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VUCA時代に医療者が持つべきストレスを力に変える方法~折れない心を作る「レジリエンス」とは~

 

現代は「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれ、あらゆるものを取り巻く環境が複雑化しています。VUCA(ブーカ)とは「予測困難な状態」を意味し、まさに今、数々の困難を乗り越えなければならない社会にあるのではないでしょうか?そのためにも折れない心をつくる「レジリエンス」を備えておくことが必要だと言われています。

 

そして近年はレジリエンスを高めるための研修やトレーニングが増えています。

レジリエンスとは「回復力」「弾性」といった意味合いがあり、跳ね返す力として用いられています。つまり、なにか大きなストレスやショックに直面した際に、それらを跳ね返してうまく対応できる能力をいいます。

 

現在、ストレスの多い労働環境や条件のもとで働く医療、介護者にとってレジリエンスは欠かすことができません。

 

今回は、折れない心をつくるレジリエンスを高めるためにはどのような方法が有効であるのか、レジリエンスの解説とともにご紹介します。

レジリエンスとは

レジリエンスはもともと物理的学用語として使われていました。それはある物体が外側からの圧力によって変形したときに、元に戻ろうとする力、つまり反発力や弾力性をいいます。近年は心理、社会、医療分野などで広く使われるようになりました。

 

米国心理学会では「逆境や困難、強いストレスに直面したときに適応する精神得欲と心理的プロセス」と定義されています。個人差はありますが、レジリエンスは本来誰もが持っている特性です。

 

大きな困難やショッキングな出来事に遭遇すると気力を失ってしまったり、悲しみに打ちひしがれたり、心が折れてしまうことがあります。レジリエンスはそういった状況でも、乗り越えられる強い精神的な回復力を持ち、生き抜いていく力です。

心が折れてしまうわけ

医療、介護現場は常にストレスフルな状況です。ミスが許されない緊張感や責任感の中、多忙な業務に追われています。感情までもすり減らしながら、人に尽くしていくことでバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥ってしまう人も少なくありません。

 

それは精神的なものだけではなく、肉体的にも疲労が蓄積することでパフォーマンスが低下し、モチベーション、エンゲージメントの低下が起こります。こうした悪循環は、インシデント、アクシデントの原因にもなり、さらにネガティブな感情を生み出します。

 

ポジティブ心理学の第一人者マーティン・セリグマンは、自分自身の行動により、抵抗も回避もできないストレスにさらされ続けることで、ストレスを回避する意欲が失われてしまう「学習無力感」を1967年に発表しました。

 

人は大きな失敗に直面するとパニックに陥り、物事を冷静に考えることが難しくなります。その後にあらわれてくるのが、不安や恐れ、羞恥心、罪悪感など、ネガティブな感情です。医療や介護の世界は失敗が許されない職種であるからこそ失敗への恐れは大きく、自責の念に駆られてしまうことがあります。

 

こうした経験が重なってしまうとストレスを回避できなくなり、意欲を失ってしまうのです。また、こうした無力感は離職につながるリスクがあると言われてます。

折れない心をつくるレジリエンスの高め方

レジリエンスは特別のものではなく、誰もが持っているものです。しかし、筋肉と同じく鍛えていくことで身につくものともいわれています。ではレジリエンスを鍛えるためには、どのような要素が必要なのでしょうか。

感情のコントロール

レジリエンスを鍛えるためには、まず落ち込む原因となるネガティブな感情に対処することです。それは感情に蓋をするのではありません。感情を表に出すことを良くないと考えている人は多くいますが、その感情をいつまでも押し殺したままで蓋を閉め続けてしまうと、そのことが当たり前になってしまい、自分を見失ってしまう場合があります。

 

とくに医療者は感情労働であるため、バーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすいといわれています。心が疲弊しないためにもネガティブな感情にとらわれないよう、感情をコントロールする必要があるのです。

 

例えば、乱れた感情を言語化して,今自分がどんな気持であるのかを可視化してみると別の感情が隠れていることがあります。怒りとしては表出しているものの、その背後には羞恥心や、困惑が原因になっていることもあります。

 

感情は一つだけでなく、いくつも絡みあっています。イライラした怒りの原因を探ってみると意外なヒントが見つかるかもしれません。こうした感情を探っていくことで自己理解にもつながり、感情の変化に対処がしやすくなります。

自己効力感の向上

自己効力感とは、何らかの課題に直面した際、自分なら解決できるという自信への期待を指します。自己効力感が高い人は、うまくいかない場面に直面しても諦めたり、くじけたりすることなく、継続して行動することができるといわれてます。

 

その逆境に打ち勝ち、努力することで乗り越えることができ、そのことが新たな自信やモチベーションを生み出します。そして意欲的な行動をし続けることが可能です。

自己効力感を身につける4つのポイント

➀成功体験

自ら設定した目標を達成、成功するといった実体験を繰り返すこと。高すぎる目標ではなく、小さな成功体験を積み重ねて「できる」という自己効力感を自分にすり込んでいく。

②他者からの励まし

励ましの言葉や評価をもらうことが自信につながる。

③代理体験

自分がやろうとしていることを、近しい人が成功したことで「じぶんでもできるかもしれない」という自信を生み出す。

④ポジティブな感情

自分の気持ちが高まるような行動を起こす。

自己効力感

強みを知る

レジリエンスの高い人、低い人との違いは、自分の強みを理解しているかという部分だといいます。「自分には強みがない」と思う人は少なくありませんが、それはまだ自分の強みを理解していないだけであって、全ての人に強みはあるといわれています。

 

しかし、他人の長所や短所を発見することは簡単にはできますが、自分のことになると難しいと感じる人は多くいます。その理由の一つは、自分の「強み」が当たり前であるという認識のため、発見しにくいからといわれています。

 

強みを発見する方法は様々ありますが、まずは得意分野や、ワクワクするようなことがあるか自分に問いかけてみます。また、周囲の人に聞いてみることで、自分自身の盲目となっている部分を発見しやすいといわれています。

 

自分の強みを活かせるようになると、仕事への充実感がありストレスを感じにくくなるので、レジリエンスが高くなるということが分かっています。やらされているのではなく、主体的にやりがいを持って取り組むことができるようになるとレジリエンスを高めるだけでなく、幸福感を高めることにもつながるといわれています。

 

逆境を経験し再び立ち直るには、自分自身の事を理解し、味方になってくれる人の存在が欠かせません。

 

レジリエンスの研究によると、落ち込んだ時の立ち直りが早い人ほど、周囲の人が心の支えとなっていることが分かっています。そのため、困難やストレスに直面したとき、1人で立ち向かうのではなく周囲からのサポートが必要になるのです。

 

また、人との親密な関係は幸福感に繋がっていることが科学的にも証明されており、孤独を感じるほど幸福感が下がることも分かっています。つまり、人は周囲に相談ができる環境であるかどうかで、原動力となるモチベーションが左右されるのです。

医療者に求められるレジリエンス

医療、介護施設の仕事をめぐるエビデンスやアプローチの変化は大きくなっており、そのスピードは速くなりつつあります。現場の管理を担う管理者は求められている役割も多くなっているため、心が折れそうになるほどのストレスやプレッシャーに直面することも。

 

そのためには、個人のレジリエンスの向上だけではなく、組織全体のレジリエンスを鍛えていく必要があります。

 

レジリエンスの高い組織、チーム作り

一人ひとりのレジリエンスを鍛えることはもちろん大切ですが、組織全体のレジリエンスは短期間で鍛えられるわけではありません。そこには、日頃からのコミュニケーションで連携を取り合うことでも養われます。

 

先に述べた,「自己効力感の向上」、「周囲からのサポート」、「強みを知る」ことの実現のため、管理者はスタッフの言動や態度に注意しながら、サポートできるような体制をつくることが大切です。

 

例えば、相談しやすい場所や時間を分かりやすく提示してみたり、意識的にスタッフに声をかけたりします。困りごとや求める支援は個々に違いがありますが、どんな些細なことでも言い出せる場、いわゆる「心理的安全な場」を提供することが生産性の高いチーム作りとして必要だといわれています。


逆境を乗り越える

まとめ

今も昔も変化のない時代はありません。管理者はつねに変化の多い中で対応し続けていく必要があります。そのため、社会情勢の大きな変化に対応できるよう、ストレスを乗り越える力が求められるようになります。レジリエンスは鍛えることができるため、まずは折れない心をつくるためのスキルを身につけていきましょう。

おわりに

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出典

(1)久世浩司著 . レジリエンスの鍛え方 . 実業之日本社 , 2014

(2)カレン・ライビッチ、アンドリュー・シャテー著. レジリエンスの教科書. 草思社. 2015

(3)田辺有理子著. ナースのためのアンガーマネジメント. メジカルフレンド社. 2019

目次

    執筆者について

    中澤 真弥
    中澤 真弥
    看護師ライター.群馬県在住.フリーランスの看護師として働きながら,ライター,看護師ライター育成,大学,専門学校等で教員,講師など幅広く活動.また自らの経験を元に,看護師のワークライフバランスや働き方改革などについて発信中.著書『看護の現場ですぐに役立つ循環器看護のキホン』(秀和システム) ほか4冊.