施している企業の方がBIツール等、高度な分析ツールを整備している割合が高いです。
現在、普段使い慣れている表計算ソフト・データベースソフトしか用いていない企業や病院等の組織は、将来を見据えて、BIツールなどを導入することは組織運営上有効な投資であると考えられます。
※BI(ビジネスインテリジェンス)ツール:企業が持つ様々なデータを分析・見える化すること で、経営や業務に役立てるソフトウェア
出所: 「ピープルアナリティクスサーベイ2022調査結果(速報版)」pwcに基づき、筆者編纂
③データ整備機構の構築状況
データレイク※などのデータ整備機構について、「すでに構築し、活用している」あるいは「現在構築中または構築予定」と回答している企業は66%に達しており、もはや、構築していて当たり前な水準になりつつあると言えます。
一方、大学病院においてもデータ整備機構が構築されているのかというと、現状そのようにはなっていません。ですが、近い将来、大学病院等でもデータ整備機構が構築されていく可能性があります。
※データレイク:この言葉の定義については現時点で確立されたものはありませんが、簡単に言えば、組織内に散在する多岐にわたるHRデータ(人材に関するデータ)を1箇所に集めて管理する仕組みです。
出所:「ピープルアナリティクスサーベイ2022調査結果(速報版)」pwcに基づき、筆者編纂
出典:「ピープルアナリティクスの教科書ー組織・人事データの実践的活用法ー」筆者編纂
④人的資本開示への取り組み
近年、欧米の動きに追随する形で、国内でも人的資本を開示しようという流れが高まっています。海外の投資家は、企業が長期的に利益を生み出すには、ステークホルダーのニーズに応えるべきであると考えており、また、ステークホルダーのニーズに応えるには優秀な人材が必要であると考えています。そのため、その企業がどのような人材戦略を持っているかは、その企業へ投資するかの重要な判断材料の一つとなります。こうした背景から海外ではコロナ前から、投資家が企業に要求する形で人的資本情報の開示に関する動きが活発化しており、その影響が日本にも現れはじめています。
ただ、日本において「人的資本に関する情報開示のガイドライン(ISO30414)」が整備されたのは2018年12月と比較的最近のため、pwcの調査でも人的資本の開示に関する進捗状況は、「情報を取得し、開示している」と回答した上場企業が14%、非上場企業は5%と上場企業でも一部に留まっています。しかし今後は国内での人的資本開示の取り組みも浸透していくと予測されます。
なお、この動きについても、一般企業に留まりません。2022年11月8日に開催された「第2回医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」では、病院が公表すべき経営情報として、入院診察収益などの医業収益、医薬品費などの医業費用といった損益計算書に載せるような情報だけでなく、職種別給料及び賞与並びにその人数の職種といった、まさに人的資本そのものの開示も検討されています。このことからも分かるように、人的資本データを開示する流れは、今後、病院等の医療機関にも浸透することが予測され、それに伴って、大学病院等でのデータ整備機構の構築が進展するものと予想されます。
まとめ
2回に渡り、ピープルアナリティクスについて、そもそもピープルアナリティクスとは?に始まり、どんなデータを使い、どのように活用されているかなど、ピープルアナリティクスの全体像を分かりやすく説明してきました。今後、ピープルアナリティクスが企業・医療機関等において、より一般的になっていくことは確かであると思います。
その際、気を付けて頂きたいのは、ピープルアナリティクスによる分析結果はとても重要ですが、それを鵜呑みにするのではなく、人事経験を通じて得た経験や勘と併せて考察することが重要であるということです。人事の方が長年の勤務経験により把握している各組織の特徴や課題というのは、ピープルアナリティクスを行う上で重要な事である、「分析課題の設定」、「分析結果からの考察」などに活かされます。
本記事が読者の皆様のピープルアナリティクスの理解につながり、組織経営の一助になりましたら幸いです。株式会社エピグノでは、ヘルスケア領域でピープルアナリティクスを実現させるために、エピタルHRを提供しています。ピープルアナリティクスでタレントマネジメントの実践に興味を持たれた方はぜひこちらをご覧ください。
おわりに
Epigno Journalでは,これからの医療を支えるTipsを紹介しています.ぜひご覧ください.
出典
- 「HRトランスフォーメーションに対する意識調査(サマリー)」 日本総合研究所
- 「人的資本経営に関する調査について」 経済産業省
- 「第2回 医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」資料2 厚生労働省
- 「ピープルアナリティクスサーベイ2022調査結果(速報版)」pwc
- 「ピープルアナリティクスの“いま”と“これから”」 みずほリサーチ&テクノロジーズ
- 「ピープルアナリティクスの教科書ー組織・人事データの実践的活用法ー」一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 日本能率協会マネジメントセンター