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パワハラ防止法とは?医療・介護施設が対応するべき内容まとめ

執筆者:Epigno Journal 編集部

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2020年6月に施行されたパワハラ防止法。パワーハラスメント防止措置がまずは大企業に義務化され、2022年4月に中小企業に対しても義務づけられました。診療所やクリニックなどの小規模な医療・介護施設も例外ではありません。

パワハラ防止法に罰則の規定はないものの、事業主が対応を怠った場合は加害者とともに賠償責任を問われる可能性があります。さらに、職場環境の悪化による人材の流出や対外的なイメージダウンなどのリスクがあるため、早急な対策が必要です。

特に、医療や介護現場は閉鎖的な環境や患者の命を預かる緊張感の高い業務、不規則な労働時間によるストレスなど、パワハラが起こりやすい条件の多くに該当する職場です。医療・介護施設の経営者自らがパワハラへの理解を深め、パワハラ防止対策を行うことが求められています。

この記事では、パワハラ防止法の概要や医療・介護施設が対応するべき内容について解説します。

パワハラ防止法とは?

パワハラ防止法の概要

2020年6月に施行されたパワハラ防止法(正式名称:労働施策総合推進法)において、事業主に対して職場におけるパワーハラスメント防止措置が義務化されました。

当初は大企業が対象であり、中小企業は努力義務のみでしたが、2022年4月以降は中小企業に対しても措置が義務化されています。医療法人における中小企業の定義は「出資の総額が5,000万円以下、常時使用する従業員の数が100人以下」と定義されており、診療所やクリニックなど小規模な医療・介護施設も該当します(1)。

パワハラ防止法施行の背景

パワハラ防止法施行の背景には、職場でのパワハラ被害が増加していることが挙げられます。

2016年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にパワハラに関する相談を受けた企業は全体の36.3%。企業の3社に1社でパワハラが発生している現状が浮かび上がっています。また、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した従業員は32.5%と、約3人の1人の割合です(2)。

また、医療現場でもパワハラ被害が報告されています。先輩からパワハラを受け続けた看護師が自殺に追いこまれるなどの事例も報告されています。誰もがパワハラの加害者・被害者になりかねない時代であり、「うちの職場は大丈夫だ」「自分には関係ない」と他人事として片づけることはできません。

パワハラ防止法への対応が必要な理由

パワハラが発生した場合、加害者だけではなく必要な対応を怠った事業主にも責任が生じます。先輩からの執拗ないじめや嫌がらせによって看護師が自殺した事例では、病院側がいじめを認識していたにも関わらず、何の対策もしなかった責任を問われています。裁判の結果、病院側がパワハラの加害者と連帯して、損害賠償責任を負うとの判決がくだされました(3)。

また、パワハラ防止法には罰則がありませんが、厚生労働大臣が必要と認める場合は事業主に対して助言や指導・勧告を行うことができるとされています。勧告に従わなかった場合、企業名や事案の概要を公表できることも明記されており、社会的なイメージを損なう恐れもあるでしょう。

また、人材面への影響も避けられません。被害者本人が精神的・肉体的な苦痛を受けて休職・離職するだけではなく、職場の雰囲気にも悪影響をもたらします。従業員の意欲や生産性の低下、離職者の増加などのリスクもあるでしょう。

このような企業にとっての不利益を防ぐため、医療・介護施設の経営者はパワハラ防止の具体的な取り組みを行うことが必要です。

パワハラの定義

 

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パワハラ防止措置を行うために、まずは事業主自らがパワハラについて理解を深める必要があります。

パワハラ防止法における定義

職場におけるパワーハラスメントについて、パワハラ防止法では次の3つの要素を全て持ったものと定義しています。

  • ①職場における優越的な関係を背景とした言動
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  • ③労働者の就業環境が害されること

①職場における優越的な関係とは、医師と看護師、先輩と後輩などの職場の地位や能力の差による上下関係が基本です。しかし、業務に必要な協力が得られない場合などは、同僚や部下の言動が該当する可能性もあります。

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものについては、言動の目的や期間、当事者の関係性などに基づいて客観的に判断されます。

③労働者の就業環境が害されることについては、平均的な労働者が同じ言動を受けた時に能力を発揮できなくなるほど深刻な影響があるかどうかが判断基準です。

ちなみに「労働者」とは正規雇用労働者だけではなく、契約社員やパートタイム労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者も含まれます。

パワハラに該当する6つの行為類型

厚生労働省のパワハラ方針には、以下のようにパワーハラスメントの6つの行為類型が掲載されています(4)。

行為類型 具体例
1、身体的な攻撃 殴る、蹴る、物を投げつけるなどの暴行・傷害
2、精神的な攻撃 人格を否定する言動・暴言・侮辱・名誉毀損
3、人間関係からの切り離し 隔離・仲間外し・無視
4、過大な要求 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5、過少な要求 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる・仕事を与えない
6、個の侵害 私的なことに過度に立ち入る

具体的には「ミスした後輩を同僚や患者の前で何度も厳しく叱責する」「旅行のために年次有給休暇を取得した看護師に行先や宿泊先をしつこく尋ねる」などもパワハラに該当する可能性があります。

パワハラ防止法で対応するべき内容

医療・介護施設の経営者が事業主として、どのようなパワハラ対策を行うべきかを解説します。

事業主の方針等の明文化及び従業員への周知・教育

まずは、医療・介護施設としてパワハラの内容やパワハラを行ってはならないという方針を定める必要があります。就業規則などで明文化し、違反した場合は懲戒事由になることも規定します。

就業規則の規定例については、厚生労働省のモデル文を参考にしてください(5)。

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第◯条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

規定した後は、従業員への就業規則の周知を十分に行いましょう。

合わせて、パワハラ発生の原因や背景、具体的な事例について従業員が理解を深めるための研修や講習を実施することも必要です。厚生労働省が従業員向けの研修動画の配信や講習用の資料配布を行っているので、活用してください。

相談に応じ、適切に対応するための必要な体制作り

従業員がパワハラについて安心して相談できる体制を整備することも、事業者としての義務です。

相談の窓口を定め、その連絡先を従業員に周知します。内部対応のみでは秘密の漏洩や事案揉み消しの恐れもあるため、外部機関への相談窓口の委託を検討しても良いでしょう。

また、相談窓口の担当者がパワハラの内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすることも重要です。相談を受ける時の注意点などを記載したマニュアルを用意し、適切な対応ができるような研修を行います。人事担当者と連携できるような仕組み作りも怠らないようにしてください。

パワハラ発生時の迅速な対応と再発防止

実際にパワハラが発生した時にすぐさま適切に対応し、再発防止策を講じることも求められます。

①事実関係を迅速かつ正確に確認する
相談があった場合、相談窓口の担当者と人事担当者が事実関係を確認するために相談者と行為者の両方から話を聞きます。主張が食い違う場合は、第三者からも話を聞くなどして正確な事実確認に努めます。

組織内で確認が難しい事案では、外部の第三者機関に協力を依頼することもあります。

②被害者への配慮を行う(パワハラの事実が確認された場合)
パワハラの事実が確認された場合は、被害者への配慮を速やかに行います。

被害者がパワハラによる身体的・精神的な苦痛から解放され、職場で適切に能力を発揮できるような措置が必要です。被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者から被害者への謝罪、被害者のメンタルヘルスケアなど、個別の事例に合った対応を行います。

③行為者への処分(パワハラの事実が確認された場合)
パワハラの行為者(加害者)には就業規則に基づいた懲戒処分を行います。また、被害者に対する適切な謝罪や関係の改善ができるように指導も必要です。

④再発防止対策
パワハラの相談があった際は、パワハラの事実が確認できてもできなくても再発防止対策を講じます。

パワハラに関する方針を定めた就業規則の配布やパワハラ研修・講習を改めて実施することで、職場におけるパワハラ防止への意識を高めるようにしてください。

プライバシーの保護と不利益な取り扱いを防ぐ体制の整備

パワハラの対応に当たっては個人のプライバシーや処遇にも配慮できるような体制づくりも必要です。

①相談者や行為者のプライバシー保護

パワハラに関する相談は、相談者や行為者のプライバシーに深く関わるものです。従業員が安心して相談できるように、相談内容がむやみに外部に漏れることがないような対策が求められます。具体的には、プライバシー保護に必要な事項を予めマニュアルに記載し、担当者にも研修を行います。


②パワハラ相談したことによる不利益を被らない体制整備

解雇や降格などの不利益を被る恐れがあっては、労働者がパワハラ相談をすることは困難です。就業規則には不利益な取り扱いを行わないことを明文化し、労働者にも周知を徹底するようにしましょう。


まとめ

今回はパワハラ防止法の概要と医療・介護施設としての対応するべき内容について解説しました。

パワハラ防止への取組は小規模な企業ほど進んでいないのが現状です。しかし、パワハラ対策に取り組むことは、職場の士気や生産性の向上などパワハラ防止以外にも効果があることが報告されています。

他業種に比べて閉鎖的な環境である医療現場は、旧態依然とした考え方が根づいている場合も少なくありません。だからこそ、事業主である医療・介護施設の経営者がパワハラについての理解を深め、体制を整備した上で、従業員への周知・教育を行うことが大切です。

とはいえ、パワハラ防止にはさまざまな対策が必要なため、医療・介護施設の内部だけでは対応が難しいことも出てくるでしょう。困った時には、弁護士や社労士の専門家に相談することも選択肢のひとつです。必要に応じて外部機関の力を借りながら、早急にパワハラ防止対策を行うようにしてください。

おわりに

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出典

(1)医療法人に関する中小企業の範囲について
  (厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
   https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/000430764.pdf
(2) パワーハラスメント対策労働マニュアル第4版(厚生労働省) 
   https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/pwhr2019_manual.pdf
(3)あかるい職場応援団(2022/6/8閲覧)
   https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
(4)職場におけるハラスメント関係指針(厚生労働省)
   https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/harassment_sisin_baltusui.pdf
(5)モデル就業規則(厚生労働省)
   https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf

 

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